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日本代表ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ会見ほぼ全文。リーチ・五郎丸へも言及【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
トニー・ブラウンコーチとの二人三脚で2015年のスーパーラグビーを制覇。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが1月19日、都内で会見。2016年秋にあった就任後初のツアーの感想、2017年度の展望を語った。

現役時代には日本でのプレー経験もあるジョセフヘッドコーチは、昨夏まで国際リーグのスーパーラグビーでニュージーランドのハイランダーズを指揮。9月に来日を果たすと、11月に国内外で4つのテストマッチ(国際間の真剣勝負)をおこなった。

11月5日、東京・秩父宮ラグビー場ではチームは新しく構築していた組織防御が崩されるなどし、アルゼンチン代表に20―54で敗れた。しかし、12日にトビリシ・ミヘイルメスキスタジアムでおこなわれたジョージア代表戦では、相手の強力なスクラムに押し込まれながらも28―22で初白星を獲得。続く19日には、カーディフ・ミレニアムスタジアムで欧州6強の一角であるウェールズ代表に30―33と肉薄した。最後は26日、ヴァンヌのスタッド・ドゥ・ラビーヌでおこなわれたフィジー代表戦を25―38と落としていた。

2017年は、サンウルブズ(スーパーラグビーに参戦する日本のチーム)との連携をより強化。6月、11月におこなわれる強豪国(ルーマニア代表、アイルランド代表、オーストラリア代表、フランス代表との対戦が決定)とのテストマッチに向け、選手層の拡大などに着手してゆく。

以下、会見中の一問一答(編集箇所あり)。

「きょうはお集まりいただきありがとうございます。また皆さんとお会いできてうれしいです。

最初に申し上げたいことは、昨年11月のテストマッチに向けた最初の3か月間というのは、コーチとして大事な、そして大変な時期でした。

そして、再来日して最初に思った印象は、日本のラグビー人気が出ている。これは2015年の成績のおかげだと感じました。それはどういうことかというと、我々への期待度は高いということ。サンウルブズがスーパーラグビーに参戦したシーズンを終えたばかりのなか、私はヘッドコーチになった。

一方、現実的に私のもとにあったのは、2015年の成績は大きな時間を割いて培われたものだったということ(エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチが長期キャンプを敢行)、そのなかのメンバーの半分近くが(代表を)引退していた(もしくはそう見られていた)こと、もうひとつ申し上げるならば、コーチングスタッフに加わるはずのコーチがスーパーラグビーにコミットしていたり、日本のチームに属していたことでした。

そんななか、私がひとりで選手を観て選んでいかなければいけなかった。難しい状況下ではありましたが、秋のテストマッチがいいステップだったのは確かです。

チャレンジすべきこと、課題はあった。それはマインドセットです。いま申し上げたような難しい状況下でも、我々にとって最も大事なことはラグビーをすることです。

アルゼンチン代表戦。タフな相手に臨むには、経験値が少ない選手が多かったところもあったと思います。

その後、ティア1(最上位層チーム)、ティア2(2番手集団。日本代表も含まれる)と試合をおこなうなか、何をしなくてはならないか。それを考えた時、最初にティア1のアルゼンチン代表と戦ったのは、経験という点ではよかった。タフな相手に挑んでなかなか難しいところがあったが、よくやってくれた。

いい意味で力を出してくれたと思ったのが、ジョージア代表戦です。ああいった相手(重量スクラムが強み)と彼らのホームでやるのは難しいのですが、よくやったと思っています。

さらにステップアップしたのはウェールズ代表戦。我々がどんなラグビーをすべきかを選手たちが示してくれた。ゲームプランへの理解度がまたひとつ深くなった。それによって我々のレベルが上がった。

ということで、それまでの3試合は我々にとってポジティブなステップでした。ただ、その後のフィジー代表戦は本当に残念だったと言わざるを得ない。テストマッチが続くと(次戦までの)準備期間が短くなったり、そのなかで新たに集中するのが難しくなる…。以上が、私が秋のテストマッチから受けた印象です。

ここからは今後のプログラムについてお話しします。私自身、また私の仲間たちとともに、代表をいかに強く発展させるかという話です。

(21~29日の)日本選手権が終わったら、直ちにコーチ陣を集めて始動します。そのコーチ陣にはサンウルブズのコーチ陣も含みます。こうして自分のもとに皆が集まって何かを始めるのは、今回が初めて。ここから細かいプラン作りなど、色々な話をしていきたいと思います。今後は3つの大会へ3つのチームで挑むこととなる。

