Yahoo!ニュース

元南アフリカ代表の貴公子、ジャック・フーリー。引退試合直後に思い語る【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
トライを取れる場所へ駆け込む。(写真:アフロスポーツ)

楽しむとはどういうことか。後悔のないよう真剣に戦うことだ。日本でスパイクを脱ぐこととなった世界的スターは、ラストメッセージにそんな思いを込めたか。

世界有数の強豪である南アフリカ代表として72キャップ(国際真剣勝負への出場数)を獲得してきたジャック・フーリーが、1月14日、日本の神戸製鋼の一員として現役最後のゲームに後半19分から出場(兵庫・ノエビアスタジアム神戸)。優勝を決めたサントリーに15―27と敗れた後、思いを明かした。

共同取材では、国際的選手であり続けるための条件を聞かれた。「楽しむ」という言葉で応じた。

以下、共同取材時の一問一答(編集箇所あり)。

――現役最後の試合を終えて。

「自分たちのスタイルをポジティブな形で出し、サントリーさんを相手にプレーする。それができたので良かったです」

――ラストゲームを前に、ご自身の気持ちは。

「チーム全体がポジティブにアプローチできたのと同じように、自分自身もポジティブにゲームへ臨めました」

――選手入場の際は、先頭に並んでいました。

「ハシモ(フランカーの橋本大輝キャプテン)からの提案です。この試合も先頭に立ってリードして欲しい、という気持ちを込めたうえで、最初に並ぶことになりました」

――引退の理由。

「15年間のキャリアを重ねてきて、その時が来ているのかなと。身体の疲れも出てきていると感じました。自分のタイミングで辞めたい、という思いもあった。これが自分とってのベストなタイミング」

――怪我は。

「現時点ではないですが、過去数年で何度も怪我をして、回復して…と。もう、プレーするのは難しいと感じました」

――とはいえ、周りからは惜しむ声も聞こえてきたのでは。

「19歳からキャリアを始めていて、メンタル的、体力的にも疲れています。個人的には、引退のタイミングとしてはいまが完璧だと思っています」

33歳のフーリーは身長190センチ、体重105キロの大型センターとして、国際舞台で活躍した。ナショナルチームの一員としては、2007年のフランスワールドカップで優勝。「世界最高のアウトサイドセンター」の名をほしいままにしていた。

味方への指示を送る大きな声、力強いラン、広い守備範囲…。その才能は、2011年から6シーズンプレーした日本でも発揮された。

来日初年度を群馬・太田市のパナソニックで過ごすと、翌2012年度に移籍した神戸製鋼では2013年度にトライ王を獲得した。甘いマスクと紳士的な態度もあり、多くのファンや関係者に支持されてきた。

通訳を介しての話の合間、「はい、そうですね、そうですね」ときれいな発音で相槌を打つ。

話を進めるうち、「楽しむ」というフレーズを重ねてゆく。

――改めて、国際的選手であり続ける秘訣は。

「常にハードワークする。そして、自分のしてきたことをどれだけ楽しめるか、です。毎日、毎日、楽しんでいけるか。楽しめれば、自ずと結果がついてきます」

――日本でプレーしてきたなかでの思い出は。

「南アフリカではタイトなラグビーをしてきましたが、新しいスタイルのもとでプレーしたいと思いました。その意味で、日本でのセカンドキャリアを通してリフレッシュできた。自分にとっては、いいものでした。自分のプレーした準決勝、決勝は思い出になっています。また、神戸のために取ったトライシーンが記憶に残っています。

優勝するために、というより、自分、家族がどれだけ楽しめる環境に身を置くかを主眼に置いてきました。この6年間は、自分にとっては一番楽しめた期間です。ラグビーと、自分たちの生活をどう楽しめるか。そのサイクルが上手く回ることで、よりラグビーを楽しめる。

太田、神戸の両チームで、たくさんのいい友だちができた。それは記憶からなくなりません」

――神戸製鋼へのメッセージは。

「常に諦めない気持ちのあるチームになって欲しい」

――日本のファンへは。

「(神戸製鋼は)いつも成功するわけではないですが、それでもサポートしてくれた。感謝を申し上げたいです。とてもホスピタリティのある応援でした」

――今後は。

「これからは家族、友だちとゆっくり過ごし、コーチングの勉強を始めます。自分は、ディフェンスコーチとしてのキャリアを積みたい。タイミングさえ合えば、どこでも楽しめる自信があります」

――神戸製鋼からオファーがあれば。

「神戸の皆は家族のようなもの。それ(ラブコールが来ること)がもし来年ではなかったとしても、喜んで、行きます」

所属した日本のチームの選手からは、プレーと同時にその人間性を尊ぶ声が漏れる。昨秋に亡くなった神戸製鋼の平尾誠二ゼネラルマネージャーも「何より性格、ハートがいいからな」と貴公子を称賛。今季終了後の会見では、実直なフランカーの橋本キャプテンがこう、言葉を選んでいた。

「トップレベルとは何かを行動で示してくれる人でした。また、ラグビーを楽しむこととはどういうことかを教えてくれる人でした。素晴らしい人間でした」

ロッカールームへ戻る際、フーリーは取り巻く記者に「どうもありがとう!」「気を付けて!」と日本語で繰り返していた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事