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ハイランダーズ田中史朗、最新独占激白1 「自分がショボい」 【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター

南半球最高峰であるスーパーラグビーの日本人選手第1号、ハイランダーズの田中史朗が、電話取材に応じた。好調なチームの状況や実現できなかった日本人対決、さらには来季以降のスーパーラグビーの日本拠点チームに関する進言など、話題は多岐に及んだ。

日本代表として44キャップ(国同士の真剣勝負への出場数)を誇るスクラムハーフの田中は、今季も加入3年目のハイランダーズでアーロン・スミスとポジションを争う。スミスは世界ランク1位のニュージーランド代表(日本は13位)で38キャップを取得したスクラムハーフ。

ハイランダーズはここまで10勝4敗の勝点48で、15チーム中2位。すでにリーグ戦後のプレーオフ(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの各カンファレンス1位と、それ以外の上位3チームが出場)への進出を決めている。

独占インタビューがあったのは現地時間の6月1日、22時30分ごろ。

以下、一問一答の一部。

――5月30日、インバーカーギルでのチーフス戦はベンチ入りも出番なし。日本代表主将のナンバーエイト、リーチ マイケル選手(先発し、後半28分までプレー)との日本人対決は叶いませんでした。

「申し訳ないという気持ちでいっぱいですね。日本を盛り上げる意味でも、対戦したかった」

――もっともゲームは36―9で勝利。チーム状態はよさそうです。

「そうですね。チーフスへライバル心というものも持っていて、いい形で試合していた。インバーカーギルは(本拠地の)ダニーデンにも近いので、僕らのホームに近い、ということも意識していました」

――自分のプレーには、満足していない。

「自分自身、まだまだ未熟やなと。能力も足りないですし。若いうちにもっとやっておけば…。全て。日本でやっていると、多分、こういう思いは持てていない。世界で、アーロンとかと一緒にやっているなかで、彼らのラグビーに賭ける思いも見える。良かった部分と、まぁ…知らなかった方が良かったかなと思ってしまう部分もあります」

――「能力が足りていない」。それでも勝とうとする。それが田中選手の気質ではあります。

「自分でそう言ってしまったら終わりですけど、まぁ、そっちの方かなとは思いますね。だから、これを機会に自分がショボいと知れたのは良かったです。後悔はしてないですね。いまはプレーもできていないですけど、こっち(ニュージーランド)の人たちとラグビーができたのは嬉しいですし、楽しい時間を過ごさせてもらってます。日本のラグビーにいい影響を少しでも与えられたかなと思います」

――影響を受けたであろう1人、レベルズの稲垣啓太選手がスーパーラグビーデビューを果たしました。

「出ると決まった時は、連絡をさせてもらいました。自信になると思いますね。もし彼が日本のスーパーラグビーのチームに入ったら、リーダーになる」

――スーパーラグビーの日本拠点チーム、来季からできますね。

「…リーチとも試合後、話したんですけど、選手も、協会も、日本はまたまだ甘い国だなと。自分自身のプレーからも、周りの選手を見ていても思いますね。うちのマラカイ・フェキトアも、トンガ人なのにオールブラックス(ニュージーランド代表)になりたくてラグビーをやっていた。皆、オールブラックスになりたい。ただ日本では、僕も昔そうだったんですけど、呼ばれたから行くという感じ。(その裏には)協会が代表選手にお金を(あまり)払わないということがある。だから、選手が本気にならない。それで弱いと、協会もお金を出さない…。悪い連鎖がありますね」

――補償。ラグビーを職業にしている人にとっては重要な問題です。

「選手は命を賭けろ、なんて、古臭くて言えないですけど、それくらいの気持ちでやらないと、怪我をしたら終わりですし、その気持ちがある選手が何人いるのかと言われれば、いまはあまりいない。それでも、特に特にプロ選手なら、多分、全力をかける人もいると思うんです」

――確認ですが、現状、当該の新チームに加入したいという選手はあまりいないのですね。

「僕が代表選手と接したり、トップリーグの選手をみている限りではそう思います。まだ学生の方が、挑戦したい、上手くなりたいという気持ちでいる。ただ、彼らには実力が足りない選手も多いかもしれないですし」

――背景では、結局、補償問題が曖昧になっているように映る。

「その辺、協会がどうしてはるのかは僕にはわからないんで。(自身へのオファーは)一応、それに近い話はありますけど、細かい部分は何も言われてないんで。ハイランダーズとも…何回か話している。こういうことを言ったら、また叩かれる…。ただ、僕らは必死でやっているけど、協会はそこまで必死なのかなと」

――必死さ、伝わりませんか。

「いま、ニュージーにいる時は嫁と子どもが一緒にいて、楽しく暮らしてます。日本のチームは、そのあたりのことは何も考えていなくて。東京の方はいいですけど、地方の選手は多分ホテル暮らしになる。ラグビーも大事ですけど、一番大事なのは人生。それを考えられていないとしたら、悲しいですね。誰が悪いのかはわからないですけど、選手は甘く見られている。僕たちにも人生がある。ラグビーも大事ですけど、一番大事なのは人生なので」

――スーパーラグビーは国内以上に怪我のリスクが高い。

「すごい選手が怪我をしている。そこで身体も筋力数値も低い僕たちが行ったら、怪我をしないなんてありえない」

――参加するのは南アフリカカンファレンス。身体のぶつかり合いは激しいでしょうね。

「リーチは『まっすぐ当たってきてくれるんでやりやすい』とは言ってましたけど、その真っ直ぐの当たりが半端じゃない。日本にいるポトヒエッター(サニックスのジャック、ヤマハのデヴォルト。ともに南アフリカ代表経験者で、スーパーラグビーでもプレー)を見ていると、すごく激しい。ああいうのが15人で来られると…」

――春から夏にかけてのスーパーラグビーのシーズン中、当該チームに召集された選手の給料は誰が払うのか。各企業の社員選手に、プロとしての報酬は支払われるのか。疑問視する関係者は多い。日本ラグビーのために身を削ってきている田中選手でも、そこへの疑問はある。

「嫁には謝ったんですけど、(ハイランダーズ入りを決めた)当時、僕は27歳で、アホで、ただ『日本のために』と調子に乗って。一応、成功したんでよかったですけど、もしこれですぐに怪我でもしていたら、嫁も子どもも路頭に迷うところだった。これから日本のスーパーラグビーで、となったら、誰をどういう形で入れるのかはわからないですけど、今の状態やったら厳しいかなというのは感じますね。怪我をするリスクが高く、それを安い金額でやる…。そんなの誰が行くねんという話です。これは僕が思っているだけかもしれませんけど、プライドだけで『行く』と言えるのは若手だけです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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