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サンウルブズのベン・へリングディフェンスコーチ、新システム定着へ腕振るう。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真右がヘリングコーチ。ジャパンのジョセフヘッドコーチからの信頼は厚い。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは2月25日、発足2季目の開幕節に挑む。本拠地の東京・秩父宮ラグビー場で、前年度王者のハリケーンズとぶつかる。

ナショナルチームとの連関性をテーマに掲げ、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる日本代表と同種の戦術を採用。両チームでの指導を掛け持ちするコーチングスタッフは3名おり、そのうちの1人、ベン・へリングアシスタントコーチは守備を担当。日本代表へは昨年11月のツアーから参加しており、新システムの定着に注力している。

現役時代はニュージーランドのハイランダーズ、ハリケーンズなどでオープンサイドフランカーとしてプレー。脳震盪などのため29歳で現役引退も、その直後からイングランドのレスター・タイガース、2011年から2シーズンは日本のNECグリーンロケッツ、2013年から約2年間はカナダ代表(7人制、15人制)でコーチングキャリアを積んできた。

2015年からはオタゴ代表のアシスタントコーチを務める傍ら、ハイランダーズのリソースコーチとして当時ヘッドコーチだったジョセフとともに指導。同年はスーパーラグビー優勝を果たし、その手腕を評価された。

福岡・北九州市で合宿中だった2月16日、単独取材に応じた。守備のコンセプト、強豪とのオープニングゲームへの意気込みなどを語った。

以下、一問一答の一部(編集箇所あり)。

――チームは2月1日に始動。開幕までのプランニングについてお聞かせください。

「大まかなシステムを起動させました。いろいろな場所から来た人をファミリーとして機能させるように。ミーティングでは選手が自己紹介をする機会を設けました。いままでの歴史、家族の話など…。これはすごく大事なことです。短期間でファミリーにならなければならないので、早くコネクトすることを意識しました」

――担当領域の防御について伺います。システムは、昨年11月の日本代表ツアー時のものがベースになりますか。

「そうですね。ウェールズ代表戦でいいイメージを持てています。それを毎週、作り上げたいと考えています。私たちのイメージは、『フィールドにたくさんの枚数をそろえる』『そのうえで、アグレッシブに前に出る』というものです」

――ハリケーンズ戦に向けては。

「実行力を高める。そこで大事なのは、マインドセットとして『できる』と信じ込むこと。チャンピオンに挑むのですが、全員が一体となって同じことをやり通せば、こちらにもチャンスはあると思います」

昨年11月19日、カーディフはミレニアムスタジアム。欧州6強の一角であるウェールズ代表に挑んだジャパンは、30-33と肉薄した。

前半38分には、組織防御で耐えた先でウイングの山田章仁がインターセプトからトライ。へリングアシスタントコーチの言葉通り「いいイメージ」を残した。まずは横幅の広い防御網を形成。接点から数えて3番目以降の選手が鋭く飛び出し、相手ランナーを接点の方向へ押し込むようプレッシャーをかける。両軍がぶつかりそうなところへ、接点側に立つ選手がサポートに入る…。ボールを持つ敵を両サイドから挟み撃ちにする狙いがあろう。

――最初に相手を仕留めるタックラーは、鋭く飛び出し、接点方向の肩でぶつかっているような。

「ランナーの外側の選手がしっかりと…というイメージです。大きな選手がいる南アフリカなどのチームに対し、2人でタックルする、というイメージです。

ハイランダーズが、ちょうどサンウルブズと同じポジションにいたと思っています。というのも、どちらもそれほどサイズが大きくない。ハイランダーズもニュージーランドのなかでは小さいチームで、いまのサンウルブズのようなシステムを用いていました。それがすごくうまくいった思い出があります。ジャパンもサンウルブズも、より大きな選手の揃うチームに挑まなくてはいけない。そのため、私がいままでやってきたことをやることにしています」

――ベンさんがハイランダーズでやってきたのに近いシステムを遂行する日本のチームは、それほど多くはありません。その意味では、11月のツアーでは苦労しませんでしたか。

「その通り。選手によっては、全く正反対のディフェンスをするチームから来た人もいる。ただ、それは必ず起こりうることです。どんなシステムも、機能すればうまくいく。ただ、システムは、全員がやることを理解して初めて機能する。全員が理解を深めるには、時間はかかりますが…」

――その「時間はかかる」作業をするなか、のみ込みの早い選手はいましたか。

「ジャパンに行っていた選手は、昨秋のツアーでやっているのでのみ込みは早かった。ただ全選手とも、コンセプトの理解はしてくれていると思います。実際に、グラウンド上でヒートアップした時にそのコンセプトを遂行できるかどうか…。そこが、興味深いところです。試合を重ねるごとに、できるようになってゆくとは思っています」

――2月1~3日の都内合宿中、選手数名を集めて居残りセッションをされていましたね。ボールをもって左右に動く選手に対し、細かくステップを踏みながら歩幅を詰めてしっかりと肩を当てる…。そんなタックルの技術を確認していたような。

「基本に立ち返ったセッションです。多くの選手には頭を突っ込みすぎたり、頭をタックルする肩と反対側に入れてしまう傾向があります。そこでリラックスをして、正しい方向に頭を入れる、という練習をしました。練習をしてきたことが、試合に出る。ですので、練習は数をこなしました。悪い癖をいい癖に変えます。それを頭で考えずに、身体でできる状態にしていきたい」

――日本代表は6月にアイルランド代表戦などの真剣勝負を控えています。その期間に向け、サンウルブズでの活動をどう繋げていくのでしょうか。

「ジャパンとサンウルブズは連携しています。サンウルブズでやっていることの延長線上で(テストマッチの)準備ができる。システムを変えなくていいという点では、いいと思います。2019年のワールドカップに向け、全選手がやり方を理解していく…。長期戦で考えたいです。ただ、いまはサンウルブズに集中しています。ここでいい仕事をできればできるほど、身につくものがある、と。サンウルブズにすべてを注いでいます」

――今季の目標は。

「去年からのスタンダードがあると思いますが、そのすべてを向上させたい。コーチンググループとして、日々の小さいこと、1つひとつに勝っていくことを目標にします。選手を成長させ、コーチングも成長させる。組織としても、向上する。細かいところを1つずつよくしていければ、グラウンド上での結果もついていくと思います」

2月21日、東京は辰巳の森ラグビー練習場。初戦を間近に控えたサンウルブズは、へリングコーチのもと防御システムを確認した。5人1組の防御ラインが位置取りからタックルまでの流れを確認し、円陣を組めば「徐々によくなっている」とへリングコーチ。ここから主力組、控え組に分かれての実戦トレーニングに移った。

サンウルブズは1勝1分13敗に終わった昨季、タックル成功率は全18チーム中最下位の79.4パーセントと守備に課題を抱えていた。ジョセフをよく知るヘリングの手腕には、期待がかかる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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