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湯原祐希。ワールドカップを題材に振り返る、スクラムの深部。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真左が湯原。仲の良いプロップの畠山健介(右)とともにグラウンド入り。(写真:ロイター/アフロ)

日本最高峰のラグビートップリーグが8月26日、開幕する。

今季は国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズが参戦してから最初のシーズン。サンウルブズにも在籍した日本人トップリーガーのパフォーマンスに注目が集まる。

確固たる意志のもと、サンウルブズ参戦を断った選手もいる。湯原祐希。昨季準優勝した東芝のフッカーだ。

身長173センチ、体重102キロの32歳。昨秋のラグビーワールドカップイングランド大会では、歴史的3勝を挙げた日本代表の一員としてチームを陰から支えた。フッカーの故障者が続いた開幕前のサンウルブズからも追加招集のオファーがかかったが、「2019年(ワールドカップ日本大会)を見据えているということなら…」と固辞していた。

湯原の辞退でサンウルブズ入りが決まったのは、同じ東芝の森太志。今季の湯原は、スーパーラグビープレーヤーとポジション争いをすることとなる。今季の東芝のオープニングゲームは27日、東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれる(相手はクボタ)。

その白眉は、最前列中央で組むスクラムの強さだ。両脇のプロップと固いバインドを組み、自らのヒットや押し込みの鋭さを最大化。その時々の相手の組み方を精査し、塊を崩しにかかる。イングランド大会では出番こそなかったが、主力組のフロントロー(フッカーやプロップの総称)からの信頼は厚かった。

イングランド大会後の熱狂冷めやらぬ昨年の11月、プレーの起点となるスクラムなどについて湯原が取材に応じている(東京・府中の東芝クラブハウス)。

以下、一問一答(全て当方質問)。

――ワールドカップ直前の9月5日、グロスターでスクラムの強いジョージア代表と戦いました。13―10で勝ったこの日、湯原さんはベンチ外だったのに、先発して退いていた山下裕史選手(スーパーラグビーのチーフスに入った右プロップ)に呼ばれ…。

「ベンチに下がった山下が、自分を呼ぶんですよ。試合中に。『スクラム、どうすか』と。『どうって、何?』ですよ。まぁ、あいつはよく『どうすか』って聞くんでしけど、『いいと思う』と言えば、あいつも安心する。で、実際によかったんですよ。だから、『いいと思う。でも、もっとこうだったらいいよね』みたいなことを伝えると、『あ、わかりました』と。『え? それだけ?』『え? それだけですけど、何ですか?』と! それで、僕は自分の座っていたところ(スタンド)へ戻っていったんです」

――技術や見識が信頼されていたのですね。当時の日本代表では元フランス代表のマルク・ダルマゾスクラムコーチが指導していました。イングランド大会中のスクラムのプランは。

「毎試合ごと、フロントローミーティングみたいなものがありましたよ。ダルマゾが僕らを呼んで、『この空いている時間にやっちゃおう』といったように。ダルマゾが組み方のチェックとキーポイントを伝えるミーティングです。

相手の1、3番(プロップ)の組み方を見ました。イン組み(相手のフッカー方向に頭をねじ込む組み方)が得意、アウトに足を開いてからインに入って来る…といったような。そのあたりの分析はダルマゾコーチがしてくれるので、その対応を考えました。もちろん、その対応ばかりだとこちらが攻められない。基本は、低く組んでプレッシャーを与える。ヒット、チェイス、ボールをすぐに出す…ということですね。

ミーティングでは自分のやることと、相手のやってくることをしっかりと確認するようにしていましたね。それがしっかり、試合で活きた」

――日本代表が34―32で勝つ南アフリカ代表戦(9月19日・グロスターキングスホルムスタジアム)の前には、エディー・ジョーンズヘッドコーチが相手プロップのヤニー・デュプレッシーにプレッシャーをかけていました。「医者の免許を持っているようだが、試合では自分がレフリーになったみたいにぺちゃくちゃと喋ってくる」と。

「デュプレッシーがどう組むかは、ダルマゾも口を酸っぱくして言っていました。自分たちも『インに入ってくるね、こうしよう』と言い合っていた」

――序盤のスクラムで日本代表が反則を取られたスコットランド代表戦(9月23日にグロスター・キングスホルムスタジアムで10―45と敗北)後、ダルマゾコーチは「信頼できるレフリーに相談して、早急に対応する」と話していました。

「自分たちが『これでいい』と思っていてやっていることが上手くいかなかった時、ダルマゾとしては相手の反則があったと思ったんでしょうね。やっている自分たちとしても、正しいことをしているのにペナルティーを取られる…ということがある。とはいっても、試合はレフリー(の判定)ありき。レフリーがオッケーと言ったものはオッケー。あの試合はショータ(フッカーの堀江翔太副キャプテン)を中心に建て直したんですけど、今後、何かを変えていかなければいけないのかどうか、ダルマゾも確認したかったんだと思います」

――では、その「確認」で、素早いヒットなどのチーム方針は変わらなかった。

「そうですね。いままで通りしっかりプレッシャーをかけて…ということでした。うちがやっていることを別のレフリーに確認したら、『オッケー(一般的には反則を取られない)』だったんでしょうね」

――このワールドカップでは、前キャプテンの廣瀬俊朗さん(引退)と湯原さんは出番を得られませんでした。

「俊さんとも話していたことですけど、まずは試合に出る気で行く。練習でしっかりと競って、エディーさんにアピールする。そこは、頑張ります。

ただ、出られなくなったからといってもメンバー外の仕事がある。メンタル的に落ちるということはなかったです。いい状態で、2人のフッカーに試合へ出て欲しいと思っていました。本気でサポートしたいと思える、いい仲間だったので」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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