PRC(パシフィック・ラグビーカップ、3月予定)。フィジーでおこなわれる大会です(前年度までは20歳以下日本代表相当の「ジュニア・ジャパン」が参戦)。そしてARC(アジアラグビーチャンピオンシップ、4~5月予定)。ここにはジャパンとして参加しますが、実際にはサンウルブズや大学などの若手選手が混在するチームで挑みそうです。そして、サンウルブズが挑むスーパーラグビーです。

ご存知の通り、スーパーラグビーでは大変な戦いが繰り返されます。今回は戦い抜くため、40名以上のプレーヤーを選んでいます。ここでの私の役割は、サンウルブズが遠征に行く際、そちらへ連れて行かないプレーヤーに、大学などの若い選手をその都度呼びながら、日本のスコッドをもっと強くするために育ててゆくことです。3、4月は、おもにそうしたことをしていくことになります。これは私自身、日本にどんな選手がいるのかを理解するいい機会にもなる。これから70人以上の選手を観て、6、11月のテストマッチへの準備をしてゆく。3、4月の活動は張り切って臨む。それは、2019年にもつながると思います」

――ワールドカップイングランド大会の好成績で、ジョセフヘッドコーチの仕事の重みは増したのか。

「私がアポイントを受けて最初に動き出した時には、まだコーチ陣が揃い切っておらず、その一部はパートタイムであった。そこは私がきちんとやらなくては、との思いで動きました。2015年の期待を受けてというより、実情のなかで動かなければ、という思いがありました。

ワールドカップ2015年大会から昨秋のテストマッチまでの間に、時間は何か月も過ぎています。過去は振り返らず、置いていかなければいけない。私が見ているのは未来です。自分の周りにいるスタッフとさまざまなプランができている。そこで大事なのは、スーパーラグビーこそが日本人の成長の礎になるということ。大会である以上は(勝利を目指して)戦わなくてはいけませんが、この活動をすること自体が日本のためになる。それは、大きなことだと思います」

――11月のツアーが終わってから、どう過ごしていたか。日本のラグビーシーンはどれくらいチェックしていたか。

「11月の遠征後、すぐロンドンへ出張しました。ワールドラグビーのミーティング参加のためでした。そこではワークショップもおこなわれ、ラグビーというゲームをいかに発展させるかを統計的観点から話し合いました。これまでニュージーランドをベースにコーチ生活をしていた私にとっては、学びの場でした。新鮮な思いでした。

その後はニュージーランドに戻り、家族とともにクリスマス休暇を取りました。その後、大学選手権などの試合を視察しました。ここで大事なのはセレクション。サンウルブズはすでに大多数の選手と契約していますが、日本の選手の多くはアマチュア。契約のプロセスで、手続き上、他国よりも時間がかかる。逆に、私たちにとっては選手をじっくり観る時間があるとも言える。例えば、サントリーがトップリーグで優勝するプロセスにおいて、優勝するまで一貫して戦い抜く若い力をじっくりと観られた。そういうメリットは、あったと思います」

――サンウルブズと選手との交渉の難しさについて。

「1つのチャンネルから1人ひとりの選手を選ぶのは簡単。ですが日本の場合は、大学、トップリーグの各チーム、さらにスーパーラグビーのなかから選手をセレクトし、契約する。ニュージーランド(のスーパーラグビーのチーム)のように、(地域の)アカデミーから選ぶよりは複雑。ただ、こういう状況なのだということを、自分でも言い聞かせています。他のコーチ陣と頻繁に協議して、選手の能力を見極めて選んでいます」

――幅広い選手の選考は今後もおこなうのですか。また、ワールドカップイングランド大会時のリーチ マイケルキャプテン、五郎丸歩副キャプテン(ともに大会後、代表からは離れている)についてはどう考えているか。

「日本のラグビーのため、サンウルブズの選手は幅広く選んでいきたい。そこには外国人選手も含まれますが、リアン・フィルヨーン選手以外はいま現在日本代表資格がある、または2019年までにそれを獲得できる選手です。それが私たちの作った基準です。日本ラグビーにとって、その基準が必要だと考えたからです。

さらに、日本の若い選手、ハイレベルな経験のあるベテラン選手も入れ、サンウルブズとして挑む…。それがサンウルブズに関するアイデア。(最終的には年間で)50名近くは名を連ねることになります。

