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優勝請負人が「日本代表の監督」に。佐々木隆道が新天地に描く夢。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
佐々木(中央)は「夢しかない」と繰り返す。

昨季まで日本最高峰トップリーグのサントリーでプレーした元日本代表フランカーの佐々木隆道が、今季から下部のトップイーストの日野自動車に移籍。6日、都内で入団会見をおこなった。

大阪の啓光学園高校に入学以来、早稲田大学、サントリーと全ての所属先で日本一を経験。2012年春には、当時のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(現イングランド代表ヘッドコーチ)から日本代表の副キャプテンに指名された。32歳の誕生日を迎えた昨季も、サントリーの主力として活躍。リーグ戦でのジャッカル(密集で球を奪うプレー)数は、日本人トップの22を記録した。ここ数年来クラブの強化を本格的に進める日野自動車にあって、グラウンド内外で高い影響力が期待される。

会見後は囲み取材にも応じ、世界最高クラスのスーパーラグビーへ日本から参戦するサンウルブズに関しても語った。

以下、会見および取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

(以下、記者会見中)

「日野自動車レッドドルフィンズの佐々木隆道です。お忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございます。これまで10年間サントリーでお世話になり、選手としても個人としても成長させていただきました。その10年間をひとつの区切りとさせていただいて、新しいチャレンジをしたいと思いました。サントリー関係者全員が背中を押してくれたことに、感謝したいです。

皆さんは、なぜ日野なのかと思われたかもしれません。移籍を決めたのには3つ理由があります。ひとつは、チームにトップリーグで成功するというエナジーがあったこと。もうひとつは、そのために必要なプランがあること。さらにもうひとつは、そのプランを達成した時に大きな夢があることです。

いままでサントリーで経験したことを活かし、いい相乗効果を産み出して、まずはトップリーグに昇格したいと思います。トップリーグで優勝もしくは順位争いをするうえで、グローバルな人材が必要になると思います。自分も、そこに向かってチャレンジしていけるようにやっていこうと思っています」

――(当方質問)「チャレンジ」とは。

「選手としては、日野自動車を昇格させて順位を上げる。そこに、全てを賭けていこうと思っています。

その先に関しては、インターナショナルレベルのコーチになることが自分の新しい目標になりました。そうなることで、日本ラグビーに還元できるものが生まれる。まだスキルも足りないですし、夢のような話ですけど、日本代表の監督になってワールドカップで戦えるように…。(選手として)結果を出すことで、(チームに)サポートをしてもらいながら得たものをまた還元してく」

――日野自動車の印象について。

「最初にオファーをもらった時は、あまり乗り気ではなかったです。イメージとして、そんなに本気じゃないと思っていた。自分もまだまだトップでやりたかったですし。ただ、実際にはチームにも会社にもエナジーがあって、環境があって、色んなことにチャレンジできると知りました。昨日、チーム練習に参加させてもらいました。まだまだ成長段階ではありますが、選手には意識があって、レベルもそんなに低くない。必ず目標を達成できると思いました」

――強豪ではないチームでプレーすることへの不安は。

「当初はありました。ただ、ここで経験することは将来に活きると確信しています。レベルがどうとかは大したことではなく、ここで何をするかが大切」

――リーダーシップについて。

「サントリー時代もキャプテンじゃなくなった後(2010年度以降)に6年間、プレーしました。チームに対し、どうやってコミットすれば上手く回るのか、ベテラン選手というくくりのなかで、どういう立ち振る舞いをすればチームを前に進めるか、経験してきたつもりです。まずは、日野のチームにしっかりとコミットする。

『サントリーから来た佐々木だ』の雰囲気を出すのは全然、だめです。僕よりも周りの選手の方が、日野のラグビーことを理解しています。『前にただ出ればいい』では上手くいかない。それだけはしないでおこうと思います。

練習の1つひとつのプレーへのこだわりが、試合に繋がる。エディージャパンも言っていましたが、いい準備をするからいい結果が生まれる。それはどのおこないに対しても言えることです。まず、いい準備をするサポートをしていきたいと思っています」

(以下、囲み取材)

――(当方質問)ここまで開幕5連敗中のサンウルブズ、どうご覧になりますか。

「毎試合、観ています。確かにエディーが言ったように、先発メンバーとそれ以外の選手の差は少しあると感じます(4月、国内で開いたコーチングクリニックなどで発言)。ただ、ひとつにまとまって世界にチャレンジする過程は大事。日本のチームに所属しながら、それができる…。正直、うらやましいですね」

