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デング熱流行は冬まで続く

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
代々木公園の注意書き(9月8日)
代々木公園の注意書き(9月8日)

9月11日、デング熱の感染者がとうとう100人を超えてしまいました。いつになったらこの流行はおさまるのでしょうか。

先週の土曜日、内科医で気象予報士の資格も持つ方にデング熱についてお話を伺う機会がありました。その先生がおっしゃるには「冬までおさまらないのではないか・・・」ということでした。

その大きな根拠は都市気候です。デング熱を媒介するヒトスジシマカ(いわゆるヤブ蚊)は、国立感染症研究所の調査によると、1950年代は北関東が分布域の北限でした。

それが2010年には青森県の八戸で生存が確認され、明らかに分布域が北に広がっています。

ヒトスジシマカは、年平均気温が約11℃以上になると、定着が可能とされています。

生存可能温度は16度くらいと言われていますから、寒くなると卵のままで越冬し、暖かくなると孵化して活動を始めます。一匹の成虫は一か月くらい生きているようで、その間に人の血を吸って(メス)産卵します。

ヒトスジシマカの場合、水たまりが少しでもあれば産卵孵化が可能なので、池の水を抜いたところで、根本的な対策にはなりません。また暖かければ、冬でも成虫でいられるわけですから、十分人を刺すことはありえます。

昔は秋の蚊は弱々しいので、「哀れ蚊(あわれか)」と言って俳句の季語にもなっていますが、現代は秋でも彼らは刺しまくります。

とくに東京では 、冬でも地下街や地下鉄の排気口付近、さらにビルの中や駐車場内は20度前後もありますから、(繁殖は無理としても)生きていられるという事になります。

つまり東京の都心は、いまや都市気候によって亜熱帯の生物が住める環境に変わって来ているといえるでしょう。

ところで9日の火曜日に、千葉で初めて感染者が確認されました。

ウィルスの型から代々木公園と同じ種類と確定しましたが、ヒトスジシマカは、半経50~100メートルくらいしか活動範囲がないといわれています。ではなぜ40キロ以上も離れた場所に代々木公園と同じ感染蚊がいたのでしょう。

電車や車などで人に付いて移動したとの説もあるようですが、私は風によって運ばれたと推測しています。

もし蚊が風に乗ると仮定すると、代々木から千葉に向かうには西寄りの弱い風が数時間吹いていないと行けません。しかも蚊は夕方から夜に活動することが多く、移動中に雨が降っていないことも条件です。

また感染者は9日に発症していますから、潜伏期を考えるとその3~4日前の気象が重要です。

これらの条件を踏まえて気象状況を見直すと、なんと9月5日(金)の夜から、6日(土)の明け方にかけて、西~西北西の風が2~4メートル前後で吹き続けていました。

風速3メートルは、時速10キロです。この風に乗れば、感染蚊はわずか4時間で千葉に到達することができます。

ニュース報道では、ヒトスジシマカが風に乗って移動するという視点が欠けているように思います。したがって、現場だけの消毒に躍起になっているように見受けられますが、個人的には防虫剤の大量散布は、他の生物環境に悪影響を及ぼすと考えています。

もし蚊が風に乗って移動することが証明されれば、代々木公園以外での感染者の多発も理由がわかることになります。いずれにしろ今回のデング熱の流行は、都市気候や温暖化リスクというものの具体的な現れでしょう。

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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