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ラグビーの魅力って、何ですか?【Rugby! 知恵袋】

向風見也ラグビーライター
「ラグビーの聖地」である秩父宮ラグビー場。秩父ではなく東京の外苑前にあります。

Q1:ラグビーをよく観に行きます。一緒に観に行く友達を探したいのですが、何と言って誘えばいいかがわかりません。ラグビーの魅力って何でしょうか?

Q2:ラグビーの魅力って何でしょうか? ある試合をテレビで観たのですが、ルールが難しくてよくわかりませんでした。(実際、本家の「Yahoo! 知恵袋」にあった質問の内容を一部変更して使用します)

A

一言で表せば「多様性」だと思います。格好をつけたい時は「バリエーション」とか「バラエティー性」と答えております。

1チームあたり15人がいっぺんに試合に出ていますが、小柄な選手、足の速い選手、背の高い選手、どっしりとした選手と、それぞれの個性は多岐にわたります。どんな特徴を持った人にも、それに見合った役割が与えられます。

いまの日本ラグビー界でプレーするなかでもっとも背の高い選手は、神戸製鋼のアンドリース・ベッカー選手です。208センチ。あのジャイアント馬場より1センチ、小さいだけです。

ラインアウトという空中戦で軸になっているのはもちろん、地上戦でも力を発揮します。豊かなスピードを誇り、密集戦では重心を低い当たりを繰り出します。本人は「低くなることは問題ない。ただ、起き上がるのが大変なんです」と話してくれたことがあります。

パナソニックでプレ-する田中史朗選手は、日本でいちばん最初にスーパーラグビー(南半球最高峰リーグ)に挑戦した童顔の30才です。

166センチの身長で「足は遅いし、パスは苦手」(本人談)なのに、競技がさかんなニュージーランドのハイランダーズというチームで3年連続での契約を勝ち取っています(日本のトップリーグとシーズンが重ならないため、2つのチームでプレーできます)。

取材をさせていただくと、試合の構造への理解力、目の前の情報をもとにベストなプレーを選ぶ瞬時の判断力に命を注いでいることがわかります。

――あなたの長所は。

「スペースを見つけて、そこへ(味方を)走らす」

選手の選手としての特性が十人十色であると同時に、選手の人間としてのキャラクターも十人十色です。

いま、日本で最も多くのテストマッチ(国同士の真剣勝負)に出ている大野均選手は、福島県郡山市にキャンパスがある日大工学部のラグビー部でこのスポーツと出会いました。

部員数は20名前後を推移するチームで「先輩が引退して空いたポジション」を順にこなしているうちに、名門の東芝からスカウトされます。入部テストとして参加した練習では、最初に肩を脱臼したのを言い出せずに最後まで身体をぶつけ、合格を勝ち取っています。

「ひとつのプレー、ブレイクダウン(密集)に全力で」と言い続けており、恐ろしいほどよくお酒を飲みます。

コアなラグビーファンのほとんどが、大野選手のファンだと推察されます。

日本で最も人気があるであろう早稲田大学のラグビー部の4年生には、藤田慶和選手がいます。

大阪の花園ラグビー場で行われている全国高校ラグビー大会(野球で言う「甲子園」に近い位置づけ)で活躍した走り屋。小さい頃から、海外に憧れを抱いています。

「いい例外を作りたいんですよね」

スーパーラグビーのクラブとの契約を勝ち取りつつ、日本の大学を4年以内で卒業したいと話していました。

青年誌の漫画の主人公のような人生を歩んできた36歳(まもなく37歳)と、少年誌の漫画の主人公のようないまを生きる21歳は、同じ日本代表のチームメイトです。

個性について寛容な点は、国代表への参加基準にも表れています。

統括団体のワールドラグビーが定めている、一国の代表になれる条件。それをかいつまんで説明すると「その国で3年以上プレーした、他国代表になったことのない選手」となります。

国籍とは無関係です。

その場所で生まれ育った人でも国籍を理由に参政権を得られない国があることを考えると、実に大らかなルールです。

どこの国代表チームにも大抵、外国人選手がいます。

逆に、日本のような極東の島国ではしばし「日本代表になぜ外国人がいるのか」「感情移入できない」などの意見が出ます。この点については、またの機会にお伝えします。

ただ、ひとつ言えるのは、いまの日本代表の主将であるリーチ マイケル選手は、悩んだ末に日本国籍を取得した26歳だということです。

北海道の札幌山の手高校の頃から日本でプレーし、「日本人はずっと同じ練習を繰り返す。それがかえってよかった」と話しています。東海大学、東芝(さきほどの大野選手のチームです)でキャリアを積み、いまはスーパーラグビーのチーフスでもプレーしています。生まれ育ったニュージーランドのチームに「外国人として」(本人談)加入し、レギュラーを勝ち取っています。

「日本に外国人への差別はなかったか」という質問には、「日本人は優しいです。初めて東京に出て電車の乗り方がわからなかった時、どこかの学生が親切に教えてくれた」と答えています。

ラグビーは多様性のスポーツ。試合の流れを追いかけても、そう感じ取れます。

身体の大きな選手ががしがしぶつかり合う格闘技的なシーンがあれば、パスやキックを綺麗につながる球技的な愉しさも観られます。

なかでもボールを持った相手を止める「タックル」というプレーは、各所で「ラグビーの命」と言われます。

上背の低い選手が大男をタックルで仰向けにするさまに、ぞくぞくする方は決して少なくありません。

東海大学に身長175センチの藤田貴大というフランカー(たくさんタックルする力が求められるポジション)がいますが、ある社会人チームのトレーニングに体験参加すると、所属する190センチ台の外国人に次々とぶっ刺さっていました。

