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チケット完売なのにスタンドガラガラ…選手はどう思った?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
SNS上では、無料招待券を持つファンが怒りの声。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

日本最高峰のトップリーグは13日、東京・秩父宮ラグビー場で開幕戦を迎えた。2連覇中のパナソニックがサントリーに38-5で快勝。ひとつのタックル、ひとつの接点へのブローが、いくつもの得点に直結する展開だった。

敗れた側の畠山健介が「本当に細かいところの差がこんなに大きな点差になる。そこがラグビーの競技性。教訓を得られた」と脱帽する高質なゲームの公式入場者数は、10792人。前年度開幕の11162人を下回った。

9、10月のワールカップイングランド大会で日本代表が史上最多の3勝を挙げたことで、世は空前のラグビーブームのただ中。実はこのオープニングゲームも「前売り券は完売」とされていて、無料の優待券は使えない旨が事前に通告されていた。

「満員を期待していた」。複数の選手はこう口を揃えたが、ふたを開けてみればゴール裏やバックスタンドの隅に空席が目立つ。日本代表でパナソニックのナンバーエイト、ホラニ龍コリニアシは「…まぁ、僕らのやることは変わらない」と思うほかなかった。

夜10時過ぎ。地方紙記者が早めの締め切りに追われるプレスルームに、日本ラグビー関係者がずらりと並んだ。状況説明と謝罪のためだ。

話を総合すれば、「一般販売数5000枚が完売」「両チームへ配布した9000枚のチケットやその他回数券など有料チケットがすべて利用されると見込んだのが誤りだった」。話をこう並べると企業側の集客努力を問う声が出そうだが、サントリーの関係者はこう言った。

「むしろ、こちらも欲しいチケットを確保できなかった」

協会側が真摯に説明していたとしても、納得できない人がいるというわけだ。

最も怒りを露わにしていた代表選手は、パナソニックのスクラムハーフ、田中史朗だった。直後のテレビ出演のため帰りを急ぐ必要があったようだが、それでも、取材エリアで思いを伝えた。

2011年のワールドカップニュージーランド大会で未勝利に終えて以来、ずっと競技人気の復活のため身を粉にしてきた。好結果を受け人気爆発の渦中も、1人でも多くのファンをグラウンドへ呼ぼうとチームへチケット確保を頼んでいた。かねて曲がったことが嫌いなだけに、痛烈な言葉を重ねていった。

「僕たちが変わっても、企業が変わっても、協会が変わらなかったらいままでと一緒じゃないですか。それをなぜ、まだわからないのかなと」

帰国後は明るいキャラクターでテレビに引っ張りだこだったパナソニックのウイング山田章仁は「観に来てくださる皆さんのためにいい試合をしたい」と言うにとどめる。もっともワールドカップの折は、「観客は多ければ多いほどいいと、僕は思っている」と本心を明かしている。同じくフッカーの堀江翔太主将は「(チーム内で割り当てられたチケットも)制限がかかって『(リクエストは)早めに教えて』と言われていた」と明かし、自らのツイッター上では「空席が目立って残念でした。もっとなんかできたんかなー」と無念さをにじませた。ミックスゾーンで発した肉声は、穏やかだけに人の心へ刺さるのだった。

「少なかったですよね。思った以上に。満員と聞いた割には、隅っこのほうが空いてるなぁーって話はしていた。もちろん、ぼくはこれでモチベーションが変わるのは好きじゃないので(試合ではパフォーマンスに集中した)。僕らは、(チケットの)手売りとかはできない。…(協会には)頑張ってください、と言っておいてください。僕らは必死こいてやるんで」

揚げ足をとるような話題に対し、不快に思われる方もおいでだろう。ただ報道する側も、いくら使命とはいえかようなトピックスに時間を割かれるのは不本意だ。

14日の愛知・パロマ瑞穂ラグビー場でのゲームも「完売」との触れ込み。実際は。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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