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日本代表ジェイミー・ジョセフは、なぜ選手へのコメントをしたがらないか。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
昨秋就任。2019年秋というリミットは遠いようで近い。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが、特定の選手へのコメントを求められることへの違和感を明かした。

ナショナルチームと連携を取るサンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦)にも関与するニュージーランド人指揮官は、3月6日から、都内でナショナルデベロップメントスコッド(NDS)の第1回キャンプを実施している。

NDSは、ジョセフ発案の強化システム。サンウルブズの海外ツアー不参加組や若手の日本代表候補らを集め、代表チームの戦術やスキルを落とし込むのが目的。9日の練習後にここまでを総括し、その延長線上で「特定の選手に関する質問は…」と語った。

日本代表の現在地、ボスの気質がうかがい知れる。

以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――セッションについて。

「火~木と2部練習をしたのですが、コーチがプレッシャーをかけるという意味の負荷ではなく、ボリューム的な負荷をかけました。午前中は落とし込み、やりたいことの理解をさせました。午後は、午前に修得したものをスピード、プレッシャーをかけておこないました。試合もないので、多く練習しました。今後は練習量こそ同程度ですが、強度を上げていきます。各週で10パーセントずつ上げていきたいです」

――今回のキャンプでは、ヤマハの堀川隆延ヘッドコーチと日野自動車の黒須夏樹フォワードコーチが首脳陣に加わりました。

「質の高いコーチだと思っています。彼らはヤマハ、日野自動車でそれぞれコーチをしていますが、各チームのプレーの仕方に関心していた。去年から頻繁に会っていたのですが、1週間、仕事をしてみて、改めて高く評価しています。素晴らしい兆しです。堀川さんはテクニカルなコーチで、アタックもディフェンスも熟知している。彼には彼の考えがあって、我々のゲームプランに対応するかがチャレンジでしたが、うまく対応してくれた。また、彼のアイデアも役立っています。黒須さんも今日はラインアウトを仕切ってもらった。見学をしましたが、知識、指導力があると感じました。2人とも効率のいい効果的なプランニングをしてくれて、選手へのメッセージの落とし込みもうまいので、感心しています」

日本代表は今後、4月からアジア諸国とのアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)に挑戦。スーパーラグビーが中断する6月にはルーマニア代表、アイルランド代表と戦う。

昨季の例に倣えば、前者はサンウルブズの控え組や若手選手が、後者はサンウルブズの主力や海外組を交えたベストメンバーが臨む。

現在、開幕2連敗中のサンウルブズでは、松島幸太朗、田村優ら15人の日本代表選手が怪我や「コンディショニング」のためチームを一時離脱中。当該選手のうち7人がNDSの第1回キャンプに招集されていた。NDSは今後、3週間に渡っておこなわれる。

NDSの役割を「ひとつはサンウルブズのブレイクを与えたメンバーに準備をさせる。もうひとつはARCに向けての準備です」とする指揮官は、引き続き質疑に答える。

2015年のワールドカップイングランド大会を指揮した、エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ時代との比較論を求められ…。

――今回のNDSは、ジョーンズ体制下でいうところの宮崎合宿と同じような位置づけですか。あの時は、苛烈な猛練習で選手を鍛え込んでいましたが。

「宮崎のことはわからないです。違うコーチですので。宮崎は100日以上ぶっ通しだったみたいですが、今回は試合もありませんし、明日のウェイトトレーニングを終えたらいったん、お別れです。家族のもとに帰り、月曜日から再び始めます。あとはスーパーラグビーでやっている選手もいるので、やることが少なすぎても、多すぎてもいけない。そのバランスを観ながら、スーパーラグビーへの準備をしていくということです」

――そもそもこのキャンプから、2019年の日本代表を何名ぐらい選ぶのか。ジョーンズは2015年に「候補選手は40人程度しかいない」と言っていましたが。

「層の薄さについては、いまも同じ試練があると思います。ただ、プレーヤーの選び方などについては彼と違う方向性で考えている。エディーさんの時は長期合宿をしました。今回はスーパーラグビーがある。そこが大きな違い。半分、半分くらいになれば嬉しいですが」

――感銘を受けた選手は。

「全員です。特に新人には感銘を受けています。月曜日はおとなしく、様子を探る様子。でも、いまはコーチのいないところでも自己責任を持って練習をしている。誰か1人の名前を挙げたら、その選手は喜ぶかもしれないが、他の選手がないがしろにされていると感じるかもしれない。個人名を挙げるような質問は控えていただければ」

――山沢拓也選手(昨季は大学生トップリーガーとして活躍中。現在はニュージーランドのハイランダーズへ留学中も、ジョーンズ前ヘッドコーチもかねて「将来性がある」「素晴らしいソフトハンズの持ち主」と司令塔としての感性やスキルを評価)は、どう観ますか。

「いまは、いません。彼はハイランダーズにいる(という認識)。いない選手のことはノーコメントです。日本人の全選手についてどう思うかを聞かれては、コメントしてもきりがありません」

――いま、サンウルブズやNDS、ジュニア・ジャパンに入っていない選手が今後代表に選ばれる可能性は低いか。

「トップリーグがあるでしょう。いつ、誰を、どこで呼ぶのかという選手選考の縛りはありません。ベストプレーヤーを呼ぶだけです」

――メンバーの絞り込みは。

「2019年(ワールドカップ日本大会開催年)までは」

――8日には、世界のTKこと総合格闘家の高阪剛さんが非公開練習を指揮しました。ジョーンズ体制下でも客員コーチを務め、低く鋭いタックルスキルなどを植え付けました。

「コンタクトエリアなどで、改善の必要な点を高めてもらうために呼びました。違う分野から、違う人の声で指導をしてもらうのも大事です。選手たちから聞いても、彼はリスペクトされているようでした。何より私は、彼を優秀なコーチだと思っている」

――以前から本人と接点は。

「会ったことがあって、彼の戦いも観たことがある。そしてエディーさん時代のセッションのビデオをチェックし、いいな、と思いました。リングで猛獣と戦ってきた人。その闘争心はチームに役立ちます」

一部の経験者を欠くサンウルブズは、開幕から苦戦している。

2月25日の初戦は前年度王者のハリケーンズに17-83で大敗し(東京・秩父宮ラグビー場)、続く3月4日は昨季サンウルブズと負け数の同じキングズに23-37で屈した(シンガポール・ナショナルスタジアム)。

サンウルブズは代表強化と選手層の底上げを大義とする。とはいえ、プロクラブである以上は勝利を目指さなくてはならない。

いずれの試合でもコーチャーズボックスに座っていたジョセフヘッドコーチは、現状をどう観るのだろうか。

――サンウルブズのここまでの2戦、振り返ってください。

「最初のゲームは最下位対首位。タフでした。あの試合からは、何も。その翌週も同じこと(プレー)をしていたという印象です。ただ、キングズ戦はプレーの遂行度、精度が伴っていなかった。チャンスを作っていても逃すことが多かった。(理由は)パスをキャッチする、タックルをするというシンプルなところだと思います。でも、いい兆しは見えたと思います」

ここまでジョセフヘッドコーチの口からは、全体的な選手選考の計画やターゲットとなるゲームについての談話は発せられていない。前任者が「2015年までにアタックとフィットネスを世界一にして世界トップ8に」などと強烈なメッセージを発してきたのに対し、特定の選手への評価を語るのにも慎重を期す。

奥ゆかしく、穏やかなほほ笑みを浮かべる大柄なボスは、どんなマスタープランを持っているのだろうか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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