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新たな「男前枠」? 日本代表ティモシー・ラファエレ、「仕事」します。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
左足でスペースを裂く。(写真:ロイター/アフロ)

バレンタインデー。りりしい顔つきのアスリートが、強豪との激突を心待ちにしている。

きりりとした瞳が特徴的なティモシー・ラファエレは、身長186センチ、体重98キロの25歳。司令塔にあたるスタンドオフ(背番号10)やインサイドセンター(背番号12)、チャンスメイクに従事するアウトサイドセンター(背番号13)をこなし、左足でのキック、パス、鋭利なラン、さらには相手を掴み上げるチョークタックルなどで魅せる。昨秋には初の日本代表入りを果たし、4つのテストマッチ(国際真剣勝負)でプレーした。

2014年にコカ・コーラ入りし、国内最高峰のトップリーグでプレーしてきた。来日7年目の今季は、サンウルブズへの加入も叶った。日本代表との連関性を強めるクラブにあって、一層の活躍が期待されている。発足2年目となるこのクラブのキャンプへは2月から参加し、25日の開幕節を見据える(前年度王者のハリケーンズと東京・秩父宮で対戦)。

1月初旬、本拠地の福岡県で単独取材に応じている。まずは一躍ブレイクした2016年度を振り返る。

以下、一問一答。

――改めて、2016年度は大活躍でした。トップリーグ公式戦での出場試合数は前年度の「10試合中4試合」から「15試合中15試合」に激増です。

「今年は試合にいっぱい出て経験をもらえた(全試合出場)。1、2年目はあまり試合に出られなかったけど、今年はシーズンの最初に『レギュラーになる』とターゲットをセットした。練習と、ラグビーの勉強を頑張った。勉強とは何かというと、他のコーチから僕のウィークポイントを聞いたりすること。そして、(気持ちが)が変わった。他のことを心配しないで、自分のことだけに集中する。自分のすることをちゃんとすれば、いいパフォーマンスができる…と」

――その途中で、日本代表入りが叶いました。ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ率いるチームに追加招集の形で加わり、11月のツアーで全試合に出場します。

「トニー・ブラウンアタックコーチ、田邉淳アシスタントコーチからたくさんアドバイスをもらいました。『パス、キックという自分のスキルセットを試合でやっていい選手になって』と。(帰国後も)日本代表でやったパス、キックのドリルをやっていて、ミスも減っていった。ブラウニー(ブラウンコーチの愛称)さんは選手に自信を持たせるいいコーチです。

チーム戦術はブラウニーさんとジョセフさんが考えていますが、とてもいいと思います。毎週、違うゲームプランを作っていました。試合の週の頭にプランをもらって、(選手は)ずっとそれを勉強し続ける。グラウンドで『このエリアでは何をするか』といったことをちゃんと覚えていって、練習後も勉強。『自分で自分の仕事をちゃんとやれば、チームのパフォーマンスも上がる』と学びました」

――ラファエレさんが務めた13番の仕事は。

「スペースを探して、そこへボールを回す。それと、田村(優、10番)、立川(理道キャプテン、12番)といったプレーメーカーとコミュニケーションを取る」

――ツアー2戦目のジョージア代表戦(12日、敵地トビリシ)で初先発。それまでにおこなったことは。

「ワークレートを上げて、スキルセットをちゃんとやり続けた。そうしたら、いいチャンスがもらえたね。スターティングジャージィをもらった時は、めちゃ嬉しかったね」

――ジョージア代表戦は、ジョセフ体制下初勝利を挙げた試合でした。

「緊張したね。初めてあのレベルでプレーして。でも、スタッフに自信は持たせてもらっていた」

――続く現地時間19日、欧州6強の一角であるウェールズ代表ともぶつかります(30―33と惜敗)。カーディフのミレニアムスタジアムは約7万人のファンが集まっていました。興奮は。

「自分としては、観ている人のことを心配しないで、自分の仕事にフォーカスした。相手はいいチームだった。トップリーグとは全然、違う。こっちがミスしたら相手は点を取る。

