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NEC・滝澤直キャプテンが示す、負けた時のリーダーのあり方【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
21歳以下日本代表、23歳以下日本代表の選出経験あり。ランを強みとする。(写真:築田純/アフロスポーツ)

天然パーマの髪、いかつい顔と身体、身軽な動き、そして、明朗快活なメッセージ。日本最高峰であるラグビートップリーグにあって、NECの滝澤直はよき意味での異質性と爽快感を周りに与えていた。

2015年3月8日に岐阜の長良川競技場であったオールスターゲームでは、普段は蹴らないコンバージョンを狙った。場内をどっと沸かせた。早稲田大学の先輩である五郎丸歩のフォームを真似したのだ。

これぞ、エンターテイナー。

「見た目がエンターテイメントなんで、皆もそう扱ってくれる。自分の理解したうえでがんばりたいなと、思っているところです」

身長175センチ、体重108キロの29歳。スクラムを最前列で組む左プロップと、何よりキャプテンを任される。試合後は相澤輝雄総監督との記者会見への出席が義務付けられており、チームを代表してゲームの所感を述べることとなっている。

就任1季目は日本選手権で帝京大に屈し、2シーズン目の今季はトップリーグで開幕5連敗を喫するなど16チーム中15位に甘んじた。一般論として、足並みが揃わぬまま黒星を喫したチームの会見は、とかく通夜の雰囲気となりがちである。

それでもどうだ。「…はい、来週も頑張りまーす!」。滝澤は張りのある声で次戦への意気込みを発し、質疑を終えたら明るいあいさつで締めくくっていた。本拠地近くの千葉・柏の葉公園陸上競技場で大敗した際は、こんな調子だった。

「いいプレーができなかったのはただただ悔しいんですけど…。NECを応援して下さった人が多いように見えたなかでラグビーができたことは、本当に嬉しく思っております」

平たい談話で逃げようとしているのではない。遠目からではわからないスクラムの際の駆け引きを、「レフリーさんの見解としては、こちらの3番(右プロップ)側と向こうの1(左プロップ)番側の距離感が近い、と。僕らとしては相手が先に(懐へ)入ってきているように感じて、向こうとしては僕らが引いていると言った。ちょっとした見解の違いがあった」と明瞭に語るなど、むしろ本心を解き明かす向きもある。つばぜり合いにおける手応えも、失敗も、いらだちも、歓喜も、失礼のない日本語に変えている。

早稲田大学理工学部の学生として、5年間、楕円球を追いかけた。卒業後はスパイクを脱いでリクルートに入社も、4カ月後に退社した。競技の魅力が忘れられず、トップリーグに加盟するNECに入り直したのだ。いまはいち社会人として、いちキャプテンとして、穏やかかつ前向きな発言に自分なりの職業倫理をにじませている。

某日の会見直後、こう心境を明かす。

「これを言っていいのかはわからないのですけど…。ここでの話を誰が(記事として)読むかわからない。弱いことを言って、向こうに自信をつけられても嫌なので。もしかしたら、チームメイトが読んで、『何だ、キャプテン。ネガティブに考えているんじゃん』と考えられてもあれですし。僕も、ポジティブな話をしてポジティブになろうと思っているところもあります。話す内容で結果が変わるわけではないので、後ろ向きなことは言わないでおこうなか、と。記者さんに言うのもおかしいですが、嘘でもいいから『よくやれた』と!」

――とはいえ、本当に嘘をついているわけではない。

「そうですね。そのつもりです。ま、色んな人に発信できる機会なので、応援している人に諦めていない姿勢を見ていただけたら嬉しいな、と」

今季初勝利を挙げた2015年12月19日の東京・秩父宮ラグビー場では、記者団の様子を見てこう笑わせたのだった。

「お、勝つと拍手をしてもらえるんですね」

2016年1月30日、埼玉は熊谷ラグビー場。緑と白のジャージィをつけた通称「タッキー」が、下部リーグとの入替戦に臨む。

日本代表のスタンドオフである田村優が構築したというゲームプランに則り、大一番特有のミスに苦しみながらも残留を決めた。17-3。

「ここ3年で、5つくらい年を取りました」とこぼす直前、記者会見では「ほっとしている。それだけですかね」と話していた。ゲームの直前に悪天候だったことを振り返り、「雪かきをしてくれた人もいると小耳にはさんで。色んな人のおかげでいい試合ができて、残留できたことが嬉しい」と続けたのだった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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