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「どんどんお客さんは…」。生粋のリーダー、佐々木隆道が思う危惧。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真は4月の入団会見時。背番号7をつけ、接点で働く。

国際レベルの指導者を目指す日本の有名なラグビー選手が、この国の楕円球界の未来を思った。

佐々木隆道。大阪の啓光学園高校に入学以来、早稲田大学、サントリーと全ての所属先でキャプテン就任と各カテゴリーでの日本一を経験。2012年春には、当時のエディー・ジョーンズヘッドコーチ(現イングランド代表ヘッドコーチ)から日本代表の副キャプテンに指名された。

33歳の誕生日を迎えた今季は、数年来クラブの強化を進める日野自動車へ移籍した。日野自動車はトップイーストディビジョン1で、年を追うごとに順位を上げている。社員選手の勤務時間を短縮しないまま、国内最高峰トップリーグへの昇格を目指す。

トップリーグには、佐々木のいたサントリーも加盟する。佐々木は発展途上のクラブでの体験を通じ、自らの成長を促している。

「インターナショナルレベルのコーチになることが自分の新しい目標になりました。そうなることで、日本ラグビーに還元できるものが生まれる。(選手として)結果を出すことで、(チームに)サポートをしてもらいながら得たものをまた還元する。チームにも会社にもエナジーがあって、環境があって、色んなことにチャレンジできると知りました」

9月25日、東京の秩父宮ラグビー場。トップイーストの第3節があった。秋田に66―5で大勝して開幕3連勝を決めた佐々木は、自らの現在地と現在のラグビー界に対する思いを明かした。

以下、一問一答。

――社員選手主体の日野自動車にあって、数少ないプロ選手。チームから「スタンダードを上げてくれる」と尊ばれています。この「スタンダード」とは。

「フィットネス、スキル、パワー…。特にラグビーでは、身体を強くすることからは逃げられない。もっとタフに、ハードワークできる選手を作っていきたい」

――古巣のサントリーも好調。沢木敬介新監督のもと、今季のトップリーグで開幕4連勝中です。

「皆が活き活きしている。迷いなくプレーしている。嬉しいですね。沢木さんからは色々なアドバイスをいただいています。例えば、『いまの日野、××がちょっとよくないんですよね。僕はこうしたらいいと考えているんですけど』と相談をしたら、『それなら、こういうアプローチをしたらいいね』『こういう意識づけをしたらどう?』と」

――将来はコーチになりたいようですが、日野自動車ではあくまで選手として戦おうと考えていますね。

「選手からの要求として、『タフになるために、もっとデザインされたトレーニングが必要になる』『ウェイトトレーニングやフィットネスはもっと必要』と。仕事との兼ね合いもあるので、スケジュール管理も含め…(首脳陣に問いかけたい)」

――社員選手は夕方まで働いている。

「頭、上がらないですよ。ただ、勝つんだったらやらなきゃダメ。それとこれとは、別。(仕事を全うしていることは)偉いんですけど、(こと勝負においては)勝たなきゃ偉くない。どうすれば働きながらでも身体を強くできて、日野のラグビーを遂行するタフな選手になれるか…ですね」

――制約下で本気の強化。なかなかできない経験です。

「本当に。逆に、(日野自動車には)こういうことをやりに来ているんです。できないこと、何もないことすら、経験です。ロッカールーム、ないですから。体育館で着替えています。凄いでしょ? ミーティングをする時も、会社の福利厚生施設の一角を使わせていただいています。シャワーは、あります」

――古巣のサントリーのクラブハウスにはロッカー、浴室、複数のミーティングルーム、食堂などがあり、国内トップクラスの環境です。

「いまサントリーにお邪魔すると、『凄いなぁ! 何だ? ココ!』と思いますよ。(プレーしている選手は)幸せだね」

――話は変わりますが、9月22日に日本プロバスケットボールリーグ・Bリーグが開幕しました。元サッカーJチェアマンの川淵三郎氏のもと、分裂していた2つの国内リーグが統合。東京体育館でのオープニングゲームには9000人ほどのファンが集まり、テレビ中継もされました。

「実際に試合も観ました。ああいう思い切ったチャレンジを決断したバスケット界が素晴らしいと思いました。実際のところはわからないですけど、違う畑の川淵さんに頭を下げて、お願いしたんでしょうから。どんどんよくなっていくでしょうし、競技を知らなくても、あの場に行くことは楽しい…となる。スポーツをエンターテイメントビジネスと考えた時は、ラグビー界は、遅れているなと感じます。そこにアプローチできないようだと、どんどん、お客さんは離れていくんじゃないですか」

――日本ラグビー界の課題は、試合の質と観客動員数との間にかなりのギャップがあることです。

「そう。プレーの質は上がっているんです。ただ、選手がいくら頑張っても、組織が変わらないと。(運営面では)実際にどうなっているかを知らないので何も言えませんが、然るべき人が動いていて欲しいな、という願いはあります!」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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