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架線事故と猛暑

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(写真:アフロ)

昨日(4日)、東京では暑さの新記録が誕生しました。

最高気温が35.1度まで上がり、先週金曜日から5日連続で35度以上の猛暑日となったのです。

東京の気温は昨年12月から北の丸公園で観測されるようになりましたが、北の丸はこれまでの大手町より、0.3度ほど低めの数値が出ることなどを考慮すると、今回の記録は突出しているといえるでしょう。

日を同じくして、夕方7時頃、大きなニュースが飛び込んできました。JR京浜東北線の横浜・桜木町間で架線が断線し、通勤客と花火大会の見物客など35万人の足に影響が出ました。

この記録的な都心の高温と、架線断線には、何か関係があるでしょうか。

架線の断線と暑さの関係

架線とは、列車に電力を供給するために、電車の上部に張られた電線のことを言います。架線は略称で、正式名称は架空電車線です。高い電圧が流れているため、人がまともに接触すると死に至ることがあります。

また、気温の変化や通電による温度上昇で、伸縮する性質があります。このため、暑さで弛んだ架線が原因で、電気が供給されなくなった例がいくつかあります。

1990年5月、東京で暑さのために架線が垂れて、都電がストップしました。

また、2012年7月鹿児島市でも、市電が止まるという事故が起こりました。その原因も、暑さによってたるんだ架線です。そこにパンタグラフ(架線から電車に電気を取り入れるための装置)が接触したために、架線が損傷しました。

さらに、同じく2012年7月にはイギリスでも、高温のために架線が伸びて垂れ下がったことがありました。このため、オリンピック会場に向かう電車に影響が出たのです。

いまのところ、今回の事故はまだ原因不明とのことです。しかし、事故現場である横浜でも、昨日までの12日連続で33度以上の高温が続いており、その間雨も降っていません。この暑さで熱が架線に蓄積し、架線がたるむなど、なんらかの事故の引き金になったということは、ありえない話ではないでしょう。

暑さによる事故の懸念

ところで先日調布で起きた、軽飛行機墜落・炎上の事故も、暑さが一因と見られています。気温が高いと、空気密度が小さくなり、航空機が空気を押し出す力(揚力)が弱くなります。したがって気温が高いと、長い滑走距離が必要になるのですが、今回は十分な助走距離がなく、積載重量も守られていなかったことなどが、大事故につながった可能性があるようです。

また、暑さが原因で車が自然発火する事故が起きたり、線路が曲がって電車が脱線したこともあります。乗り物は意外に暑さに弱いようです。

さらにいえば、我々人間自身が、暑さによって正確な判断が出来なくなることもよくあります。マイケル・ダグラスの「フォーリング・ダウン」という映画がありますが、この映画は車の運転中、暑さによるフラストーレーションから、小さなミスを重ねていきます。そして最後は人生を棒にふるような事件に巻き込まれていってしまうのです。

今回の猛暑は、少なくとも今週いっぱいは続きそうですので、くれぐれもご用心下さい。

※ 東京では、今日(5日)も正午前に35度に達し、猛暑日の連続記録を更新しました。

※ タイトル一部変更しました。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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