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サントリー・小野晃征、日本選手権展望&トップリーグ「MVP」の声への返事。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
プレースキッカーも務める。(写真:アフロスポーツ)

シーズンを締めくくるファイナルゲーム。MVPが選んだ「MVP」は、どう観ているのだろうか。

今季の日本最高峰のラグビートップリーグで全勝優勝を果たしたサントリーは、1月29日、日本選手権の決勝戦に挑む(東京・秩父宮ラグビー場)。相手のパナソニックは、トップリーグでは昨季まで3連覇中。日本選手権では2連覇を目指す。

今シーズンの2冠を狙うサントリーは、いかに戦うか。1月27日の練習後、スタンドオフの小野晃征が展望を語った(東京・サントリー府中スポーツセンター)。

2015年のワールドカップイングランド大会に日本代表として出場した小野は、身長171センチ、体重82キロの29歳。幼少期をニュージーランドで過ごし、クライストチャーチボーイズ高校、カンタベリー大学、さらに日本のサニックスを経て2012年度にサントリーへ加わった。

トップリーグで9位だった前年度からのV字回復に成功した2016年度は、ここまですべての公式戦に先発。パナソニックとの決勝戦でも、背番号10を担う。攻撃のタクトを振る中核のプレビューには、当日の見どころが詰まっている。

以下、一問一答の一部(編集箇所あり)。

――次戦に向けて。

「シーズン17試合目。パナソニックさんの調子が上がっているなかですが、うちはここまでやってきたことをやり切るだけで、大きく変えることもない。1つひとつのプレーの精度で勝敗が決まる」

――パナソニックには、昨年9月17日のトップリーグ第4節で45―15と大勝しています。とはいえ、当時とは両者とも状況が違います。例えばパナソニックには、シーズン後半戦から合流したオーストラリア代表フランカー、デービッド・ポーコックがいます。

「そうですね。前回はバーンズ(元オーストラリア代表スタンドオフのベリック・バーンズ。パナソニックの司令塔として、一昨季まで2季連続でトップリーグMVPに輝く)もセンターに入っていたり、(天候も)暑いなかでした。芝はあの時はよかったですが、今回は(連続使用に伴い)砂のなか。(状況は)全然、違います。

ターンオーバー(攻守逆転)からのアタックをするパナソニックのなかで、ポーコックは(相手の接点から)ボールを奪い返す選手。サントリーがボールを持っている時は、ポーコックにいいジャッカル(接点でのボール奪取)をさせないように、ボールキャリア(ボールを持った選手)は強く当たって、2人目(ボールキャリアへのサポート)も速く寄る。

グラウンドの状況もあって、お互いにテンポを上げるのは難しいところもある。そこでは1つひとつのブレイクダウン(接点)の精度が大事になる。しっかり、戦わないと」

――決勝戦では特に、1つのブレイクダウンの優劣が試合を左右する、と。

「1つのコンタクトで1歩、前に出るか、返されるか、という勝負になってくると思う。前に出たら次も前に出やすいし、返されたら次にどうモーメンタム(勢い)を作り直すか…と、リズムに乗ったアタックはできなくなる。アタックでも、ディフェンスでも、少しでも前に出られるようにしたいと思います」

グラウンド状況に基づいて展開を予想し、理想の試合運びを明確に示す小野。チームメイトからの信頼も厚い。

今季のトップリーグでは、14試合に出場してリーグ最多の17トライを奪った中鶴(雨冠に隹・鳥の順)隆彰がシーズンのMVPに輝いている。もっともその中鶴は、『ラグビーマガジン3月号』のインタビューにこう明かしている。

「自分に投票権があったなら(小野)晃征さんに入れますね」

もしも自身がMVPの選出に関わるのだとしたら、判断力と知識量でチームを引っ張った小野に1票を投じる、という意味だろう。この日の練習後にも取材に応じた中鶴は、こう頷いた。

「最初(の攻撃で)ジョージ(スミス、フランカー)を当てて、次にセンター(の選手)を当てて、最後に僕が…と。詳しくは言えないですが、晃征さんは僕が最後に抜けるように(攻撃を)組み立てている。試合を通して、『前半に誰を当てて(ボールを持たせて)…』といったことも考えていると思います」

いわば、「選手のための選手」としての称賛か。その言葉に対する、当の本人のリアクションは…。

――…いかがですか。

「ハハハ! 選手は選ばれる側で、誰が選ばれてもチームが優勝すればいいと思っています。ヅル(中鶴の愛称)が選ばれたのは、自分のパフォーマンスをしっかりと出したから。自分は、サントリーの選手がMVPに選ばれたということが(誇らしい)。チームとして、他の14人が彼をサポートして、それが彼のトライに繋がっているとも思うので。ヅルにそう言ってもらうのもありがたいですが、サントリーはチームで戦うラグビーをしている。誰が(MVPに)選ばれようが、サントリーが勝つのが一番、嬉しいと思っています」

――中鶴さんは、小野選手がトライまでの布石を打っているという認識を持っているようです。

「それは、チームプレーを大事にしているだけです。それがヅルの17トライに繋がっているのは嬉しいし、球を出してくれたフォワードにもたくさんの感謝をしている。(両チームの)30人が動いているなか、いい判断をするのが大事になってくる。9番(スクラムハーフ)など、周りとコミュニケーションを取りながら、一番いい判断をするようにしています」

トライラッシュを成し遂げた選手のMVP獲得は、トライラッシュをもたらしたチームのタイトルでもある…。「サントリーの選手がMVPに選ばれたということが…」の心は、ここにあるのだろうか。

決勝戦。「チームプレー」という車両の運転士は、どんな「判断」を下すだろうか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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