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スター選手がひとつに? 華やかな同志社大学ラグビー部が大学選手権先勝!【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
松井は7人制日本代表として、オリンピックリオデジャネイロ大会出場権を獲得。(写真:ロイター/アフロ)

同志社大学ラグビー部は、観る者が楽しむラグビーをした。「はい。楽しかったです」。スクラムハーフの大越元気は笑顔で応じた。

2015年12月13日。鉛の空に包まれる東京は秩父宮ラグビー場にて、学生王者を争う大学選手権のセカンドステージが始まった。上位16強が4分割されたうちの1つ、プールCの第1節である。8季ぶりに関西大学Aリーグを制したブランド校、同志社大学が登場する。

前半9分、終始安定したスクラムを敵陣ゴール前で押し込み、脇を突いたナンバーエイト秦啓祐がトライ。10-0。続く14分、早いテンポでフェースを重ねる先で、味方の乱れたパスを拾ったのはウイング松井千人だった。7人制日本代表にもなった50メートル走5秒台の美男子が、瞬時にギアを入れる。直後にはスタンドオフ渡邉夏燦のコンバージョンも決まり、スコアは17-0となった。

「フォワード、バックスが連動して動かないとできない。そういうところは、自分が指示をしています」とは、1年生レギュラーのセンター永冨晨太郎だ。いまの同志社大学は、パスを大きくつなぐスタイルを志向する。倒れている人はすぐに起き上がり、グラウンド横幅いっぱいに散らばる。球の出どころとなる接点で相手を巻き込みつつ、空いたスペースを確認し合う。大越、渡邉、永冨らパスの供給源に入ったメンバーは、その情報へのアンテナを張り続けるのだ。スター格の松井も、記者団に捕まるなかで手ごたえを明かす。

「展開力が魅力ですが、それができてよかったと思います」

後半2分にはウイング松井のカットインを皮切りに、左タッチライン際でフルバック崎口銀二朗がインゴールへ飛び込む。24―3。26分には永冨の左隅での突破からパスを中央へ折り返し、ゴールポスト正面の接点の真上をロック山田有樹が突っ切る。36―8。日本ラグビー最古豪の慶應義塾大学を36-8で黙らせる。前日にはチームで秩父宮でのトップリーグの試合を観戦したという就任3季目の山神孝志監督は、「ホッとしています」と破顔した。

「関東で戦うのに慣れていないなか、機先を制して行こうと言って送り出しました」

1980年代、黄金時代を過ごした。82年からは全国大学選手権史上初の3連覇を達成。人呼んでミスターラグビーの平尾誠二など、多くのスター選手が奔放に駆け回っていた。しかし、以後は低迷も味わった。創部100周年の節目だった2010年には、クラブ史上初めて下部リーグとの入替戦を経験している。2000年代に我が世の春を謳歌していた早稲田大学や現在6連覇中の帝京大学の台頭で、現代の大学ラグビー界は「東高西低」が叫ばれていた。指揮官は吐露する。

「ここで勝って、歴史を動かしてほしい、と」

指導体制を整え泥沼から抜け出さんとする同志社大学には、心強い援軍が連なっている。リクルーティングの成功によって、全国高校ラグビーで優勝および活躍した面子が相次ぎ入学しているのだ。

スクラムハーフ大越は2011年度、茗溪学園高校のキャプテンとして前年まで3連覇中だった東福岡高校を撃破。ロック山田とウイング松井は、2012年度に王座に就いた常翔学園高校の主力だった。

その東福岡高校の一員として2010年度に優勝したプロップ才田智は、いまは同志社大学のキャプテンだ。前年度にトップを取った東福岡高校のメンバーも、同志社大学に入部。その1人が、センター永冨だった。

こんな話があると、まるでいい選手を集めさえすれば大学ラグビー界は制しうるといった認識が生まれそうだ。ただ、統一感のある集団を前には、統一感の欠いた実力者の群れは無力化するのも事実である。確かな選手層を確保しつつある同志社大学が勝つためのサムシングは、別のところにもあるのだ。山神監督は言う。

「以前は自信が発露しなかった時もあったけど、いまは現象に現れている。いい流れにはなっています」

対戦相手や環境が生む圧力をかわす知恵、低調な試合中に課題を発見する心の余裕。成功体験者の持ちうる勝利の方程式が、クラブ全体に涵養されているというのだ。

ナンバーエイト秦によれば、「勝ち方を高校時代に知った選手が中心になって、チームを引っ張ろう、と。キャプテンだけではなく、いい経験を持った選手たちが色んな角度から発言をする」。強者同士が意見を交わし合い、自分たちの共通認識を練り上げてゆく…。負けづらいチームの鉄則を踏襲しつつあるのだ。ここ数ヶ月間の成長を、指揮官はこう見ていた。

「心の持ち方、考え方、リーダーの発言…(が変わった)。松井もセブンズ代表で経験したことを、いい距離感で還元してくれている。いまの子たちは、照れくさくなるんでしょうかね。本気なんだけど、その本気が伝わりづらかった。でもいまは、その本気度がより増した。ハドル(練習前などに組む円陣)なんかも、小さくなってます」

12月20日、大阪・花園ラグビー場。初勝利を目指す筑波大学と激突する。続く26日には、滋賀の皇子山総合運動公園陸上競技場でトンガ人揃いの大東文化大学と相対する。初戦の慶應義塾大学が球際でややソフトかもしれなかった点を鑑みたら、この先の戦いでは油断は禁物だろう。問答無用の激しさや強さを前に、知恵やシステムが総崩れすることもある。それがラグビーというスポーツだ。

もっとも帝京大学の岩出雅之監督は、春先、「もしも今季の大学選手権決勝戦進出が叶った場合、どこど対戦しそうかを予想して欲しい」という質問というか雑談に、こう、応じていた。

「…思い切って、同志社かな」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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