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【オマーン現地レポート】U-21日本代表に足りなかったものとは何か?

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
U-22アジア選手権 準々決勝イラク戦敗退後にうなだれる選手達

オマーンで開催されたU-22アジア選手権にU-21で挑んだ日本代表は、1勝2分け勝ち点5でC組2位でグループステージを突破するも、決勝トーナメントの準々決勝でイラク代表相手に0-1で敗退し、ベスト8でこの大会を去ることとなった。

元々この大会は昨年行われる予定だったのが、今年1月に開催がずれ込んだため、正確なレギュレーションでは23歳以下の大会となる。日本代表は2年後のリオデジャネイロ五輪に照準を合わせて、敢えて2歳年下のU-21で代表選手を選出していた。

準々決勝の対戦相手のイラク代表はルール通りU-23でチームを組んでおり、A代表のメンバーも多数揃っていた。対するU-21日本代表はA代表経験者が0人。2歳差で生じる経験値の差は決して小さくはなかった。

イラク戦キックオフ前に円陣を組む日本代表
イラク戦キックオフ前に円陣を組む日本代表

選手の実績でまさるイラク代表は序盤から積極的に攻勢に出て、日本代表は守備に奔走する形となった。前半における日本代表のシュートはアディショナルタイムの1本のみ。それでもグループステージ第3戦オーストラリア戦から導入した4-3-3のシステムは、イラクの猛攻を何とか食い止め、0-0で前半を折り返す。

後半に手倉森監督は次々と攻撃的な選手を投入し、防戦一方の戦い方からリズムをつかみ始め、ショートカウンターを繰り出せるようになってきた。がしかし、後半39分にGK櫛引からのロングフィードを相手センターバックに大きく跳ね返され、そのセカンドボールに対してもヘディングで競り負け、裏に抜け出したFWカラフにDF陣がついていけず、痛恨の先取点を献上した。残る時間はアディショナルタイムを含め10分弱。

僕は日本人サポーターが陣取るエリアで、オマーンの日本人学校から借りてきた太鼓を叩きながら応援していた。我々が繰り出すニッポンコールは、僕らの10倍以上は居たであろうイラク人達のゴールに沸く歓声に掻き消される。

声を枯らしながら僕は、キックオフを待つ選手達を凝視した。GK櫛引やキャプテンのDF西野が声を出していたのは見て取れた。だが他は腰に手をあてて呆然としていたり、下を向いている選手が多く、近くの選手同士で声を掛け合う場面もほとんど見られなかった。セカンドボールの落下点に入ることができなかったMF原川は終始うつむいていて、気持ちの切り替えができていないように見えた。

得点後の日本代表のリスタートで、DF陣からの前線へのフィードが大きく逸れて、左のタッチラインを割った。日本人サポーター席からも溜め息がもれる。4分のアディショナルタイムを含めた残りの約10分間、日本代表はアウェイの雰囲気に飲み込まれ、大きな見せ場さえ作れずに終了のホイッスルが鳴った。

A代表には存在して、U-21代表には存在しないもの

勝負事というのは、常に勝ち続けることができないのは百も承知だし、2歳差のハンデの中、84分までスコアレスで来れたのは上出来とみる見方もある。ただ僕は、失点して逆境に立たされた後、U-21日本代表が脆さを露呈してミスを連発し、特に目立った反撃もできないまま、敗退した姿が悔しくてたまらなかった。

取材を受けた後に一人で日本人席の前に来て、深々と頭を下げていったキャプテン西野
取材を受けた後に一人で日本人席の前に来て、深々と頭を下げていったキャプテン西野

A代表では中東アウェイで苦しい状況に追い込まれても、それを跳ね返して何度も勝ちを重ねてきた実績がある。例えば2011年アジアカップの準々決勝、ホスト国のカタール代表相手に、吉田が退場し1-2とリードされた後、数的不利にもかかわらず、香川と伊野波のゴールで3-2と逆転した経験がある。また、2012年W杯最終予選のオマーンアウェイ戦、清武のゴールで先制するも、後半終盤にオマーン代表が同点に追いつき、スタジアムはお祭りモードとなった。そんな完全アウェイの雰囲気でも日本代表は動じずに、後半44分に岡崎が勝越しゴールを奪い、勝ち点3を獲得した。

A代表においては劣勢になっても、気持ちを強く持って選手同士で声を掛け合い、冷静さを保ちながら焦らずにゴールを奪いにいくことがアジアの戦いでできている。長谷部や本田がチームの精神的支柱となり、川島や長友がオーバーアクションで味方を鼓舞する。各々の性格に合った役割分担ができているようにも見える。

まだ国際大会の経験も少ないU-21日本代表にそのタフさを求めるのは酷かもしれないが、少なからずイラク戦の失点後における各選手の表情や姿勢を見ていると、逆境を跳ね返すポテンシャルが微塵も感じられなかったのが残念だった。

精神的タフさを身に付けるために

サッカーとはメンタルで勝負する競技だと僕は思っている。サッカーに限らずスポーツ全般に言えることだろう。当然、フィジカルや技術の土台があってこそだが、国を代表するトップ選手がしのぎを削る舞台で、最後にものを言うのはメンタリティだ。

僕は2年前にUAEで開催されたU-19アジア選手権も全4試合を現地観戦し、合間の練習にも足を運んでいたのだが、この世代は特に声を出さないチームのように感じる。練習中にコーチ陣から「もっと声出せ!」と指示が出るほどなのだ。今回のU-22アジア選手権はメンバーも入れ替わり、多少声が出るチームに変わってきた感はあるが、それでも試合中に観客席まで響いてくる声は、対戦相手のアラビア語の方が圧倒的に多かった。

単純に大声を出せばいいわけでは決してないが、勝ちにいく情熱を前面に出して、お互いで威勢のいい声を掛け合えば、味方を勇気付けることができるだろうし、特に苦境に陥った時にはムードを変える切っ掛けとなり得るはずだ。

そういった意味で、U-21日本代表には圧倒的アウェイの雰囲気でも動じない精神的強さを身に付けてほしい。そのためには、リオデジャネイロ五輪の出場権が懸かる2年後の第2回U-22アジア選手権に向けて、もっともっとアウェイでの経験を積んでほしいと願うばかりだ。

幸いにも手倉森監督は帰国後のインタビューで中東での合宿を希望していると答えている。その暁にはまた僕も中東に参戦し、ゴール裏からサポーターとして選手達を鼓舞するつもりだ。技術に関しては一級品のものを持った選手ばかりである。それに加えて精神的なタフネスを身に付けることができれば、自ずとリオデジャネイロ行の切符を手にすることができるだろう。U-21日本代表の将来に大いに期待したい。

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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