日本代表のワールドカップ日程「中3日」はどうキツい?【ラグビー雑記帳】
4年に1度あるラグビーワールドカップのイングランド大会。初の決勝トーナメント進出を狙う日本代表は、ここまで予選プールB2戦で1勝1敗としている。
19日、ブライトンでの初戦では過去2度制覇の南アフリカ代表を34-32で制し世界中の話題をさらったが、わずか4日後にグロスターであったスコットランド代表戦は10-45で落とした。「中3日の影響は…」。雑然とした取材エリアでは、ジャパン陣営にこの手の質問が集中した。
そもそも格闘技的要素が強く選手の消耗度が激しいラグビーのゲームは、週に1度のペースでおこなわれるのが一般的とされる。ところがワールドカップの予選プールでは、かねてから優勝候補以外の国は過密日程が強いられている。
日本代表のジョン・カーワンヘッドコーチ(HC)はその風習への批判の意味合いも兼ねてか、2007年フランス大会のオーストラリア代表戦と11年のニュージーランド大会のニュージーランド代表戦に控えと取れる陣容で挑んだ。結果は選手ごとのモチベーションのばらつきを生み、いずれも大敗した。特に11年のニュージーランド代表戦に出た選手には「自分のなかではもう終わったこと」と、ワールドカップのジャージィを他人に手渡した選手もいる。総体的に、この大舞台への価値基準が低く設定されていた。
「全試合、強いメンバーで行きます」
かねてそう言い続けてきたエディー・ジョーンズHCは、それを実現すべく過密日程の遠征や猛練習が続く合宿を繰り返してきた。そして本大会になれば、宣言通りに南アフリカ代表戦の登録23名中20名がスコットランド代表戦にも出場。正直なスクラムハーフ田中史朗が「(疲れは)ないとは言い切れないけど…」と話しはしたが、他の選手は「疲れは気にならない」と強調していた。言い訳をしたくないという気持ちもあろうが、中3日の真の難しさは別のところにあると言いたげだった。フルバック五郎丸歩副将は、こう、示唆していた。
「スコットランド代表戦に向け、戦術を切り替えた。そこが…うまくいかなかったかもしれませんね」
現地入り後、日本代表は初戦にすべてをかけているような面持ちだった。ワールドカップ参加3度目のジョーンズHCの判断で、「南アフリカ代表へ全力を」のシナリオを遂行。戦前の取材機会時、プロップ稲垣啓太も「2戦目以降は? という質問を受けるまで南アフリカ代表戦のことしか頭になかった」と答えたほどだ。ブライトンの宿のあちこちに相手の登録選手のデータや特徴が書き込まれた紙を張り出し、情報を共有。指揮官の打ち出した「相手を休ませない」というゲームプランを実戦練習、ミーティングで細部の細部まで点検し合った。
ところが、スコットランド代表戦に向けた相手選手の分析とゲームプランの確認は、わずかな時間に限られた。スタンドオフ廣瀬俊朗らベンチ外メンバーが初戦より前からデータを揃えてはいたが、ある選手はこう、こぼしてもいた。
「お祝いのメールを返すので、分析はじっくりする時間はなかった…」
メンバー編成でも、リザーブスタートとなったロック伊藤鐘史がメンバー入りを言い渡されたのが公式発表の数時間前。のちに指揮官が「過ちを犯した」と反省する選手選考の裏には、いくらかの迷いや悩みがなかったか。
スコットランド代表戦は後半に失点が重なったが、疲れよりも集中の糸の切れ目がその要因かもしれない。それを引き起こした瞬間は、敵陣深いでのインターセプトから一発で奪われた後半23分の失点か。もっともこれは単なるスキルミスではないようだ。大外でプレーするウイング松島幸太朗は「(スコットランド代表戦に向けて)ボールを回すプランだったのですが、それに引っ張られすぎたかな」と述懐。戦法の共有度合いがわずかに低かったとしたら、その分、本来の目論見と違った「プランB」に移るのはスムーズではなくなるだろう。フルバック五郎丸の発した「切り替えた。そこが…うまくいかなかった」の真意も、おそらく、そこにある。スクラムハーフ田中はこう続けたものだ。
「インターセプトされたところも、外(パスした選手から観て、パスを受け取るはずだった選手よりも向こう側に立つ選手)から『ボールキープ』と声を出していたら起らなかった。疲れている時でもしっかり喋って…」
一方、この日が初戦だったスコットランド代表は、ジャパンの飛び出す守備網の裏にスクラムハーフのグレイグ・レイドローキャプテンが長短織り交ぜたキックを放つ。タックラーの死角へ間合いを持って駆け込むランナーも多く、余裕と統一感をにじませた。
ぶつかり合いは双方譲らずといったゲームだっただけに、細やかな連携の差異が勝敗を分けたか。
8強入りへ向けマストウィンのサモア代表戦は前節から中9日の10月3日、ミルトンキーンズでキックオフする。まずは身体を休め、28日以降、「テストマッチ(国際間の真剣勝負)の準備に入る」とジョーンズHCは言う。
サモア代表は南アフリカ代表級の強靭な肉体を誇り、戦いやすい相手とは言えない。それでも、丹念な準備をしてぶつかれる。