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これからも女川に来て歌いたい 寺嶋由芙ら出演「おながわ秋刀魚収獲祭2015」レポート(前編)

宗像明将音楽評論家
あがいんステーションで「おかせい」の1日店長を務める寺嶋由芙

7度目の女川町訪問

2015年9月20日、宮城県女川町で「おながわ秋刀魚収獲祭2015」が開催された。2011年の東日本大震災の津波で流された女川駅が4年ぶりに復旧したのが2015年3月21日のこと。その翌日に開催された「女川町復幸祭2015」から半年を経て「おながわ秋刀魚収獲祭2015」のために女川町へ訪れると、女川駅周辺を中心に予想以上のスピードで復興が進んでいることに驚かされた。

東日本大震災による津波で、住民の10人に1人が亡くなり、街の83%が倒壊した女川町。しかし、女川町地域医療センターが建つ「輝望の丘」の脇には、「女川は流されたのではない。新しい女川に生まれ変わるんだ。」というメッセージが掲げられている。悲しみを踏み越えて進む女川町の人々の姿を再び目の当たりにすることになったのが「おながわ秋刀魚収獲祭2015」だった。

初めて私が女川町の地を踏んだ2012年以来、今回で7回目の女川町訪問となった。これまで過去6回の女川町レポートは以下の記事を参照してほしい。

2012年9月23日「おながわ秋刀魚収穫祭2012」

おながわ秋刀魚収穫祭@女川町総合運動公園第2多目的運動場

2013年3月24日「女川町復幸祭2013」

また、女川で会いましょう。 カーネーション、BiS出演「女川町商店街復幸祭2013」レポート(前編)

また、女川で会いましょう。 カーネーション、BiS出演「女川町商店街復幸祭2013」レポート(後編)

2013年9月22日「おながわ秋刀魚収穫祭2013」

「また、女川で会いましょう!」と彼女は言った BiS出演「おながわ秋刀魚収穫祭2013」レポート前編

「また、女川で会いましょう!」と彼女は言った BiS出演「おながわ秋刀魚収穫祭2013」レポート後編

2014年3月16日「女川町復幸祭2014」

いつかまた、女川で会いましょう。 BiS、大森靖子など出演「女川町復幸祭2014」レポート(前編)

いつかまた、女川で会いましょう。 BiS、大森靖子など出演「女川町復幸祭2014」レポート(後編)

2014年9月21日「おながわ秋刀魚収獲祭2014」

縁はつながり、そして続く。 寺嶋由芙、八神純子ら出演「おながわ秋刀魚収獲祭2014」レポート(前編)

縁はつながり、そして続く。 寺嶋由芙、八神純子ら出演「おながわ秋刀魚収獲祭2014」レポート(後編)

2015年3月22日「女川町復幸祭2015」

面白い人が作る街って面白い プラニメなど出演「女川町復幸祭2015」レポート(前編)

面白い人が作る街って面白い プラニメなど出演「女川町復幸祭2015」レポート(後編)

念願の電車による女川駅への乗り入れ

今回は、2015年9月19日~23日(21日は休演)に嵐が「ARASHI BLAST in Miyagi」をひとめぼれスタジアム宮城で開催するので、早めに移動手段や宿泊手段を確保することにした。私は、「おながわ秋刀魚収獲祭2015」の前日である2015年9月19日に、シルバーウィークで混雑する東京駅を東北新幹線で出発。仙台駅からはJR仙石東北ライン快速で石巻駅へ向かい、石巻駅からはJR石巻線で女川駅へ向かった。

過去6回のレポートを読んでいただくとわかると思うのだが、鉄道を使った場合の仙台駅から女川町までのルートは、復興の度合いによって複雑に変化してきた。初めて女川町を訪れた3年前、2012年9月23日の「おながわ秋刀魚収穫祭2012」のときは、まだ石巻線が渡波駅までしか運行しておらず、そこから代行バスに乗り換えて女川町入りしたものだ。そして2013年3月16日には、女川町内の浦宿駅が復旧。浦宿駅から女川町の旧市街地までは徒歩30分程度なので、女川町の旧市街地から少し歩けば電車で東京へ帰れる状態になったことに感動すらしたものだ。

そして2015年3月21日、東日本大震災から4年を経て女川駅が復旧。その翌日の「女川町復幸祭2015」には、ももいろクローバーZが出演して多くのファンが鉄道を利用したために、私は鉄道での女川町入りを断念した。今回は、遂に念願の電車による女川駅への乗り入れだ。

Suicaが使えるのは石巻駅までなので、石巻駅で一度改札を出て、女川駅までの乗車券を購入。320円だ。そして石巻線に乗車して渡波駅や浦宿駅を通過し、いよいよ女川駅へ向かう。1年前の2014年9月21日の「おながわ秋刀魚収獲祭2014」のときは、まだ浦宿駅~女川駅間は開通しておらず、使われていない浦宿駅~女川駅間の線路を私たちは民宿への移動のために横切ったものだ。その線路の上を今回は電車が走り、まだ真新しい女川駅へと乗り入れた。半年遅れでひとり感極まってしまった。

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整備が進む女川駅前のプロムナード

女川駅に着くと、女川駅から海側へとまっすぐに伸びるプロムナードがさらに整備されていて感動してしまった。しかも女川駅前には、観光案内所も新しくできている。

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半年前の「女川町復幸祭2015」で「海ステージ」としてプラニメのライヴなどに使われた建物は、「女川フューチャーセンターCamass」として、有料コワーキングスペース、無料多目的スペースになっていた。

