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サンウルブズがキングズに負けた意味とは。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
カークキャプテンは時間を追うごとに存在感を発揮。徐々に復調か。(写真:ロイター/アフロ)

2017年3月4日、シンガポール・ナショナルスタジアム。国際リーグであるスーパーラグビーの第2節があり、日本から参戦2季目のサンウルブズは南アフリカのキングズに37―23で敗戦。開幕2連敗を喫した。

スペースを攻略するパスが通らなかったり、攻め込んだ先の密集で球を乱したり、そのボールを拾われてそのまま失点したり。自滅に近い内容だった。エドワード・カークキャプテンは、「1人ひとりがすべてを尽くしてプレーした。チャンスを活かせなかったのは確かなので、そこは受け止めたい」。口角を上げ、張りのある声で語っていたが、その姿には悲しみも漂ったか。内部昇格のフィロ・ティアティアヘッドコーチはどうか。

「(負け続けることは)確かにいいことではありません。ただサンウルブズにとって今季は2回目のシーズン。自信を持っていることは、グループとして後ろに下がることはないということ」

日本代表との連関性を強化する今季のサンウルブズは、日本のトッププレーヤー候補の底力の醸成に重きを置く。

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いるナショナルチームと同種の戦術を採用し、田邉淳アタックコーチら3名のアシスタントコーチらがその両チームの仕事を掛け持ち。松島幸太朗、田村優ら日本代表経験者をコンディショニングのため一時離脱させている。プロクラブとして目先の勝負にこだわりながら、中長期的視座に基づく腹案もにじませる。

諸般の事情を踏まえたうえでも、この日はどうしても勝ちたかった。すべての試合で勝利を狙っていることを前提としながら、この日はどうしても勝ちたかった。あらゆる意味で、この日はどうしても勝ちたかった。

カードの意味とビジネス展開

この80分がマストウィンとされていたのには、ふたつの理由がある。

まずひとつは、サンウルブズにとってのこのカードの意味合いが重かったから。

昨季はサンウルブズが1勝1分13敗、キングズが2勝13敗といずれも下位を争っていた。前年度の直接対決(敵地・ポートエリザベス)で敗れた際には出場した稲垣啓太が「ショックは大きい」と漏らすなど、成功体験を掴めそうなカードと目されていたのだ。

もうひとつは、勝敗が今後のビジネス展開へ影響するからだ。

試合後のロッカールームで選手がミーティングをしている傍ら、チーム運営を支える某スタッフが「4月8日に向け、やれることをやっていくしかない」と言葉を絞っていた。ここでの「4月8日」とは、次に日本で試合がある第7節のことを指す。

日本のトップリーグを支える企業クラブとは違い、サンウルブズは入場料収入やスポンサー収入などで選手たちの給与を払うプロ集団だ。なかでも、試合のチケット収入やグッズ収入の拡大へ頼るところは大きい。ライト層へのアプローチには、白星による訴求力が欠かせなかったのである。

そう。現在、スポーツメディア全体におけるラグビーのプレゼンスは、2015年のワールドカップイングランド大会時と比べかなり落ち着いている。大手新聞社の記者でさえ、社費での海外取材ができないこともあるほどなのだ。

結果と肥やしを一挙両得?

痛い星を逃した。しかし当事者たちは、それを受け止めて先へ進むしかない。

以後約2週間続く南アフリカ遠征へは、キングズ戦で活躍した田中史朗と堀江翔太は帯同しない。2人はサンウルブズができる3シーズンも前からスーパーラグビーでプレーした先駆者で、若手主体の現スコッド下では頼れる存在だった。

取材エリアで明かされなかったこの一件については、フィロ・ティアティアヘッドコーチの丁寧なコメントで経緯が説明されている。

「日本代表の強化も含めた長いシーズンの中で、日本代表ヘッドコーチ ジェイミー・ジョセフと私との間で、選手の疲労をコントロールし、彼らの環境を良い状態に保つことが極めて重要であるという議論を行いました。両選手とも、ハードなラグビーシーズンを送ってきており、彼ら自身の体調のコントロールと、チームとしてのプランニングに基づいて、両選手に休養期間を与える事にしました」

その心は、総監督にあたる日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチの意向を受け帰国を決めた、とのことだろう。

次戦は現地時間3月11日、南アフリカはブルームフォンテインでチーターズとの第3節だ。サンウルブズは昨季、次戦と同会場、同カードのゲームを17-92で落としている。高地対策や体調管理に苦しんだ当時の反省を踏まえ、今度はキングズ戦の夜に空路についた。万全な準備とスマートなメンバー選考で、結果と肥やしを一挙両得したい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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