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実は、日本代表の守備網に堀江翔太副キャプテンがメスを入れていた件【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
アメリカ代表戦時の堀江。セットプレーの軸としても頼られた。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

4年に1度のワールドカップで過去24年間も未勝利だった日本代表は、今秋の同イングランド大会で、史上初の1大会複数白星となる計3勝を挙げた。目標としてきた準々決勝進出は果たせないなか、ファンを沸かせた。3勝しながら予選突破が叶わなかった例は今回が初。

好成績の背景には、献身的な守りがあった。鋭く飛び出す。ボール保持者の下半身を2人がかりで抑え込み、倒す。すぐに起き上がり、また守備列を作る…。その繰り返しで相手のミスや反則を誘った。ディフェンスコーチのリー・ジョーンズが伝授した「チョップタックル(足元へのタックル)」は、各種報道でクロースアップされた。

しかし、フッカーの堀江翔太副キャプテンは言う。「ディフェンスは、僕のエッセンスが入っている」。帰国直前だった10月12日、グロスターでの取材機会で明かした。その言葉には、大会直前に発揮された選手の主体性が見え隠れする。

堀江はパナソニックのキャプテンとして、国内最高峰のトップリーグで2連覇を達成。昨季までは2季連続で、南半球トップクラスであるスーパーラグビーのレベルズにも在籍した。ワールドカップイヤーの今季は首の手術とリハビリに時間を費やし、6月から代表へ合流していた。

なお、所属先であるパナソニックで長年、守備の要を務めてきたセンターの霜村誠一前キャプテンは、「僕のなかでは、タックル(個人技術)とディフェンス(組織の動き)は別物。タックルはディフェンスのなかの1つの動きと考えている」と話したことがある。

以下、堀江の12日の一問一答の一部。

――(当方質問)11日はアメリカ代表戦(グロスター・キングスホルムスタジアム)でした。28-18で勝利した夜は、どんな風に過ごしましたか。

「久々にゆっくりできた。ここ何日間かは、試合がおわっても興奮して眠れなかったんですけど、今回はぐっすり眠れましたね」

――(当方質問)期間中は眠りが浅かったのですね…。それにしても、3勝で終えた今大会は選手の主体性が目立ちました。

「うまいこと、リーダーとスタッフがコミュニケーションを取って、スタッフのやりたいことをリーダーが率先してやっていくようなった。自然と、という感じです」

――堀江選手は6月に合流しましたが…。

「僕自身はよく話そう、とか、考えよう、とか、言ってきていた。それで、試合を重ねるごとに、自然とそう(話しあい、考えるように)なっていった」

――今大会、守備も見事でした。

「ちょっと、僕の考えというか…そういうのが入った。それがうまいことハマった」

――ミーティングで言ったのですか。

「ミーティングで言うと、ディフェンスコーチのアレ(立場に関わる)なんで…。大きくミーティングせず、グラウンドで話しながらやっていった。結局、成功したら、正解というのがコーチの意見でもある」

――どう、変えたのですか。

「体格に差があるんで、普通にディフェンスをしていると差し込まれる。僕らが仕掛けるという意識をさせましたね」

―― 一般的に、守備ラインの動き方には2通りあるとされています。全体的に接点の位置からタッチラインの方向へ動いて、相手を追い込むのが「流し」。ボールが出た瞬間、皆で目の前の相手に向かって突っ込むのが「詰め」。

「ただアホみたいに流したり、詰めたりするんじゃなしに、自分たちの意志を持って仕掛けていく、と」

――(当方質問)相手が攻め始める前に、どの選手が飛び出してプレッシャーをかけるかを「自分たちの意志」で定める。機械的に「流し」や「詰め」をするのとは違う。

「そうですね。それで、失敗した場合は何が悪かったのかを話して修正するようにしてました」

――いつからそうしようと?

「僕が入ってからです。ディフェンスリーダーとして動いていたんですが、それまでの練習と映像を観て、そうしようと。PNC(7~8月にあったパシフィック・ネーションズカップ)ではバラバラでした。でも、試合やっていくうちにはまった。いいものって、選手は試合をやっていたらすぐにわかるんで。

横のつながりは、すごく大切にしました。絶対に、タックラーを1人にさせない。1対1になった時点で負けるやろう、と。(ワールドカップの)4試合はそれが出せたんじゃないですか。スコットランド代表戦は身体が疲れたというのは否めないと思うんですが。

いい具合に、そのディフェンスの仕方を知っている人がいた。フミさん(スクラムハーフ田中史朗)、(ウイングの)山田(章仁)、コリさん(ナンバーエイトのホラニ龍コリニアシ)、(プロップの)稲垣(啓太)…(すべてパナソニックの選手)。そんだけ(各ポジションに理解者が)散ってたら、(理論が)広まりやすいんで。

特に、(堀江が唱える守備システムでは)ウィングの判断が難しい(状況によって、大外から内側に飛び出す動きなどがあるため)。ただ、そこに(所属先で同種の動きに慣れている)山田がいた。それは大きかった。稲垣もよかった。

一番は、ハル(センターの立川理道、クボタ所属)。彼が動きをよく理解してくれた。彼も(以前から)『流す』となった時に『何でもかんでも流してたら…』と感じていたと思う」

――(当方質問)確認ですが、リー・ジョーンズさんとはその話はしなかったのですね。

「そこの話は全くしていないです」

――(当方質問)ただ、向こうも観たら「教えたことと違う」とわかる。

「いい判断、となっていた(受け止められた)と思う。彼は外国のコーチで、流すのが好き。それが、普通なんですけどね。でも、(体格差のある日本代表が)それをやると常に食い込まれる。このディフェンスの文化は、(体制が変わっても)常に継承したい。もっともっと、よくなるとは思うんでね」

――(当方質問)どこかで、詰める。

「細かいことは言えませんが。自チームのあれなんで…」

――(当方質問)11月以降、パナソニックの試合を観てくださいということで…。

「そうっすね」

――(当方質問)現代表の成果は、国力の成果とイコールではないかもしれません。それを踏まえ、今大会のパフォーマンスを継続するにはどうすればいいでしょうか。

「(頷きながら)監督から与えられたチーム戦術、戦略を選手が100パーセント理解して、実行する。それにプラスアルファして、どうしたらその戦術、戦略をよくできるのか、どうしたらもっと強くなれるのかを考える。そこが大切になんじゃないですかね」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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