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女性ハリケーンは凶暴・カトリーナから10年

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
上陸直前のハリケーン・カトリーナの衛星写真。NOAA

ちょうど10年前の8月29日。史上最悪のハリケーンがアメリカを襲いました。

ハリケーン・カトリーナがアメリカに上陸し、猛烈な風雨と大規模な高潮によって、南部の街を壊滅させたのです。死者・行方不明者は2500人を超え、また経済的損失は1000億ドル以上にも及び、これは全米のハリケーン史上最大の被害額となりました。

ハリケーン・カトリーナ、発生〜上陸まで

カトリーナの経路図。NOAA
カトリーナの経路図。NOAA

8月25日に発生したカトリーナは、メキシコ湾で急速に発達し、28日には、ハリケーンとしては最大規模の、カテゴリー5(風速70m以上)にまで勢力を強めました。中心気圧は902hPaまで降下したのです。

北上してやや弱まったものの、29日朝、中心気圧920hPa(カテゴリー3)のハリケーンとして、ルイジアナ州に上陸しました。上陸時の気圧は、この地域のハリケーンとしては史上4番目に低いものとなりました。

(カトリーナの雲の動画はこちらから見られます)

ニューオーリンズの惨禍

NOAA
NOAA
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最も被害が大きかったのは、ジャズで有名な、ルイジアナ州ニューオーリンズでした。大雨と高潮により、この街の80%が水没したのです。

この街で被害が大きくなった理由は、「スープ皿」という異名もあるほど、海よりも低い土地であったこと。また、貧困層が多く、住宅が簡易で風雨に弱かったことや、車がないために避難できない人々が大勢がいたことです。

そして、堤防がきちんと整備されていなかったために、強風によって河川が一気に氾濫しまし。追い打ちをかけるように、政府による救助活動も遅れ、また台風が去った後も、暴動・盗難事件などが相次いだことによって、精神的苦痛で亡くなった方もいました。

こうした事情に加え、”ある意外な理由”もまた、被害拡大につながった可能性があるのです。

女性ハリケーンは凶暴!

カトリーナのように、ハリケーンには人の名前が付けられています。昔は女性名だけでしたが、男女平等の観点から1979年以降は、両方の名前が交互に付けられています。

それに関して、こんな興味深い研究があります。

過去のハリケーンの記録から、女性名のついたハリケーンは男性名よりも、2倍も死者数が多かったことが分かりました(カトリーナ等は除いて考慮)。

そしてその差がより顕著だったのは、特に男性らしい男性名と、女性らしい女性名を比較した場合です。結果、特に女性らしい女性名の方が、3倍も死者が多かったというのです。

なぜでしょうか。

研究者はその理由を、「暗黙の性差別」だと指摘します。人々は名前による印象から、無意識にハリケーンの強さをイメージし、それによって対応を変えるのだといいます。確かに、ハリケーン「ゆうじろう」の方が、ハリケーン「さやか」よりもずっと強そうな気もして、しっかり身構えるような気もします。

今後女性らしい名前のハリケーンが現れた場合でも、どうか名前に惑わされず、十分な備えをしてほしいと思います。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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