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サンウルブズ・堀江翔太、「5-69」の後半13分に飛ばした激とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
かのドン・キングを思わせるパーマヘアは都内で「2時間ぐらい」かけて作成。(写真:アフロ)

国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは、2月25日、本拠地の東京・秩父宮ラグビー場で苦境に立たされていた。

発足2シーズン目の開幕節で、前年度王者のハリケーンズを相手に立て続けに失点した。

国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズはに挑み、17―83と大敗した。ベン・ヘリングディフェンスコーチの提唱する鋭い出足の守備システムは、序盤こそ機能したものの次第に破られた。状況判断に長ける向こうの攻撃網が、飛び出したサンウルブズ守備網の背後へ球を回した。

フランカーの金正奎は後に、「前には出ていたけど、それが中途半端になったところで行かれて(突破されて)いた。(この先は)自信を持って前に出る」と悔やんだ。

チームは攻め込んでのエラーからも失点を重ね、後半13分には得点板に「5-69」との数字を刻む。

この時、インゴールで組んだ円陣のなかで声を張ったのが、フッカーとして先発した堀江翔太だった。昨秋は日本代表でキャプテンを務めた、大阪府出身の31歳である。

以下、取材エリアでの一問一答(編集箇所あり)。

――あの時、何を話していたのですか。

「あぁ…。何か、…という感じがあったので、取りあえず、ここで絞らなあかんなと思ったんですけど…。キャプテンの英語についていけていない選手が多くて、そこらへんで簡単に、簡単に…(失点)。自分が(円陣の発言に)入らなあかんな、と」

2013、14年度にレベルズの一員としてスーパーラグビーを経験した。サンウルブズでは創設初年度だった昨季、キャプテンに就任。当時初来日だったスタッフとの対話や初めて海外でプレーする選手への声掛けに苦慮してきた。

今季は2シーズン連続で契約した「カーキー」ことエドワード・カーク、「ハル」こと立川理道が共同キャプテンに就任。堀江は一歩離れた立場からチームを支えていた。

この日は、故障者続出を受けてメンバー23名中10名がスーパーラグビーデビューを迎えていた。カークの声に、周りが反応しきれていないのではないか…。堀江は時間を重ねるほど、そう感じたのだろう。

――前半は静かだったのですか。

「でしたね。(カークの言葉が)わかっていないのかな、と。その辺も修正していかなあかんな、と。ハルも(怪我で)いなかったですし、そこも大きかったかな…」

――カーク選手は、発奮するような声を出していたのですね。

「してました、してました。それをわかっていなかったのか、浮足立っていたのか…。僕を含め、反省していかなきゃいけないかなと。ただ、(失点のきっかけは)オフロードなんで、どう修正するかと言うのは…という部分もあったんです。次にどう動くか、その気持ちだけは切らすなよというメンタルで行こうか、と。その点を取りに行く姿勢が後半に見られたのは、よかった(残り11分で12得点)」

ノーサイド。タックルされながらつなぐオフロードパスを多用する相手に対し、サンウルブズは17-83で屈した。約1万人7000人超を集めたホームゲームで、クラブ創設以来2番目に多い失点を喫したのである。

この結果には多様な捉え方があるが、この日の話題に挙がったのは「スクラムの手ごたえ」と「防御の課題」だった。

特に堀江が最前列中央で組むスクラムに関しては、昨秋の日本代表へも入閣した長谷川慎スクラムコーチが8人一体の型を急ピッチで落とし込み。約3週間の準備期間で、チャンプと互角に渡り合った。

――相手のスクラムについては。

「いやぁ、(日本代表として対戦した)ジョージア代表戦とかと比べたら全然、余裕を持って組めていて、『後半、どこかで押すやろうな』と。そうしたら(自身が退いたのちに)押してくれた」

――長谷川コーチの指導を受け、今日を迎えていました。

「まったく、不安がなかったです。きょうは。今年はスクラムにも戦術、戦略というものを持ってやっている」

――ということは前年度には不安も…。

「ありました。選手だけで考えていたやつなので」

――防御。システムの理解自体は深まっているような。

「(理解の深まりは)あるんですけど、詳細の部分は詰めなくてはいけない。個々が勝手にやってしまっている部分もあるので。そら、時間があったらうれしいですよ。他のチームは11月くらいから準備をしているので。でも、今年はそれに対してどうのこうの言うことはないです」

3月4日、準ホームのシンガポール・ナショナルスタジアムでキングスと対戦。前年度はサンウルブズが1勝1分13敗だったのに対し、キングスは2勝13敗だった。

昨季は4月16日、ブルームフォンティン・フリーステイトスタジアムでチーターズに17-92と屈した。しかし翌週の4月23日、東京・秩父宮ラグビー場でジャガーズに36-28で勝利している。記者団のなかから、大敗で引き締まったチームが白星を取る流れを期待するような質問が飛んだ。

しかし堀江は、「あー、どうなんすかね。うまいこといかないでしょ、そんなに」。おっとりした口調で、周囲を笑わせた。背景にあるのは、リアリズムでありながら希望を捨てないラグビーマンの意志だったか。

「でも、去年キャプテンとして苦しいことを経験してね、まぁ、ポジティブに行くことが大事だとわかったので…。そう、行ってくれたらいいかなと」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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