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Have a Nice Day! 浅見北斗インタビュー 暗い感情を出して盛り上がったら最強じゃないか

宗像明将音楽評論家
Have a Nice Day!の内藤。インタビューに登場する浅見北斗ではない。

Have a Nice Day!と「東京アンダーグラウンド」

暗い感情を抱えながらフロアで踊るための音楽。Have a Nice Day!がリリースするミニ・アルバム「Dystopia Romance 2.0」はそんな作品だ。

「ハバナイ」ことHave a Nice Day!は、現在の名義では2011年から活動を開始。2012年4月から、浅見北斗(MC、コンポーザー)、チャンシマ(ドラム)、さわ(キーボード)、内藤(James Brown)という現在の編成になった。イベント「スカムパーク」の主催、浅見北斗らが監修したジュークのコンピレーション・アルバム「FRESH EVIL DEAD」のリリースなど、新宿LOFTを拠点に活動を続けてきた。

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浅見北斗

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写真右からさわ、浅見北斗、チャンシマ、望月慎之介(オモチレコード主宰)

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内藤

Have a Nice Day!がその名を広く知られるようになったきっかけは、おやすみホログラムとのコラボレーションによる「エメラルド」を2015年5月にリリースしたことだろう。同時期にLimited Express (has gone?)とのコラボレーションによる「Heaven Discharge Hells Delight」もリリースしている。

2015年9月には恵比寿LIQUIDROOMでのフリー・パーティー開催を目指すクラウドファンディング「Have a Nice Day! その華麗なるリリースとモッシュピットを生む方法」をスタートさせ、120万円以上を集めてサクセス。連動して出資者にアルバム「Dystopia Romance」を配布するという試みも行った。

Have a Nice Day! その華麗なるリリースとモッシュピットを生む方法

そして、2015年11月18日に恵比寿LIQUIDROOMで「Have a Nice Day!『Dystopia Romance』リリースパーティー」を開催し、925人を集めて大成功させる。それは、Have a Nice Day!、NATURE DANGER GANG、おやすみホログラムを中心としたシーンである「東京アンダーグラウンド」がオーヴァーグラウンドに現れた瞬間でもあった。

RealSound - 東京のアンダーグラウンドとはどこだろう? Have a Nice Day!のリリースパーティー@LIQUIDROOMレポート

Have a Nice Day!は、2016年4月にベスト盤「Anthem for Living Dead Floor」をリリース。さらに5月に早くも届けられる新作がworld's end girlfriendが参加した「Dystopia Romance 2.0」だ。

浅見北斗が語る「Dystopia Romance 2.0」

Have a Nice Day!がVirgin Babylon Recordsからリリースするアルバム「Dystopia Romance 2.0」は、2015年にリリースされた「Dystopia Romance」と世界観が通底している作品だ。東京というディストピア。さらに、world's end girlfriendが参加した「NEW ROMANCE feat.world's end girlfriend」によって新機軸を見せているアルバムでもある。

プリンスがこの世を去ってから聴く「Dystopia Romance 2.0」は、まるで東京アンダーグラウンドからミネアポリスへの別れの手紙のようにも感じられる。

荒れ狂うフロアに言及されがちなHave a Nice Day!だが、ダンス・ミュージックの要素(浅見北斗はLCDサウンドシステムが一番好きだという)と、ソウル、R&B、ファンクなどのブラック・ミュージックの要素が彼らの音楽の主軸であると感じていた。

ところが、world's end girlfriendが参加した「NEW ROMANCE feat.world's end girlfriend」は、ストリングスやヴォイスも多用され、曲調も次々に変化していくドラマティックにして異形のサウンドだ。新宿LOFT近くの喫茶店で浅見北斗に話を聞くと、ここ数年の海外の音楽の潮流と同時進行形であることがわかる。

「M83の『Midnight City』やジェイムス・ブレイクみたいに、ロック的なところでソウルの要素を入れたかった。ソウル、R&B、ヒップホップの要素をね。でも、world's end girlfriendのトラックはブラック・ミュージックが抜け落ちた状態だったんだ。」

そもそも「NEW ROMANCE feat.world's end girlfriend」の制作当時に浅見北斗が聴いていたのはどんな音楽だったのだろうか。

「フェティ・ワップやヤングサグのトラップみたいに、歌うようなラップが一番最初の下敷きになっている。それをHave a Nice Day!に近づけたときにああなるんだ。」

「ハウ・トゥ・ドレス・ウェルみたいなオルタナティヴR&Bも聴いていた。白人のベッドルーム・ミュージックだね。でも、俺たちはライヴで機能する音楽を志向しているからベッドルーム・ミュージックにはなりきらないんだ。」

たとえばハウ・トゥ・ドレス・ウェルの「Words I Don't Remember」を聴いていると、ヴォイスの挿入の仕方が「NEW ROMANCE feat.world's end girlfriend」と共通するスタイルであることにも気づく。

「world's end girlfriendも声ネタを入れてきて、俺とイメージを共有していたんだ。『NEW ROMANCE feat.world's end girlfriend』は、world's end girlfriendの流れとも、Have a Nice Day!の流れともあまりにも違う。world's end girlfriendのトラックが強くて、こっちも強いメロディーを書かないといけなかったんだ。」

先行してSoundCloudで公開されている「ファウスト」や、MVが公開されている「F/A/C/E」(諸事情でここに動画を貼ることができない)など、浅見北斗の書くメランコリックで美しいメロディーも「Dystopia Romance 2.0」の大きな魅力だ。

SoundCloud - ファウスト by Have a Nice Day!(ハバナイ)

だが、新作でこれほど内面を描いているのはなぜなのだろうか。

「人間の暗い部分もないと成立しないし不自然だと思うから、自分の中のものを正直に出しているんだ。暗い感情をフロアに持ち出すのは良くないかなと思ったけど、でも暗い感情を持ち出してフィジカルに盛り上がったら最強じゃないかと思うんだ。」

ディストピアに生きる人々の暗い内面をも描いた「Dystopia Romance 2.0」。リスニングにも対応する同時代性の強い音楽であると同時に、東京アンダーグランドのフロアで強烈にフィジカルに機能する音楽でもあるはずだ。

「Dystopia Romance 2.0」に収録されている「LOVE SUPREME」のMVでは、廃墟などでキスをするカップルがひたすら写され続ける。ニュー・オーダーの「Krafty」を連想する人もいるだろうが、Have a Nice Day!のほうが退廃的で、ニュー・オーダーが健全に感じられるほどだ。これがHave a Nice Day!の世界観なのだ。

映画「モッシュピット」の行方

2016年5月21日には、岩淵弘樹監督がHave a Nice Day!、NATURE DANGER GANG、おやすみホログラムの活動を追ったドキュメンタリー映画「モッシュピット」が公開される予定だ。はたして東京アンダーグランドとは実在するものなのか、あるいはハイプが生み出した幻想なのか? 岩淵弘樹監督が考える結論は、映画の完成を待とう。

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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