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日本代表エディー・ジョーンズヘッドコーチ、ワールドカップメンバー発表直前会見【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
構想通りのメンバーを前にスピーチするジョーンズHC(写真:田村翔/アフロスポーツ)

4年に1度のワールドカップに臨むラグビー日本代表は、9月2日、大会開催地のイングランドへ到着した。まずは19日にブラントンで南アフリカ代表とぶつかるのを皮切りに、予選プール計4試合をおこなう。10月いっぱいでの退任を発表しているエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は、「日本に特化した戦いでベスト8を目指す」と話している。

8月31日15時、登録メンバーの31名とバックアップメンバーの13名を発表。それに先立つ形で、指揮官が14時から共同取材に応じた。「情報解禁は同日15時以降」といった条件のもと、選考方針や大会の展望を語った。

なお、チームは26日の朝にメンバーを内々で共有。当時の宮崎での合宿に帯同していた候補選手のなかで、大会に参加できない選手にジョーンズHCが自ら説明。そのうち6名を各所属先へ帰した。かねて「メンバーの構想は数か月前から固まっていた」と語ってきたジョーンズHCだったが、31日の共同取材時は離脱させたメンバーへの賛辞から言葉を紡いだ。

以下、会見要旨。

「(予定時間より数分遅れて会場入り)遅れて申し訳ありません。非常に多忙な1日でした。31名のスコッドを発表しました。コーチングで一番やりたくないのが、スコッドから外れる選手にそのことを伝えることです。選ばれた31人は、それにふさわしい努力をしてきたと思います。経験者と若手、非常にバランスがいい。カバーしうるところをできる限りカバーしました。ただ、最終的に選んだのは、世界で通用する選手たちです。

外れた選手。宇佐美(和彦、ロック)、垣永(真之介、プロップ)はいままで通りの準備をすれば、この先ワールドカップに2大会連続で出られる。そして(フランカーのヘイデン・)ホップグッドの努力には敬意を表したいです。日本では外国出身の代表選手が何かと非難されますが、彼はこの5か月間、まったくの無償で、赤ちゃんが生まれたばかりなのに、チームにコミットし続けてくれました。そして村田(毅、フランカー)はこの5か月本当に努力をした。このまま彼も成長を続ければ、世界で通用する選手になる。渡邉(祐之、プロップ)も世界で活躍する選手になる可能性を秘めています。内田(啓介、スクラムハーフ)もこの先ワールドカップ2大会連続で出場できる可能性があります。山中(亮平、スタンドオフ/センター)は日本で最も才能あふれる選手だと思っています。一貫性を持ってプレーできれば、非常にスキルの高い選手となるでしょう(上記、ホップグッドと渡邉は29日まで、それ以外の選手は26日までチームに帯同。バックアップメンバー入り)。

4年前(就任時)にこのプロジェクトを始めた時、スコッドは国際経験のある選手で構成されるべきで、スタメンの総キャップ数(国同士の真剣勝負への出場数)は600を超えるべきだと言ってきました。結局、それには足りませんでしたが、経験のある選手も豊富に含まれています。

ワールドカップが楽しみです。選手も同じように思っているでしょう。いまから、どんな質問でも喜んでお受けいたします。おととい、最後の国内での会見だと言いましたが(8月28日、東京・秩父宮ラグビー場でのウルグアイ代表戦を40―0で制した後の会見で報道陣へ謝辞を述べていた)、きょうのことをすっかり忘れていました。スピーチはしませんが、きょうが本当に最後です」

――以前、ユーティリティープレーヤーを選ぶと言っていたが。

「アイブス ジャスティンがロックとフランカーをカバーする貴重な選手。廣瀬(俊朗)はスタンドオフとウイングの両方ができるうえ、非常に特別な選手でもあります。フィールド外でのリーダーシップを買っています。2月に原さん(辰徳、2009年に第2回ワールドベースボールクラシックの日本代表を率い、世界一になった)のお話を伺ったことがあります。ここでは、代表選手を選ぶ時は試合に出る可能性の少ない『最後の3名』から最初に選んだと言いました。その選手が試合に出られなくともハードワークして、チームのサポートをしてくれることが大事だと。廣瀬はそれに値します。きょうチームミーティングで話しました。『全試合、一番強いメンバーで行く』。試合に出られない時でもサポートをしてほしい、と」

