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リオ五輪男子7人制日本代表の福岡堅樹が持つ、「同じ反省が出ないように」力。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
加速力は、7人制代表としても活かされる。(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

目に見えない魅力

目に見える魅力を、この人は持っている。

日本時間で2016年8月9日未明から始まる、リオデジャネイロ五輪の7人制ラグビー男子の部。

日本代表の一員である福岡堅樹は、走り出しの際の加速力で台頭した23歳。昨秋のワールドカップイングランド大会では、15人制代表の一員としてもプレーした。

同じ広さのグラウンドでおこなわれる15人制と7人制だが、兼務が難しいことでも知られる。プレーする人数どころか、試合時間やスケジューリングも大きく異なるためだ(15人制では80分のゲームを1日1回が基本だが、7人制の大会では14~20分の試合を1日に複数回おこなう)。今度の日本代表でも山田章仁が落選して藤田慶和がバックアップに回った。ニュージーランド代表では、世界一とされる15人制代表でもあったリアム・メッサムがメンバー外となった。

そんななか今春から7人制に専念した福岡は、厳しい定位置争いの末、切符を掴んだ。注目されるのは、広大なスペースを射抜くスピードという刀だ。

もっともこの人には、目に見えない真の魅力もある。

失敗をすぐ糧にする、修正能力だ。

「軽いプレー」の後悔

福岡県下有数の進学校である福岡県立福岡高校の出身。父や祖父が医師だったこと、怪我の多い競技生活で外科医に憧れを抱いたことなどから、医学部進学を志した。もっとも競技生活を優先すべく、2012年に筑波大学の情報学群へ入学。ここから、ラグビー選手としての自己実現を果たすこととなる。

同級生より1年遅れで大学レベルでのプレーを始めると、国内の若手育成を担う組織であるジュニア・ジャパンに加わった。3月中旬から約1ヶ月の間、パシフィック・ラグビー・カップに参戦し、オーストラリア、ニュージーランドを渡り歩く。ツアー中、総務をしていた勝田譲に呼び出された。

「まだ、皆には言わないように」

日本代表に招集された。イングランド大会まで指揮を執るエディー・ジョーンズヘッドコーチに、「ワールドクラスのスピード」を認められたのだ。

ここで福岡は、目に見える魅力と目に見えない魅力の、両方を示してゆく。

まず前者は、テストマッチ(国際間の真剣勝負)デビューを飾った4月20日に見られた。

地元の福岡にあるレベルファイブスタジアムでのアジア五ヶ国対抗初戦でベンチ入りを果たすと、後半9分から途中出場。フィリピン代表を快速で振り切り、2トライを挙げた。

「瞬間のスピードの部分では勝負できることもわかりました。まぁ、相手を少し引き離すようなこともできたと思えたので」

そして後者は、6月に示される。欧州王者だったウェールズ代表を、日本に招いた時のことだ。

1戦目があったのは8日、大阪・近鉄花園ラグビー場(当時名称)。

先発した福岡は1点ビハインドで迎えた後半23分、自陣中盤でボールを持つ。何となく、目の前にスペースがありそうだと思ってキックを放つと、すぐに痛い目に遭った。

弾道はそれほど伸びず、相手の手中に収まったのである。ウェールズ代表はそのまま軽快にパスを繋ぎ、追加点を挙げる。結局、18―22の4点差で敗れてしまった。

当時、福岡は悔しそうに言った。

「裏が空いているのを見て蹴ろうと思ってしまったんですけど、あそこはしっかりキープして、もう1回、ジャパンの攻めをするべきでした。自分の判断能力が良くなくて、軽いプレーをしてしまって……。そこは反省材料なので、しっかり考え直して、判断をしっかりしたいです」

ジョーンズもこうだ。

「本来であれば、絶対にやってはいけないプレーです。でも、彼はそれをテストマッチのなかで経験した。パワフルなレッスンだったと思います」

課題修正の力

ここからが、福岡の目に見えない魅力の真骨頂である。

ジョーンズからは、常に「課題をできるだけ早く修正する。それが一流の選手だ」と言われていた。

何より、幼少期はいつも自分のプレー映像をレビューしていた。地元でラグビーを楽しんでいた父の綱二郎さんとともに、課題をすぐクリアする習慣を作り上げていたのだ。

「次の試合で、2度と同じ反省点が出ないように」

自らの競技哲学を反芻して臨んだ、15日の2戦目。東京の秩父宮ラグビー場で、あの時と同じような状況でボールを手にするのである。

「中途半端はなしにしよう」

一気に、加速する。

「自分のスピードで、思いっきり」

この国独特の蒸し暑さにやられたウェールズ代表は、すでに疲弊していた。かたや九州の若者はまだまだへばらない。足の止まった守備網を、一気に切り裂く。

疲れたラグビー選手は、次第に腰高になる。膝を落とし、相手の懐に飛び込むべきところでも、つい、状態がうわずったままになる。

このシーンでも、福岡を追いかけたタックラーは背後から手を伸ばしただけの体勢。その腕力に福岡は倒されたが、レフリーは「危険なタックル」があったと反則の笛を鳴らした。後の時の人、五郎丸歩がペナルティーゴールを成功させた。

そう。確かに福岡は、素早く課題を修正するという目に見えない魅力を活かし、加速力という目に見える魅力をフル稼働させた。ノーサイド。23―8。白星を挙げたである。

「高いレベルでの経験は貴重なもので。それはいまの試合にも活きていると思う。何より、自分のプレーに自信を持てたことが大きいです」

先は、短い?

いずれは医者を目指し、医学部に入り直すつもりだ。トップレベルにおける自分の選手生命は、そう長くないと想像している。集大成は、2020年の東京五輪あたりか。その頃ならきっと、速さという目に見える魅力も色あせていまい。

若いが、悠長には構えていないだろう。短期決戦のリオ五輪。目に見えない魅力で成長を重ね、大一番でのビッグランで魅せたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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