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【アジアカップ回顧】サッカー日本代表の海外遠征を追うサポーターの恍惚と苦悩

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
PK戦の末、日本代表はUAE代表相手に準々決勝で敗退した。

アギーレジャパンがアジアカップの準々決勝で敗退してから1週間が過ぎた。

敗因を探るコラムがほぼ出尽くした中、僕はまだ、あの「敗戦」を全く消化できていないが、オーストラリア現地に残るサポーターの目線で、消化不良のあの試合を振り返ってみようと思う。

誰も予想できなかった準々決勝敗退

今回のアジアカップベスト8敗退は、去年のワールドカップのグループステージ敗退とはわけが違う。ザックジャパンに終止符が打たれたコロンビア戦は、世界を舞台にした戦いの厳しさを理解していたので、ある意味心の準備ができていた。

しかし、今回はアジアを舞台にした大会である。日本はワールドカップのアジア予選を5大会連続で突破してきた国であり(開催国だった2002年は例外)、今回のアジアカップは前回王者として挑んだ大会だった。

僕は初戦のパレスチナ戦から日本代表の全試合を追いかける形でオーストラリア入りしていたが、知り合いのサポーターたちはグループステージ第3戦や、決勝トーナメント以降から現地入りする計画を立てている人が非常に多かった。

アジアでは無類の強さを誇る日本代表が、アジアカップのベスト8でUAE相手に敗退するなんて誰も予想していなかったのだ――。

アジアカップ準々決勝敗退で失ったもの

オーストラリアに現地入りしているサポーターは、もうてんやわんやである。

航空券を変更して帰国した人はまだいい。僕は決勝翌日まで確保していたこちらの宿がキャンセル不可なので、虚無感を抱えたままシドニーに留まっている。

最悪なのは、準決勝、決勝の2試合を観るためにオーストラリア入りしたサポーターだ。航空券やホテルをキャンセルできずに泣きながら渡豪してきた人、会社の有給申請を今更取り消すのもしゃくなので自暴自棄になって飛んできた人、僕が知っているだけで10人近くいる。

端から見れば「そんな融通のきかない旅程を作ったお前らがバカなだけだろ」と罵られるだろう。そうさ、馬鹿にすればいい。僕らは真正の間抜けであり、負け組だ。

僕はシドニー近郊のボンダイビーチに貸し切ったアパートのルームメイトたちと、1月23日のUAE戦をスタジアムで一緒に応援していた。彼らは準々決勝、準決勝、決勝(もしくは3位決定戦)の計3試合を観に、約10日間オーストラリア遠征を計画してきた人たちだった。目の前の試合に万が一負けたりしたものなら、シドニー入りして2日目にしていきなり今回の旅の主目的を失う状態だった。

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そのような境遇で、0-1とリードされている時間帯が70分以上続くのは、苦行以外の何ものでもなかった。それほど辛い思いをした分だけ、柴崎岳の同点ゴールは歓びが爆発した。あの同点ゴールを目の前で見た僕らゴール裏サポーターは、誰もが逆転を信じて疑わなかった。

普段立って応援したりする習慣のない、いわゆる「ゆるサポ」系の人たちも、120分間ゴール裏で一緒に立って、声を枯らして応援した。何せ、オーストラリア滞在における僕らの「未来」がこの試合にかかっているからだ。

それでも、僕らの声援は、実を結ぶことはなかった。

「運命共同体」となって試合を応援する覚悟

僕はフル代表に限らず、アンダー世代のアジア選手権にもよく現地参戦していて、帰国便を決勝翌日に手配しているのに、各世代の日本代表が準々決勝で敗退する事態を4回ほど経験しているのだが、何度経験してもこの辛さには慣れない。

特に今大会は、本気で連覇を信じていただけにショックが大きすぎる。4年前にカタールで初めて体験した「優勝の祝杯」を今回もあげたかった。

だがしかし、それだけ代表の力を信じて、ある意味祈りを込めて応援するというのは、本当に貴重な経験だと思う。

リーグ戦で負けても次の試合があるし、国内のカップ戦で負けても明日以降の日常生活は続いていく。けれども、アジアカップのような国際大会におけるノックアウトステージは、その名の通り「負けたら終わり」である。もし敗退しようものなら、現地参戦しているサポーターの翌日以降の旅程は全くの白紙となる。そこには他人事ではない、日本代表と運命を共にする「覚悟」が存在するのだ。

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その緊迫感たるや、言葉で表現するのは到底無理な話だ。目の前で繰り広げられたPK戦なんて、本当の意味で「祈る」しかなかった。

PK戦に敗れたのち、日本代表の23人のメンバーはスポンサーの看板を越えて、ゴール裏のサポーターのところまで挨拶にきた。オーストラリア在住の日本人たちから健闘を称える拍手が巻き起こったが、日本から来ている「コアサポ」たちは、かける言葉を失っていた。

これからもアジアの舞台では誇りと覚悟を持って戦っていく

当然、僕らサポーターにも油断や過信があったかもしれない。変更のきかない旅程を組むこと自体が「負のフラグ」になったと指摘する人もいるだろう。

それでも僕は、背水の陣を敷いて日本代表と運命を共にする覚悟を持って戦う姿勢を大切にしたい。敗戦に打ちひしがれて目的を失った旅を続けるのも、それはそれで一興だ。

準々決勝以降、オーストラリアでやることがなくなったルームメイトが、「負けたのは本当に悔しいけど、腹をくくって決死の覚悟で応援できたことは誇りに思える。また海外で日本代表を応援したい」とオーストラリアワインを飲みながら語っていた。僕はその言葉に尽きると思う。

日本代表にとって、アジア諸国で最多となる通算4回のアジアカップ優勝という実績は変わらない。アジアを舞台にした大会では、これからも誇りと覚悟を持って戦っていきたい。

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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