――(当方質問)昨夏はチーム消滅の危機もありましたが、オファーはありませんでしたか。

「年寄り過ぎたんじゃないですか? ハハハハ! やらせてくれよ、とは思っていました。サンウルブズと代表のリンクは必要。日本のようなティア2の国はレベルを上げてゆけないので(強豪国にとっては格下のため、代表チームが好敵手と試合を組みづらい)。若い選手には早くインターナショナルレベルに上がって欲しいし、それに最低限必要なフィジカルも付けて欲しい。その位置にいない選手が多いから(他チームと戦力の)差が出ているんだと思うんですけど、それは伸びしろとして観ています」

――インターナショナルレベルのコーチになる「夢」について。

「沢木(敬介。元サントリーで日本代表のスタッフも経験)から学ぶことはまだまだある。自分には、プレイングコーチというスタイルは合っていない。プレーヤーとしてチームにコミットしながら、別の場所でコーチングの勉強もしたいと思っています」

――サントリーで…。

「いつでも来ていいよとは言われます。サントリーにいた頃はそこまで実感しなかったですが、チームを離れることになって、サントリーのチーム全体の環境や懐の広さを再確認していますね」

――海外でコーチをするなら、英語力は不可欠。

「避けては通れないので、英語も勉強する。他には、コーチングに最低限必要なスキルも。いまできることからスタート、ですね」

――(当方質問)コーチングの勉強、具体的にどんなことを。

「プレゼンテーションの作り方、データの活かし方…。選手をやっていてはわからないことを、沢木さんや(日野自動車の)細谷(直)監督から学ぶ。どんどん自分から足を伸ばす。待っていては、何もない状態なので。刺激を求めてやっていこうと思っています」

――(当方質問)スーパーラグビーのクラブへコーチ研修をしに行ったり。

「イメージはあります。どうせそこまで行くのなら、一緒にトレーニングをできたら最高です。まだ、選手なので」

――日野自動車では昨季まで、山下大悟さん(現早稲田大学監督、かつてはサントリーにも在籍)がプレーしていました。移籍にあたって相談は。

「いや、まったくしていません。会社とチームにエナジーがあったから、今回のことを決めました。日野のプランと自分のプランを踏まえ、賭けてみる価値があるなと。サントリーに残ることを前提に考えていましたし、サントリーからもいいオファーをいただいていた。本当に迷った。ただ、ここまで皆さんのイメージのなかでは王道を歩んでいましたが、そこから外れ、いちから強くなる過程を経験すれば、それは必ずこの先に活きる。…いい選手が言い監督になれるとは限らないので、そこは別物として考えています」

――(当方質問)いままでと比べ、高いレベルの試合経験を積みづらくなります。

「チーム練習のレベルが(トップリーグ優勝経験のあるサントリーと比べ)落ちてしまうことは、想定済みでした。でも、S&Cのトレーニングは結構、高い水準にあると感じています。(高いレベルでのつば競り合いに必要な)感覚的なものを失わないように、とは意識したい」

――コンディションは。

「昨シーズン、本当にいいパフォーマンスが出せました。それまでのいい準備が活きた。衰えは全く感じていなくて、成長しか感じていないです。まだまだ伸びますし、若手、ベテランと分けられたくないなと。メンタルコンディションもいいので、早くサンウルブズに呼んでくれよって感じです。困ったらいつでもどうぞ!」

――(当方質問)ジャッカルに関して。サントリーのホームページのインタビューで、新たにコツを掴んだと言っておられました。

「タイミングです。ジャッカルするタイミングを、知れた。このタイミングで行けば、反則を取られない。その判断基準が自分のなかでできた。もともと、(ボールを)獲ることはできた。ただ、(地面にあるボールに触れるハンドなどの)反則を取られてしまうリスクから、チャレンジする回数が減っていたのがそれまでの現状でした。反則せず奪える感覚を知れたのが大きいです」

――その基準は、言葉にできるものですか。

「言語化することは可能ですけど、それは自分の売りなので…。自分がコーチになった時に、(その技術を活かして)素晴らしい選手を育てたいですし。ジョージ・スミス(元オーストラリア代表。サントリーで佐々木とともにプレーしたジャッカルの名人)のような…。いまはイングランドにいるジョージとも連絡を取り合ったりしているので、これから先も、彼から学ぶことはあると思います。今回の時も、向こうからメールが来た。世界レベルの選手はやることも一流。しびれましたよ」

――(当方質問)エディー・ジョーンズという指導者のことは、頭にありますか。

「エディーさんの結果の出し方には、学ぶことがたくさんある。いつかあの人のもとで勉強させて欲しい気持ちはあります。ただ、いまのまま行っても、わけが分からないまま終わると思います。受け入れてもらえるだけの人間になっておかないといけない」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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