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女川フューチャーセンターCamass

私はちょっと興奮気味に、プロムナード周辺に新築された建物を一軒ずつ見て回った。電気店、カラオケスナック、カフェ、船具店、無線商会、フラワーショップ。そして舗装された道のマンホールには、女川町の公式キャラクターである「シーパルちゃん」があしらわれていた。現状は、女川町の臨時災害放送局・女川さいがいエフエムが作成した地図に詳しい。

女川さいがいエフエム - 駅前周辺の地図を作成しました

プロムナードの両脇では、何棟もの建物が建築中だった。周囲には木材の香りが漂っている。棟の上では鳶が飄々と歩いていた。現在建築中の「女川町まちなか交流館」は年内にはオープンの予定だ。

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女川町 - 女川駅前にぎわい拠点

プロムナードの一番海側まで行って女川駅を眺めた。この真新しく美しいプロムナードに、今自分ひとりしかいないのは不思議な感覚だった。

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女川町にかかる虹

プロムナードの一番海側で横を見ると、「女川水産業体験館 あがいんステーション」があった。入ってみると女川町の水産加工物などを販売していたので、女川町の蒲鉾本舗高政のかまぼこや書籍「女川ポスター展全集」を購入。女川町の廻船問屋である「青木や」のギターピックも販売されていた。店員の女性によると、2015年6月14日にできたばかりだそうで、まだ地元でも知らない人がいるとのことだった。

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あがいんステーションの外のベンチに座ってかまぼこを食べていると、プロムナード一帯を歩き回った興奮も落ち着いてきてボーッとしてしまった。すると雨が降り出して、その勢いは瞬く間に強くなっていく。その光景を軒下で眺めながら、ゲリラ豪雨に襲われた3年前の「おながわ秋刀魚収獲祭2012」をぼんやりと思い出した。町外から来た私たちは慌てたものの、津波を体験している女川町の人々はさしたる動揺も見せなかった日のことだ。大きな自然災害を経験したかどうかの違いは、あのような瞬間に出るのだと感じた日でもあった。

雨も弱まったので、女川駅に戻って、併設されている温泉施設「女川温泉ゆぽっぽ」の休憩場にいる仲間たちのもとへ行くことにした。着いてみると、青木やの青木久幸さんは「濡れてないじゃん!」となぜか不満そうだった。たしかに、びしょ濡れで戻ったほうが面白かったかもしれない。そして完全に雨が上がると、女川町にかかる大きな虹を見ることになった。虹の脚は、女川湾の海から立ちあがっていた。

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日々新しい何かが作られている町

民宿にチェックインするため、女川駅から浦宿駅まで電車で戻った。一駅間、140円。 浦宿駅に着くと、蒲鉾本舗高政 女川本店万石の里へ寄って、かまぼこをおみやげに買って配送してもらった。

民宿前で仲間たちの集合を待ちながら、女川町の夕暮れを眺めた。その間にも、浦宿駅から女川駅へと電車は走る。女川町内を電車が往来する日常。その素晴らしさを痛感した。

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私たちが10人ほどで泊まった民宿は、18時にはもう夕食だ。食後にしばらくダラダラしてから、私たちは夜遊びに出かけた。と言ってもまだ20時だ。女川町の仮設商店街「きぼうのかね商店街」へ行き、「ガル屋Beer」と「Bar Sugar Shack」をハシゴした。「Bar Sugar Shack」は2015年8月21日にオープンしたばかりだという。女川町では日々新しい何かが作られているのだと体感した一日だった。

明日の「おながわ秋刀魚収獲祭2015」に出演する寺嶋由芙が女川駅に到着したとツイートしてからほどなくして、すでに疲れきっていた私たち前乗り組は民宿で眠りにつくことになった。

寺嶋由芙のおかせい一日店長と震災遺構

「おながわ秋刀魚収獲祭2015」が開催された2015年9月20日は、民宿の前の道路が朝から混んでいた。浦宿駅から女川駅まで電車で移動すると、駅前には今朝到着した自動車移動組も集まっていた。昨日、私ひとりしかいなかったプロムナードを仲間たちと歩いているのも不思議な感覚だった。

今日はまず、寺嶋由芙による「女川おかせい 一日店長イベント『おながわっふぃー丼るんたった』」が開催されるあがいんステーションへ向かった。豪勢な海鮮丼の「女川丼」で知られる「おかせい」と寺嶋由芙のコラボイベントが、あがいんステーションで開催されるのだ。

寺嶋由芙は、ソロとして昨年と今年の「おながわ秋刀魚収獲祭」に2年連続出演しているアイドルだ。BiS時代も含めると、女川町の祭りに4回出演していることになる。

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おかせいの店長と寺嶋由芙の挨拶の後、寺嶋由芙が一日店長として女川丼にイクラを乗せていくイベントが始まった。いや、イクラを乗せているようにしか見えないが、「魔法をかけている」というていである。食べてみたところ、イクラがふんだんに振る舞われ、ほぼイクラの味しかしない……! そして、50食完売後におかせいの店長から寺嶋由芙に言い渡されたのは、「イクラを使い切っておかせいの経営を危うくした」という理由で1日店長をクビ、というオチだった。

そんな最後の茶番の前に、寺嶋由芙はファンと集合写真を撮影した。寺嶋由芙がファンに位置の指示を出しているとき、彼女の背後にあった震災遺構の旧女川交番が視界に入ってきた。同じく震災遺構だった江島共済会館や女川サプリメントが解体された現在、女川町に唯一残る震災遺構が旧女川交番だ。寺嶋由芙の笑顔と旧女川交番のコントラストは、1枚の写真のように私の目の奥に焼きついた。

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毎日新聞:東日本大震災:遺構の保存「旧女川交番」のみ検討

(『これからも女川に来て歌いたい 寺嶋由芙ら出演「おながわ秋刀魚収獲祭2015」レポート(後編)』へ続く)

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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