練習後、その外国人とシャワーを浴びた某日本代表選手は、「うちにはああいう人が必要だ」と振り返ったそうです。

「ああいう選手が」ではなく「ああいう人が」です。

攻防を支える各チームの戦略にも、多様性があります。テレビ解説者のなかには、その意図を理解して伝えてくれる方がいます。

昨季の日本選手権を制したヤマハは、「A.強力なセットプレー(スクラム、ラインアウトなどといったプレーの起点)」「B.振り子みたいに球を左右に振る攻撃」「C.2人がかりのタックルを軸にした守備」を特徴としています。

高校球児のご子息も話題の清宮克幸監督が就任して以来、4年間、「ヤマハスタイル」を構築してきました。

都心から離れた静岡県磐田市をホームグラウンドとし、日本人選手は社員のみ(2011年度以来、日本人選手とのプロ契約はしていません)。各大学のスター選手の採用にはどうしても難儀するなか、まず指揮官は、どこにも負けない強みの創出を試みました。

世界のラグビーがセットプレー重視に傾く前の2011年(就任直後)に、右腕の長谷川慎コーチをフランスに「スクラム留学」として派遣。翌年の春にはフォワード(スクラムを組むポジションの選手)だけで渡仏しました。この先に「A」が待っていました。

その延長線上で、プレイングアドバイザーの大田尾竜彦選手曰く「フォワードはセットプレーで力を出して欲しい。(他の場所で)あまり走って欲しくない」という観点のもと、攻撃時は予めグラウンドの両端や中央にフォワードが待機。大田尾選手らが、相手の立ち位置を観て最も効果的な方向にボールを運んでゆくのです。これが「B」の実相。

そして「C」も、「どこにも負けない強み」の表現方法です。早朝のレスリングトレーニング(アトランタ五輪銅メダリストの太田拓弥さんが指導する、本物のレスリングの練習です)でこさえた身のこなしや粘りを、フルに活かすフォーマットなのです。

背景を踏まえたうえで自分たちだけの強化方針を貫いているチームは、大抵、勝利できます。大学選手権6連覇中の帝京大、岩出雅之監督も「背景から見な。まずは明治時代からスタートだ」という冗談を言ったことがあります。

国内最高峰リーグのトップリーグで2連覇中のパナソニックにも、その向きはあります。

群馬県太田市という地方都市のホームグラウンドに、田中選手ら腕一本で暮らそうとするプロ選手が集っています。人と人の間の幅や、選手ごとの飛び出し方にこだわる守備システムを、高いレベルで共有し合っています。

本拠地での練習は強風にさらされることが多く、東京のおだやかな天候のもとでの試合では、とてもキックを蹴りやすそうにしています。

日本で、ラグビーはめったなことでは話題になりません。最近では、嵐の桜井翔さんの弟が慶應義塾大学ラグビー部の桜井修選手だったということが「Yahoo! ニュース」のトップになり、それに関する他角度からの意見がバックライトの上を踊るようになりました。ただ、それは異例の事態でした。

今年の秋にはイングランドでワールドカップがあり、5年後の2019年には、その大会が日本で開かれます。

どうすればラグビーという競技であり娯楽が、いま以上に認知されるか。

どうすれば今以上に競技の人気が出るか。

そもそも、ラグビーの魅力は何なのか。

そのことについて選手も、指導者も、運営側も、メディアも考えています。考えているはずです。

解決策はわかりませんが、ラグビーが多様性の競技であるという点は、もう少し強調されてもいいような印象はあります。

他の競技に多様性がないわけではないと思います。ただ、ラグビーほど多様性を帯びた競技は少ないのではないか、というのが、趣味で他のスポーツを観ながら結局はラグビーへのシンパシーを覚える、いち記者の見解です。

もっともこれは、沢山あるラグビーの観方のうちの1つにすぎません。

「筋肉質が多い。選手と近いから、誰かと付き合える」と言って女性同士で観戦仲間を増やすのだって、そう答える方のなかで一定の理と実感があれば問題はないと思います。

さらに、「ラグビー=多様性」の論理は僕ひとりで考えた見解ではありません。

ここに書かれていることのすべては、開業以来約8年間の取材を通して教えてもらいました。

まだ誰も見つけていない普遍に通じるラグビーの魅力が言語化および認識されれば、競技場の人口密度はさらに高まるようにも感じます。

ただ、膨大な魅力を持つコンテンツを一言で表現するのは、どうしたって難しいと思われます。「誰かと付き合える」を最大のセールスポイントとせずにラグビーの仲間を増やすことは、観戦暦が短ければ短いほど、ハードルが高く感じるのではないでしょうか。

いついかなる時でも自分の力(ここではラグビーの魅力をあますところなく伝える力)を発揮するには、所定の型を作れば手っ取り早いものです(いまの日本代表は、攻撃でシェイプという「型」を採用しています)。

と、いうわけで、ラグビーの良さを話して友達をグラウンドへ誘う方法として以下のものをご提案します。

「多様性。だって、同じグラウンドに大きい人から小さい人までいるんだよ」と話している間に、その話にまつわる自分なりのエピソードを思い出してしゃべる。いかがでございましょうか。

※「Rugby! 知恵袋」では、「Yahoo! 知恵袋」のパ…いや、模造企画です。ラグビーの関する質問を、当方の取材体験などをもとにお答えします。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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