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サンウルブズのエドワード・カークが訴える、「草の根」の大切さとは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
髭とジャージィの色が同じ。忠誠心の人。(写真:アフロスポーツ)

国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズが12月12日、発足2シーズン目となる2017年度のスコッド36名を発表した。都内でおこなわれた記者会見の後、エドワード・カークが決意を語った。

身長191センチ、体重101キロ。オーストラリア・ブリスベンで生まれ育った25歳である。過去には故郷のレッズの一員として、スーパーラグビーの公式戦39試合に出場した。

2015年度は怪我の影響でレッズとの契約に至らなかったが、初来日した2016年度はフランカー、ナンバーエイトとして全15試合(14試合先発)に登場する。チーム最多の146タックルを放ち、密集戦の球へも絡みまくった。このほど、2シーズン連続での参戦を表明した。

昨季終了直後も日本でのプレーを希望していたが、今季の国内トップリーグでのプレーは叶わず。母国で静養する一方、来季に向けて都内チームへの練習参加なども敢行。その時を待っている。

2010年、2011年と20歳以下オーストラリア代表に選ばれ、同国7人制代表としても活躍したことがある。そのため日本代表入りへの資格獲得へのハードルは高いが、「日本国籍取得後、7人制日本代表としてセブンズワールドシリーズに4戦以上出場」などの選択肢はある。

2019年のワールドカップ日本大会に向けた代表強化を命題とするチームは、昨季の通算戦績を1勝13敗1分けとした。選手個々がタフさを醸成し、狼の鳴きまねをする応援方法を確立した。一方、遠征時の食事が不十分だったことなど運営面で課題を残している。

今季も昨季と同様、4つあるカンファレンスのうち南アフリカカンファレンス1に参戦。強豪の揃うニュージーランドカンファレンスのチームとも試合をする予定だ。2月25日には、東京・秩父宮で開幕節に挑む。相手は前年度王者でニュージーランドカンファレンスのハリケーンズである。

以下、カークの一問一答(編集箇所あり)。

――改めて、今季もサンウルブズでプレーしたいと思った理由は。

「昨季、サンウルブズが私にプレーをする機会を与えてくれた。

あれは、いまからちょうど1年前だったと思います。きょうのような形で、サンウルブズが船出する記者会見がありました。この先のサンウルブズがどうなるのか、誰もわからない状態だったと思います。あの時、私も1人で日本にやって来て、参加しました。

怪我で苦しんだ前年を経て、もう1回、大好きなラグビーをエンジョイできた。戻ってこない理由はなかったです。今季、トップリーグでプレーできなかったことは残念でしたが、それを差し引いても日本でプレーしたかった」

――来季のトップリーグではプレーできるのですか。

「そうだといいですね。サンウルブズで一緒にいた仲間と、また場所を変えてプレーしてみたい。

今季のトップリーグ入りが叶わなかったことは、私にとってタイミングの問題でした。私からアプローチをしなかったなか、各チームの選手獲得のタイミングが終わっていた。そのあたりのことを、もっと知っておくべきだったとも思います。

いまの日本ラグビー界のことも、よく見ています。一方では海外ラグビー、一方では国内ラグビーがある。大学からいい選手もトップリーグへ上がってくるなか、私もトップリーグのどこかでポジションを獲得できれば、より成長できる。私はまだ若い。たくさんのオファーを待っています」

――シーズン終了後はどう過ごしていたのですか。

「帰ってからの2週間は、ほぼほぼ寝ていたと言っても過言ではありません。その後は、大学へ戻りました(クイーンズランド工科大学)。国際ビジネスを学んでいたのですが、単位が残っていた。それと同時に、ジムでトレーニングを積んでいました。ボクシングのセッションもしていました。…先ほどの記者会見で、大野均選手に私のお腹が出ているとからかわれました。大野選手はフィットしているようです。抜かりのないようにやっていきたいです!

また、私の所属していたイーストラグビーユニオンという組織が活動をしていたので、そこへ参加したりもしました。イーストラグビーユニオンは、かつて自分が長く在籍し、成長できたと思えるクラブです。自分にとっては、そうしたグラスツール(草)ラグビーに改めて加わることはとても有意義でした。

ここからさらに話をすると…。サンウルブズの選手はトップリーグから出てきて、そのトップリーグへは大学のチームから選手が集まります。その意味では、子どもたちがラグビーをプレーしてくれて、大学やトップリーグの選手が代表やサンウルブズを目指すパスウェイは大事なものです。日本のラグビーが発展するには、この草の根の活動が大事。それは国を問わず、言えることだと思います」

――今回のサンウルブズでは、日本代表資格を取得していない数少ない選手の1人です。

「確かにそうだと思います。注目されるのは資格取得が期待される選手の状況です。ただ、個々の置かれた状況がどうであれ、与えられる機会は一緒です。すべてはどれだけ練習でやる気を示すか、プレーへの姿勢をどう見せるかにかかってくると思います。昨季も、私はこの点を重視していました。もちろん、それで満足しているわけではありません。いい方へも、悪い方へも転がり得る。

去年は、それ以前の怪我のこともあり、ただラグビーの現場へ戻ってくるという感覚が強かった。ただ、今年はそうではない。もう1歩成長して、自分のポジションを固める。より大変になるでしょうが、そうしていきたいと思っています」

――帰化やワールドシリーズ出場など、いくつかのハードルを乗り越えて日本代表になる意志はありますか。

「ワールドラグビーが定めているレギュレーションの他に、各国の定める代表資格に関する方針がある。私は17、18歳の頃、オーストラリアの(カテゴリー別の)代表になったことがある。昔の話なのですが、代表資格という点では、オーストラリアに縛られた状態です。

もし、環境が許せば、そこ(日本代表入り)へ積極的に手を挙げたいとは思います。新しいレギュレーションに沿って手を挙げられるのなら、それは私にとってもいいことです。

ただ、代表資格取得が叶わなくても、私はスーパーラグビーのサンウルブズでプレーしたい。トップリーグでもプレーしたい。なぜなら、日本でプレーしたことが、私のラグビー観に新しい角度を与えてくれたからです。だから、私はここに立っています」

――今季、他のチームからオファーはありませんでしたか。

「シーズン終了後、私がオーストラリアへ帰ると『母国で新しいチームを探すためだ』という記事が出ました。それは私にとっては残念なものでした。ファーストチョイスはサンウルブズです」

――ちなみに、日本のどんなところが好きなのですか。

「全てです! サンウルブズのシーズンが始まる前に日本を1人で旅をしましたが、その時、日本の仕組みが好きだと感じました。私は色々なものにきちっとし過ぎていて、パートナーにも嫌がられるぐらいです。それが日本のカルチャーにも合っているかと思います。また、実際にサンウルブズでプレーしてみると、日本のラグビーが向かっていく方向性、日本のスポーツチームを応援する姿勢、人を敬うところも素晴らしいと感じました」

――昨季のプレーぶりから、ファンがツイッターで「#エドワードカークを獲れ」というハッシュタグを拡散していました。ご存知でしたか。

「いや、知りませんでした。それがもっと長く続くことを祈ります」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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