でもあの試合の前は、皆が自信を持っていた。練習したことをちゃんとやれば、いい試合ができると。あの週は練習が良かった」

――そもそも初戦のアルゼンチン代表まで、実質的な準備時間は1週間弱でした。

「ミニ合宿(10月9〜11日、23〜25日に都内で2度の合宿をおこなった)で、選手個々の仕事をもらった。『スタンドオフの仕事はこれ、センターの仕事はこれ。この仕事をちゃんとやったら大丈夫』と。自分の仕事をやり遂げることが大事。基本的なスキルをやり続けることが大事。それを学びました」

サモアの首都・アピアで生まれ、4歳の頃に家族でニュージーランドのオークランドへ移住した。

来日したのは2010年。ニュージーランドのデラセラカレッジ時代、山梨学院大学の吉田浩二監督にスカウトされたのだ。同大4年時、加盟する関東大学ラグビーリーグ戦での2部から1部への昇格。当時のコカ・コーラでゼネラルマネージャー兼総監督だった向井昭吾氏(元日本代表監督)からは、この時点で「将来のジャパン」と太鼓判を押されていたという。

――日本行きを決めた理由は。

「いいチャンスと思ったね。日本で、トップリーグでプレーするというのは」

――不安はなかったか。

「高校時代の友だちが先に来ていたので、大丈夫でした。キヤノンでやっているレイルア・マーフィーです」

――以前、日本で最も驚いたことをこう話されていましたね。「山梨、めっちゃ田舎」と。

「周りは山しかない。びっくりしたね! 僕にとっての日本のイメージは、大きなシティーでしたから。

大学4年間は、一番きつい練習をした。いっぱい、走った。ずーっと。多分、朝だけで10キロくらいかな。それも、スローペースじゃなく…。フィットネスは火曜日の朝6時からと決まっていて…起きたくなかったね! たぶん山梨学院大学は、あのフィットネス練習をいまもやっています。でも、あのキツイ練習をやったから、このレベル(の選手)になった。大学の時、フィットネスレベルが上がったね。(1部昇格は)嬉しかったね。その前の3年間は入替戦で負けていたから。最後の年は、4年生に能力の高い選手が揃っていた」

――今度加わるサンウルブズについても伺います。声がかかったのは。

「日本代表ツアーの前くらいです。スーパーラグビーは自分のターゲットのひとつだったので、即決でした。若い時から、ね!」

――「若い時」。要は、10代の頃からの夢だったのですね。

「(日本に来てから)行けるのかという不安はありましたが、ずっと意識していました。(サンウルブズでは)コーチ陣と対話をして、自分のポジションに課された役割を理解して、遂行することが大事です」

――見せたいプレーは。

「自分の仕事をやりきる。そこに集中したいです」

――2019年には、ワールドカップ日本大会があります。

「まだそこまでは考えていません。目の前のプレーをしっかりやる。その先に、日本代表がある」

――では、今季の楽しみなカードは。

「クルセイダーズの試合(4月14日の、クライストチャーチ・AMIスタジアムでの第8節)です。ティム・ベイトマン(コカ・コーラ時代の同僚で12、13番を務める)とやれる! クレバーな選手で、コカ・コーラにいた時は仲がよく、一緒にトレーニングをしていました。それに、僕の友だちもいるから(2015年春にクルセイダーズの下部組織へ留学し、カンタベリー州のクラブチームでプレー)。ニュージーランドでの試合は楽しみです。家族も観に来られる…」

山梨学院大学の吉田監督は、サモア生まれの教え子の印象を「家族のことを一番に考えていた」と語ったことがある。環太平洋諸国の人には、同じルーツを持つ者同士の絆を深める傾向が強い。なかでも、一等親とのそれはより強固だ。

3人の姉を持つラファエレは言う。

「自分を快く日本に送り出してくれたのは家族。それに感謝しています。そもそも僕がラグビーを始めてから、色んなものを犠牲にしてくれました。仕事を休んでまで遠い試合会場へ連れて行ってくれたり、高いスパイクを買ってくれたり…」

日本で活躍することはすなわち、家族への恩返しに繋がる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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