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高校ラグビー界に新たな「小兵伝説」 新潟発、156センチの主将が選抜大会で躍動【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真前列中央が鷲尾。小学校時代は器械体操をしており、動きはしなやか。

背番号「6」の臙脂色ジャージィは、本日も際立っている。大会公式パンフレットによれば、身長は「156センチ」。参加選手中、最も低い背丈である。

鷲尾裕也。誰よりも小さく、チームでは主将(キャプテン)を任されている。

3月31日、強風が生暖かくなった埼玉県は熊谷ラグビー場である。高校楕円球界における春の日本一決定戦、全国高校選抜大会は予選グループの試合が続く。

長崎北高校と激突するのは、雪解け間もないグラウンドからやってきた新潟工業高校。その先頭に立つ「6」の働き場はフランカーだ。ぶつかり合いが必須なフォワードの一角である。新発田ラグビースクールなどで競技経験のあった鷲尾を見て、指導陣は技術や走力を問われるバックスへのコンバートを検討した。しかし、本人が譲らなかった。

南半球最高峰であるスーパーラグビーの前年度王者、ワラタスには、マイケル・フーパーというフランカーがいる。ベースボール・マガジン社発行の『ラグビーマガジン』4月号の付録「スーパーラグビー観戦ガイド」で「サイズ覆す粘り強い突進と(以下省略)」と小兵の扱いを受けるこの人とて、「182センチ」なのだ。

こちらは日本の若年層の大会ではあるが、160センチに満たぬ男子のフランカーはただそれだけでニュース価値を持っていよう。

かねて知られた存在だった。

2014年12月28日、生駒おろしの吹く大阪は近鉄花園ラグビー場。前年度の冬の全国大会の2回戦で、2年生だった鷲尾は持ち味を発揮している(ちなみに、当時の公式サイズは157センチだった)。

19―22と3点差を追う後半20分。新潟工業高校のフォワード陣が複数人の塊であるモールを組むと、その脇から飛び出した背番号「6」が小柄な身体を相手の膝下まで落として直進する。ラック。勝ち越し点を演出した。試合終了3分前の27分にも、やはり相手の視界から消えてのコンタクトでだめ押しトライを決める。ノーサイド。熊本の荒尾高校を33―22で制したのだった。

なぜ、前に出られたのか。

なぜ、ラグビーを始めたのか。

なぜ、そのサイズでフォワードをしているのか。

報道陣から浴びせられる質問に、ヒーローは張りのある声で返していた。

「サイズが小さいぶん、低いプレーで相手に触れさせないようにする。相手の足首をめがけて当たることを意識しています。自分はもともと気が荒いタイプで、それを身体のぶつかり合いで活かせると思ってラグビーを始めました。ラグビーは身体を当ててこその競技で、ラグビーといえばやっぱりフォワードだと思う。小さくてもフォワードでがんばれるんだというのを、見せたかった」

多少は、やんちゃだったのだろう。「気が荒い」の具体例を問われると、「まぁまぁ」と言葉を濁した。「66キロ」の公式体重は、高校入学後の約2年間で「肉とご飯、重いものを中心に食べて」10キロほど増やした結果だという。

「身長は中学校に入ると全然、伸びなくなって。早く寝たり、ご飯をいっぱい食べたり、亜鉛とかカルシウムをいっぱい摂ったりはしたんですが…。ラグビーは楽しいし、自分の身体を鍛えられる。高校を出た後も、どんな形でもいいから続けていきたいです」

さて、熊谷での選抜大会初戦。新潟工業高校はボールを散らしながら要所でモールを組み、押し、ゲームを支配した。

主将の鷲尾も後半7分、保護者や関係者が座るスタンドを十分にざわつかせた。

敵陣22メートル線付近右で再三、パスをもらって突進を図る。

「1人でも多く相手を巻き込んで、レッグドライブ(足を掻く動き)をして前に」

味方がモールを作るとその最後尾にくっつく。

「ボールをキープ。トライラインの近くへ行ったらモール、と」

そのまま、止めを刺す。13-10と逆転した。この日、背番号「6」は2度、インゴールを割り、28-17での勝利に貢献する。

着替えを済ませ、即席インタビューを受けるのだった。

――まず、試合を振り返ってください。

「後半から、去年やっていたようにフォワードが順目(攻撃方向)に走るアタックを採り入れていました。あとは、フォワードのモールを起点に攻め続けました」 

――主将就任の経緯は。樋口猛監督曰く、「卒業生、現部員とも満場一致で決まった」と。

「自分がやりたいと言って、なりました。小さくてもキャプテンができるんだ、と証明したい。ただ一番の思いは、チームをまとめてベスト8以上まで行きたいというものです。雪が降っていて外のスポーツがあまり盛んじゃない新潟からでも、どんどん挑戦する。競った試合で勝つ。何と言うのか…。全国に、自分たちが新潟工業にいるんだということを見せたいです」

花園での活躍は新聞紙上などでも取り上げられ、本人の周りでも相応の反響はあったという。「中学時代のあまり関わりのない友人」に声をかけられたり、世話になった新発田ラグビースクールのコーチ陣から褒められたり。

小さい選手として活躍し、注目される。かような実体験から、自分がただグラウンドに立つだけでメッセージを与えうる存在なのだということを認識しつつある。

「真正面から大きい人と当たっても、負けるのがほとんど。でも、気持ちがあれば全国でも戦える、と。この年なんで、背を伸ばすのは難しい。空いているところ、空いているところへ、他の選手よりも走っていきたいです」

選抜大会の予選リーグでは、神奈川の桐蔭学園高、奈良の天理高とも同じグループに入っている。この先の相手は、どちらも強敵である。

「大会を通しての目標は、自分たちのやってきたラグビーを全国レベルで挑戦すること。1勝でも多くして、どれくらい通用するかを確認して、それを花園に繋げたいです」

チームリーダーとしての立場からこう宣言した鷲尾。個人としても、「自分のラグビー」で生き様を現したい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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