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スタッフ逮捕に見舞われた明治大学ラグビー部のいま。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
突破力は折り紙付きの梶村。「頭が使えて、身体を張れる選手になりたい」(写真:アフロスポーツ)

紫と白のジャージィをまとい、日本ラグビー界有数の人気を集める明治大学ラグビー部が、いま、窮地に立たされている。

昨季は新任の元申騎フォワードコーチが肉弾戦での粘りを醸成し、5季ぶりの大学選手権4強入り。今季は実に1996年度以来の日本一が期待されたと同時に、実は、戦力ダウンも懸念されていた。

フッカーの中村駿太キャプテンをはじめとしたセットプレーの軸、長らく攻撃のスパイスだったフルバックの田村煕らが、卒業した。前年度までの下級生が穴を埋めることとなっていた。

ふたを開けてみれば、関東大学春季大会Aグループで2勝3敗と苦しんでいる。黒星を喫したゲームでは、守備の連係を乱して向こう側の攻撃力を引き出す格好となっていた。

5月1日、東京は八幡山の本拠地グラウンド。流通経済大学に66失点を喫した直後、4年生センターの尾又寛汰は言った。

「全員が責任を果たしていれば、こんな結果にはならなかった。紫紺(ジャージィの愛称)を着ている以上はそれをしなければならないのですけど、その意識を下級生に浸透させられなかったのは4年の責任です」

さらに激震が走ったのは、7月初旬だった。ストレングス&コンディショニングコーチを務めていた29歳のスタッフが、東京都の条例違反の疑いで神奈川県警に逮捕されたのだ。

「このたびは申し訳ありませんでした!!!」

10日、7人制大会のジャパンセブンズが開かれた東京は秩父宮ラグビー場では、丹羽政彦監督が顔見知りの記者を見つけては自ら謝罪していた。

「夏は身体づくりをしっかりとやろうとしていたのですが…。まぁ、そこはもともと選手も自主的にやっていた部分もあるので」

指揮官はどうにか、前向きな指針を示す。競技力を支える身体作りのパートは、インターンでクラブに携わってきたスタッフらが補うこととなった。

「春季大会は、自分たちでやろうとしていたところが上手くできなかった」

こう語るのは新任の池田渉バックスコーチだ。元日本代表のスクラムハーフで、現役時代は三洋電機やリコーでプロ生活を全う。年長者になった頃は、自他に厳しい姿勢で組織の引き締め役を買って出ていた。

夏場に長野県の菅平で合宿を張り、秋から本格的なシーズンに突入する。若者を指導する立場となったいま、あえて楽観的な未来予想図を描いている。

「フォワードとバックス(ポジションの大枠)の間でリンクができていないところも。ただ、それはこれからの合宿で詰めていける。それほど心配はしていないです」

前年度のレギュラーが多く抜けたとはいえ、明治大学ラグビー部は普遍的に人材の宝庫なのだ。

全国にスカウティング担当が散り(丹羽監督も就任前は北海道地区のセレクターだった)、有力校とのパイプを堅持。各カテゴリーの代表に入る面子を安定的に入学させている。主力組が圧倒された流通経済大学とのゲームの日も、控えチーム同士の試合には圧勝していた。選手層の表れとも取れる。

不幸な事件を受け、最上級生は「前を向いてやるしかない」と話し合ったという。現実的に、トレーナーや管理栄養士など、戦力を側面支援するスタッフの人数は、他の中堅クラブに比べると充実している。大学選手権7連覇中の帝京大学陣営からも、昨今の強化プランを評価されている。

報徳学園高校3年生の頃に日本代表の練習生となったセンターの梶村祐介は、今季、3年生だ。池田コーチに「パススキルひとつとっても、一段上。周りの選手をそのレベルへ引き上げられるように」と期待されるなか、本人は自分に厳しくありたいとする。

「1年生の頃からディフェンスが課題とされていて、今年も、そう、観られると思う。コミュニケーションをより密に取っていきたい」

接戦をものにする際に不可欠となる「Xファクター(特別な要素)」となりうるのは、新人の山村知也か。

「相手の軸をずらす」「相手の弱い部分を狙う」と心掛け、細やかなステップを踏む。タックラーに触られぬよう前に進む。

6月は20歳以下日本代表としてワールドラグビーU20チャンピオンシップに参戦し、「身体が大きい選手とコンタクトをするなかで、自分なりの基準が上がった」。いい形で球をもらうための位置取りや下働きに磨きをかけたいとし、お題目には常に「(ボールを)持ったらトライを狙う」と掲げる。

「ポジション的に、トライを取ってスコアをするのが仕事だと思うので。あと、自分の持ち味であるランでチームに貢献する方法は、得点をすることなので。そこにはしっかり、こだわっていきたいと思います」

過去は振り返らない。伝統的な部是である「前へ」を、改めて旗印に掲げる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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