Yahoo!ニュース

田中史朗が観たサンウルブズ壮行試合。25日開幕へ欲しい「対応力」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
国内のトップリーグではパナソニックに在籍。現サンウルブズと似たシステムでプレー。(写真:アフロスポーツ)

国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは2月18日、壮行試合をおこなった。福岡・ミクニワールドスタジアム北九州のこけら落としとして、トップリーグ選抜とぶつかり24-12で勝利した。

スクラムハーフの田中史朗は、インサイドセンターの立川理道キャプテンとともに後半20分から出場。5点リードで迎えた同35分にトライを奪い、勝利を決定づけた。

対するジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(日本代表も率いる)に「接戦でフミとハルが入って、チームがまとまった」と言わしめた。

もっとも、取材エリアに訪れた田中は「対応能力が低い」とチームの奮起を促していた。その真意は。

以下、一問一答の一部(編集箇所あり)。

――試合を終えて。

「まだまだ(相手のすることへの)対応能力が低いのかな、という感じはしました。僕が入って声を出して奮い立たせるようなことができれば、最後もディフェンスで取られずに終わりました。そういう部分は海人なり内田なり(茂野海人と内田啓介、サンウルブズのスクラムハーフ)が経験していければ、もっと成長できますし、チームとしてもいいチームになると思います」

――がっかりしたのか。

「がっかりはしなかったですが、もったいないと思いました。サンウルブズのプライドを持ってやろう、と言っていたのですが…」

――ここまでの準備期間は短かった。

「それは言い訳にできない。できれば協会、企業と話し合いをしたいですけど、いまはできない。現状のなかでやっていくしかない。自分たちのできることをやるしかない」

――相手にサンウルブズの選手が9名入ったことなどで、自分たちのプレーがしづらい状況でもあったのか。

「やりにくいというのはただの言い訳。相手がサインを知っていたらその逆を使えばいい話なので。ラインアウト(タッチライン際の空中戦)だけは難しいかもしれないですが…。

日野(剛志、投入役のフッカー。後半10分から登場)にはハーフタイムに、『相手は前の方を見ていないから、それを見ておいて』と言っていた。それで僕が入った瞬間、日野は僕の話(声)を聞いてくれましたし、うまいこといって…。トライにはならなかったですけど、あれは日野のいいプレー。もっとコミュニケーションを取って、そういうものを出していけたら(後半29分ごろ、敵陣22メートル線付近右のラインアウトから日野が低い弾道のボールを田中に渡す。相手が田中の前進に気づくや、日野が田中のリターンパスを受け取る。最後は対する坂手淳史の好タックルに阻まれたが、スタンドを沸かせた)」

2013年にこの国で最初のスーパーラグビープレーヤーとなった田中は、昨季までの4シーズン、ハイランダーズに在籍。昨秋から日本代表を率いるジョセフヘッドコーチらとともに、2015年シーズンは優勝を果たしていた。

当時はニュージーランド代表のアーロン・スミスと定位置を争いながら、自分たちより選手層で上回るとされた強豪と対戦。身長166センチ、体重75キロと小柄も、相手の盲点を突く判断と負けん気で頭角を現してきた。

プレーを評する言葉の裏には、これから挑む相手への皮膚感覚がある。

だからこそ、各種の悪条件についても「(それを口にするのは)言い訳」と断じるのだろう。

サンウルブズは25日の開幕節(東京・秩父宮ラグビー場)で、昨季王者のハリケーンズとぶつかる。

――自陣ゴール前で反則を犯した直後、所定の位置(反則した位置より10メートル以上後ろ、もしくは自陣ゴールライン上)に戻らない仲間に大声で「下がれ! 下がれ!」と発していました。

「あそこのリアクションはもっともっと早くしたい。ハリケーンズだったら、プロップ1人が突っ込んでトライ…となるので。これはトップリーグでも思うんですけど…。『(反則後は)まず下がる。レフリーとしゃべるのはリーダーだけ』と決まっている。そこでリーダーじゃない選手が話をする、というのはわからないところです」

取材では、自身のトライシーンについても話題が及んだ。

きっかけは敵陣ゴール前での自軍ボール確保。接点へ寄った田中は、攻撃陣形の整備を確認するようにひと呼吸、置き、左隣にある2人1組のユニットへパスアウト。ボールを受け取った走者がタックラーと衝突するや、その背後へ回り込んで地面に置かれたボールを拾い上げる。左脇へ歩を進め、さらにその左脇のランナーにボールを預ける。

以後、左右へ楕円玉が散る。接点からのパスを受けた選手がそのまま相手にぶつかる、「ダイレクトプレー」と呼ばれるフェーズが続いた。

合間には、最初の受け手がボールの出どころへパスを折り返す「内返し」を交える。ゴール前左中間でじりじりと前進する際は、田中が前後の人の動きを確認しながら接点周辺での「ダイレクトプレー」をふたつ、続ける。最後は接点の周りに相手がいなくなったのを確認し、田中が自らトライラインを割った。

この局面も、相手防御への「対応力」の成果のようだった。

――田中さんのトライシーン。得点に至るまでの流れがよかったように映ります。

「相手が前に出てきていた。特に、外側のディフェンスが前に出てきていた。そこで僕が前に出ることによって、(攻防の境界線を前に進めて)相手のディフェンスが出にくくなって、外での攻撃がしやすくなる。それは終わってから、茂野にも言いました。『誰がどう出てきてどこが空いている』というものをもっと早く見抜ければいいのかな、と思いました」

最後は田中が自ら持ち込んでトライを奪ったが、その背景には異なる意図があった。

田中の仕掛けとその周辺の選手の「ダイレクトプレー」で防御の上りを制御し、大外での攻撃をしやすくさせようとしていた。その延長で生まれたスペースが接点周辺だったから、田中が球を持ち出して止めを刺したのだ。

それまでの話通り、この日の両軍は同種の戦術を採用していた。サンウルブズにとっては、選手の並び位置やその真意が敵に完全把握されている状態。それでも攻めをリードする方法やテンポの変化などで、防御網を破れると証明した。

――今後、必要なのは。

「コミュニケーションですね。相手には強くて速い人が多い。チームでまとまって戦いたいです。チームとしてディフェンスをして、取られなければ負けない。ディフェンスも、本当にコミュニケーションを取って仕上げていきたいですね」

欧州移籍のオファーもあったなか、ハイランダーズから日本のサンウルブズへ移籍。田中はその背景をこう語ったことがある。

「もし僕が2019年のメンバーに選ばれなくても、ハイランダーズで積んできた経験を日本の選手に落とし込めれば、その落とした経験によって皆がレベルアップできる」

新聞紙上では「ご意見番」と綴られる32歳は、改めて「日本ラグビーのためなら、自分が嫌われても…」という覚悟を決めていよう。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事