――大けがから復帰したロック真壁伸弥選手、ナンバーエイト アマナキ・レレイ・マフィ選手の起用法などは。

「ケースバイケースです。2人にはジョージア代表戦(9月5日、グロスター)である程度のゲームタイムを与えます。23名の試合のスコッドのなかで、彼らをどう最大活用できるかを考えたいと思います」

――(当方)アイブス選手、プロップ稲垣啓太選手、ウイング山田章仁選手といった現在故障中の選手の復帰プランは。

「1人ひとり、違ったプランがあります。ジャスティンは12日までに完全復帰を。ジョージア代表戦がもしワールドカップであれば、稲垣はそこでプレーします。ただジョージア代表戦はワールドカップではない。リスクは負いません。ジャスティンと同じ、12日からの降るトレーニング参加になると思います。

山田はもう少し遅れるかもしれません。今朝、状態は73パーセントだと本人は話していました。それが慶応(義塾大学、山田の母校)の計算式なのでしょう。けれども初戦までにはフル復帰していると思います」

――セレクションで悩んだ点は。

「本来、プロップは5名連れていく予定だった。平島(久照、故障でバックアップメンバーに回る)をスコッドに入れる考えでした。垣永と渡邉はよく頑張りましたが、若干、ワールドカップへの準備が足りていなかった。長江(有佑、バックアップメンバー)も可能性があったが、怪我です。そこの判断が難しかった」

――早稲田大学4年のウイング藤田慶和選手を連れて行く判断。

「3年前からスコッド入りを決めていました。非常に才能ある選手です。ゴロー(フルバック五郎丸歩副将)の代わりのフルバックもカバーできます。若手のなかで誰よりも成長しました」

――南アフリカ代表、スコットランド代表と、予選プール序盤は力強いチームと対戦。

「フォワードで戦えなければいけない。もちろん、フォワードのぶつかり合いを避けた戦い方を考えますが、それでもうちのフォワードが狙われることは間違いない。1ミリ、1ミリ、すべてを戦えるフォワードを求めます。(本来フォワードは8名だが)9名使うかもしれない。新しいポジションを考えます(口元に笑み)」

――経験者が11名、初選出が20名。このバランスを踏まえ、大会で気をつけたいこと。

「未経験者が気をつけなきゃならないのは、周りの環境。ワールドカップはオリンピックと同じような大会です。通常の競技を通常とは異なる環境で行う。自分のルーティーン、リラックス方法もわかっていないといけない。2007年のワールドカップに出たジャパンの選手と話しました。上手くいかなかった原因(3敗1引き分け)は、リラックス方法をわかっていなかったことにありました。それもあって4月にイングランド視察をしました。環境になじんでもらうためです。食べ物がまずいことはわかっている。いまのうち、皆はセブンイレブンで食糧を買い込んでいると思います。

経験者の主な仕事は、先週の日曜日。チームを5つのグループに分け、食事に行かせ、彼らの経験を語ってもらいました。

堀江翔太(フッカー、副将)と畠山健介(プロップ)はフロントロー連れて行きました。、キンちゃん(ロック大野均)とトンプソン(ルーク、ロック)がロック陣を。ここのグループが一番楽しんでいたようです(場内、笑)。

リーチ(マイケル、フランカー、主将)はバックローを。フミ(田中史朗、スクラムハーフ)と日和佐(篤、スクラムハーフ)が9、10番(スクラムハーフとスタンドオフ)を、小野晃征(スタンドオフ)が残りのバックスと一緒でした」

――スクラムハーフは2人のみの登録。

「内田のことは最後の最後まで考えました。晃征が9番をカバーできることはわかっています。スコッド編成ではある程度の賭けに出なければ。最終的に選んだのは、ベストメンバーでした」

