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「2と3の間」って? 開幕3連敗サンウルブズ、離脱中の稲垣啓太はどう観たか。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
鋭いタックルを連発。防御を引き締める(写真は昨季のもの)。(写真:アフロ)

ラグビーをしていない人にとっては、「難しいことに関するわかりやすい説明」かもしれない。

昨年6月以来の日本代表復帰を目指す稲垣啓太が、一時離脱中のサンウルブズへの思いなどを明かした。3月13日、ナショナルデベロップメントスコッド(NDS)の第2回キャンプへ合流。都内でのセッション後、取材に応じた。

サンウルブズは、国際リーグのスーパーラグビーへこの国から参戦するチーム。日本代表の戦力底上げを大義とする。

NDSとは、日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチ発案の強化システム。サンウルブズの海外ツアー不参加組や若手の日本代表候補らを集め、代表チームの戦術やスキルを落とし込むのが目的だ。3月6日から約4週間かけ、4回のキャンプがおこなわれる。

稲垣は身長186センチ、体重116キロの26歳。スクラムを最前列で組むプロップを務めながら、タックルや突進力、仕事量で魅せる。

日本代表としては2015年秋のワールドカップイングランド大会では歴史的な3勝を挙げるなど、13キャップ(国際真剣勝負への出場数)を獲得。同年にはレベルズの一員としてスーパーラグビーデビューを飾り、サンウルブズへは前年度に続き2シーズン連続での参加を決めている。

もっとも今季は1月29日、パナソニックの一員として国内シーズンを締めくくる日本選手権決勝で左腕の上腕二頭筋などを故障していた。サンウルブズはその3日後に始動も、稲垣は別メニュー調整ののちに一時離脱。日本代表への入閣経験もある佐藤義人氏のもとでトレーニングをおこなうなど、治療と再起に務めた。

自身がいないなか開幕3連敗を喫するサンウルブズへは、どんな視線を向けているのだろうか。特に「ディフェンスのコミュニケーション」について、チーム戦術に基づき課題を見た。

以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――離脱中のサンウルブズ、どうチェックしていますか。

「映像と、チームから送られてくる(試合ごとの)プランニングを確認しています。こうやって頭の整理ができる時間はができたのは久しぶり。スタート(開幕)からいなかったのは初めてでしたけど、離れたところからチームを観られます。(離脱期間はここまで)1か月半もありましたから、普段できないようなこともできた。下半身はあまり鍛えられなかったですが、身体のなかの部分(体幹など)は鍛えた…。その意味ではいい時間でした」

――チームは開幕3連敗中です。

「結果ですべてを判断されてしまう世界ですが、内容的な成長は見られる。そういった部分はプラスに捉えていきたいです。1、2、3試合目と、確実によくなっているのは皆さんも感じていると思いますし、アタックは通用します。修正するとしたら、ディフェンスのコミュニケーション。特にラック(ボール保持者が倒れている接点)の周辺がちぐはぐです。外で抜かれる分には改善の余地はあるんですけど、インサイドを抜かれると一発で取られる。そこの整備という部分で、全員が全員はかみ合っていない。そこが(始動から)6週間というチームの、コミュニケーション不足が出てくる」

防御網の「外」、つまりは端を破られても、カバーに回ったタックラーとタッチラインとで挟み撃ちにするなど修復方法はある。かたやラックの周りなどの「内」を裂かれると、快走する相手が左右にパスを放れたりと一気に攻撃優勢の状況が作られる。その意味でも整備が急務な「内」の防御で、各人の出方にばらつきがあるようだ。

現在のサンウルブズでは、ベン・ヘリングディフェンスコーチがシステムをインストール。ボールが出されたサイドでの、ラックの位置から側から数えて3番目に並ぶ選手の飛び出しが肝となっている。稲垣は続ける。

――現在のサンウルブズの守備の連係について。

「ラックの位置から順に1、2、3番目に立つ人が、それぞれ誰を観るのか。特に2と3の間がちぐはぐしているんです。あの周辺はタイトファイブ(力仕事に従事する最前列5人)が立つ場合が多いんですけど、どうしても(守りの)レンジは狭いですし、足も速くはない。1人で観られる範囲は限られてくる。そこでコミュニケーションを取ることでレンジを広げたいんですけど、それがない部分は確実に抜かれています。あとはボールから目を切って、2番、3番の間を…。(おおもとを辿れば)その抜かれ方しかしていないですからね。改善の余地がある」

――守るさなかの声の掛け合いについて。

「声をかける選手は多いんですけど、今回は人が入れ替わり続けている。そのなかで誰が声を出すのかが重要になって来る。ここから先は、現場にいないのでわからないですが…。もちろん皆が意見を言ってまとまらないのでは意味がない。そこではキャプテンが最後にまとめる、と」

――いまゲームキャプテンを務めているのは、オーストラリア人で来日2シーズン目のエドワード・カーク。親日家ではありますが、日本語は話せない。

「いまはハルさん(立川理道、カークとともに共同キャプテンを務める)がいないし、堀江さん(翔太、前キャプテン)もいない。堀江さんは、引っ張る側からは退いていますが、実際グラウンドに立てば引っ張っている。戻るべき人間が戻ってきたら、(組織は)またうまく回るのかな、とも思います」

――稲垣選手の思いも伺います。6月には日本代表のツアーがあります。

「去年は代表の4試合(11月のツアー)、トップリーグは3試合(第7~9節)に出なかった。それなのに、出された試合出場時間のスタッツは上から5番目くらいでした。これだけ出ていたんだ、という感じですけど、いまはゲームタイムどうこうよりも経験をしたい。トップレベルのゲームに出続けないと得られないものは、確かにありますから。まずは自分のために試合に出て、そこから感じるものを周りに還元できたらと思います」

――サンウルブズのシーズンも続きます。復帰のめどは。

「4月の頭には出たい。日本でやりますから(4月8日、ブルズとの第7節は東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれる)。ただ、そこまで自分が上がっていくか、によりますが。きょうはボールに触るのが1か月半ぶりでした。まだコンタクト練習に参加できてない。それをやり始めてから、です」

国内屈指の情報伝達スキルの持ち主でもある稲垣。満身創痍であることも間違いなさそうだが、より万全に近い状態での復帰が待たれる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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