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スイス、ベーシックインカム導入の国民投票実施へ

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:ロイター/アフロ)

何かと話題になっているベーシックインカムであるが、スイスが世界初のベーシックインカム導入国になるかもしれない。

今年6月、スイスでは「ベーシックインカム制度」の実現に向け国民投票が行われる予定だ。これが可決されれば、成人に対して毎月2500スイスフラン(約30万円)、子供は625フラン(約7.5万円)が無条件で国から支給されることとなる。

年間の財源は2080億フラン(約25兆円)が必要だと予測されている(スイスのGDPは6428億フラン)。

この財源の出処は、1530億フランが税金によって、550億フランは社会保障費を削減するとしている。

また、ベーシックインカムをもらうことで、仕事を辞めてしまう人が増えるという懸念があり、1076人を対象にした調査では、仕事を辞めると答えたのは2%だが、約3分の1の人が「他の人は仕事をやめる」と答えている。

この動きを主導したのは市民団体で、国民投票に必要な10万人以上の署名を集めて議会に提出、国民投票を行うこととなった。スイスでは一定期間内に10万人の署名を集めることができれば、国民投票にかけることができる(そのため日本での国民投票のイメージとは異なる)。

ベーシックインカムとは?

そもそもベーシックインカムとは、最低限の所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するというものである。

メリットは?

メリットとしては、貧困対策、少子化対策、社会保障制度の簡素化(による人員削減、利権の縮小、小さな政府の実現)、が主に挙げられる。

デメリットは?

一方、デメリットとしては、労働意欲の低下、財源の確保、また在住外国人に対しても同様に支給した場合移民が殺到し財政破綻する可能性がある。

また、フィンランドでも今年の春に調査結果が報告され、計画が立てられるとしている(うまくいけば2017年から試験開始)。

ブラジルは世界で唯一、ベーシックインカムを法制化している国で、労働者党が「市民ベーシックインカム法」を制定した。ただ、これはベーシックインカムの段階的導入を進める法律で、必要な税制改革がなされた後にベーシックインカムが導入される。

スイスで署名活動を推進した中心人物は、「ベーシックインカムは貧困の削減だけのためのものではなく、むしろ生き方、働き方に関わる問題だ」と語る。「現在の経済のしくみでは、一部の特権的な人びとはともかく、多くの人は食べるために働かなくてはならない。仕事とは、本来、共同体のため、他の人のため、社会のためであるはずなのに、それが自分と家族が何とか生きのびるためになってしまっている。ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」。

今後、ロボットによる無人化などによって、必要な労働量が減り、"失業率”が世界的に高まる可能性が高い。その時にセーフティネットをどう確保するのかというのは遅かれ早かれ重要な課題となるのは間違いない。

日本ではまだ議論が始まっていないが、そろそろ本格的に議論すべきかもしれない。その時、ベーシックインカムも一つの有力な選択肢となるだろう。

日本の場合、仮に今の年金・雇用・生活保護といった社会保障費をベーシックインカムに置き換えると、一人あたり約5万円支給することが可能だと試算されている。

しかし、人事権を握り官邸主導の現在ならもしかしたら可能かもしれないが、既存の官僚組織を大きく縮小することになるため、議員定数削減でさえうまくいっていないところをみると実現へのハードルはかなり高いであろう。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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