――バックアップメンバーについて。6月限りで長期合宿から離れた選手もいますが、彼らにはどんな声かけを。

「有田(隆平、フッカー)が唯一怪我で離脱した選手ですが、それ以外は、ずっと練習をしてきた選手です。彼らには、ワールドカップに出るチャンスを完全に失ったわけではないと言っています。彼らが所属するトップリーグの各チームに選手をどう扱えなどと言うことはできません。けれどもいいコンディションを保てるようにベストは尽くしてくれると思います。選手たちも、いつ呼ばれてもいいよう準備を整えなければいけません」

――バックアップメンバーでは、渡邉選手だけが9月5日までチームに帯同。

「稲垣の件があるからです。稲垣をジョージア代表戦に使うのはリスクが大きい。この試合では、渡邉がリザーブに入ります」

――バックアップメンバーに、平島選手や長江選手といったけが人がいる。

「フィジーに行けばいい。ワイサケ・ナホロ(8月に全治3か月の負傷も、ニュージーランド代表としてワールドカップ出場へ)は骨折したんですが、母国のフィジーに帰って魔法使いに診てもらっています。彼らもフィジーの方に診てもらいます。準備できるであろう全ての選手に、待機してほしいと思います」

――怪我をしているバックアップメンバーの回復について。決勝トーナメント進出時には復帰する算段?

「あくまでもバックアップなので、そこは気にしなくてもいいと思います」

――廣瀬選手が「試合に出られない可能性がある」。これは本人もわかっている?

「廣瀬はずっとその役割を果たしています。誰にだって出られない可能性があることも、認識しています。彼はこのチームのなかで重要な役割を担っています」

――メンバーへは、いつ、どのように伝えましたか。

「(女性の広報担当者に)話していいですか? 女性は、ボスです。昨日、奥さんと食事へ行きましたが、改めて女性はボスだと思いました。

…(日本語で)水曜日の朝。20年ほどコーチングをしていますが、一番最悪な仕事です。火曜の朝は寝られませんでした。国のために全力でやることをやってくれた選手に通達しなければいけないのは、辛いです。全選手、しっかりと受け止めてくれた。

セレクションの考えは4年間、同じです。そこまでびっくりしたことはないです。そうあるべきです」

――南半球最高峰のスーパーラグビー経験者が多い。

「それはスコッドにとって大きな助けです。期待しているのはいいプレーです。それだけです。そして、フィールド外では若手をサポートして欲しいです。

おそらく、ジャパンはワールドカップ出場国のなかで唯一、完全アマチュアの選手がいるチームです。大学生が2人います(藤田と筑波大学4年のウイング福岡堅樹)。1人は学業に専念していて、もう1人はそうではありません(場内、笑)。

日本のラグビーは、そこが興味深いところ。最高峰の大会に、大学生が出るという日本の面白さ…。2人の学生がどれだけプレッシャーに耐えられるか。そこで出場時間が決まります」

――4年前に思い描いたメンバーといまのメンバーの違いは。

「4年前に想像していなかった選手は、ナキ(マフィ、全国的に無名の花園大学出身。昨季、国内最高峰のトップリーグで大ブレイク)。贈り物です。他の選手はずっと構想にはありました」

――外国出身選手についての意見。

「それは私のコントロール外です。国際レベルの選手を育てる環境を作るのは、私の仕事ではありません。国際レベルで戦える選手は、42名しかいないということ。そうした選手を育てるのは自分の仕事ではない。トップリーグや大学がそうすべきで、国際レベルの選手を集めることが、私の仕事になります。先ほどの質問(4年前に思い描いたメンバーと現在のギャップ)の続きですが、カーン・ヘスケス(ウイング)も構想にありませんでした。けれども、13番(アウトサイドセンター)にパワフルな選手が必要で色々な選手を試しましたが、誰もカバーできませんでした。

今回の質問をする相手も、私ではありません。私に聞かないでください。誰に質問すればいいかわかりますか? 後で教えます。約束です。

清宮さん(克幸、ヤマハ監督。次期代表監督へ立候補したと取れる発言を残し、「ほとんどを日本人で」とも続ける)が監督をして、全選手が日本人。それが理想なんですよね? やってみたら、いいと思います。けれどもそれを実現させるには、かなりの努力が必要です。経験値が伴っていないと、世界レベルでのコーチングはできません。コーチング、スキルワーク、メンタル面の準備が必要です」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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