それを踏まえ、五郎丸、リーチはどうかということですね。他にも、そういう選手がいるのですが…。

我々が求めるのは、ひとつのスコッド。『日本代表はサンウルブズに入った選手から』。これを突き詰めていきたいと考えます。ただ、色んな挑戦をする選手のことはリスペクトしています。五郎丸選手はまさにそのいい例で、一貫していいラグビーができるようにフランスにいるのだと思います。一方で、PRC、ARCなどを私たちが直接観ながら見極めていくのが育成の近道だとも考えています」

――若い選手の指導。どんな内容のセッションを通し、どんな資質を身に付けさせたいか。

「一言では伝えられないが、スキルセットを身に付けていただきたいし、ポテンシャルを伸ばして欲しい、身体も作ってもらいたいとも思います。コーチとして、自分たちのチームで求めるものへと近づけるように…。

ただ、私が冒頭に話したことのポイントがどこにあるかと言いますと…。昨年に関しては、遠征に行かなかったサンウルブズの選手は自チームへ戻るだけ。それが今年はそれが違うんだ、ということです。そのための予算を計上して、計画を立てていこうと考えています。例えば、南アフリカにサンウルブズが遠征する間、週の4日ほど都内で私やコーチ陣たちと一緒に過ごす…。そこでは他の外国人コーチ陣、日本人コーチ陣たちと一緒になって何かをするということも、私の責任、仕事だと思っています」

――2019年に向け、今秋のテストマッチ期間はどんな位置付けか。

「11月の対戦に関しては、強い2チームとおこなうことになる(オーストラリア代表、フランス代表との対戦が決定)。強いチームと戦えるほど、自分たちにとってはいいこと。彼らと戦うことで、個々の能力のレベルアップが期待できるからです。

課題は、チーム云々というより、ツアーに臨む前の準備段階の点にあると思います。昨年のアルゼンチン代表戦時に対照的だったのは、我々がトップリーグをしている間、彼ら(アルゼンチン代表)は彼らの準備をしていた(日本代表戦の前には、ラグビーチャンピオンシップでニュージーランド代表、オーストラリア代表などと対戦)。

トップリーグの試合は、ティア1との試合に向けた準備としてはパーフェクトではない。激しさ、フィットネスのレベルを昨年のアルゼンチン代表のレベルに持って行かなければいけないなか、国内のストラクチャー(年間日程)をもっと見て(調査して)いかないといけない。

2019年を鑑みてひとつクリアなことは、選手のなかには引退の近い選手が多くいるという現実です。次の世代のプレーヤーを、きちんと育てなくてはならない。若い選手は、今年のレベルのままではいけません。2019年までに準備万端で育てないと。

11月のテストマッチを通し、フォワードでそういったことをしなければ、と考えた場合で言えば、堀江翔太や畠山健介(いずれも、昨秋のイングランド大会まで2大会連続でワールドカップに出場)を認めながらも、次の選手を育てなければいけないと思っています。

堀江選手は昨年、2月にサンウルブズのメンバーとして始動して、6月は日本代表戦に出て、7月に残りのスーパーラグビーのシーズンを戦い、8月からはパナソニックの活動(トップリーグ)が待っていて、11月には日本代表戦、そしてまた、新しく…。これでは、続かないと思います。日本のトップレベルの選手がこういうサイクルにいるなかで、海外に行く選手、代表へ行かないという選手が出ている。優れた選手にとって、このストラクチャーがベストではない。そのことは、きちんと見ていかなくてはならないと思います」

――日本代表格のメンバーでは、山田章仁選手、小野晃征選手、畠山健介選手はサンウルブズに入っていない。ツイ ヘンドリック選手、アマナキ・レレイ・マフィ選手はスーパーラグビーの別のチームにいる。今後の代表メンバー選考時、サンウルブズにいない選手をどう捉えてゆくか。

「そこにルールがあるわけではないです。リーチ、五郎丸の件でお話ししたように、優れた選手をただ他のチームにいるというだけで排除したいとは思いません。新たに着任したコーチは、間口を広げるのも大事だとも感じています。

ただ、理想を言えば、(代表候補は)ひとつのスコッドであるべき。2019年の大会でプレーするのは、サンウルブズにいる選手でなくてはならないと思っています。2018年も、それに向けて同じ方面を見る必要がある。その一方、プロの世界ですから、契約、様々な義務で叶わないこともある。選手の状態のチェックを含め、コーチ陣がフレキシブルに判断しなければならない。サンウルブズにもいて欲しい選手がいない現状はありますが、まだ始動したばかり。考えながら…ということになると思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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