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ブルームバーグが予測する2017年最悪のシナリオー昨年はBrexitやトランプ大統領などを予測

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:ロイター/アフロ)

昨年、誰もが予測していなかった内容を当てたブルームバーグの「The Pessimist's Guide」が今年も発表されている(公開は2016年12月5日)。

あくまで悲観的なシナリオであり、全てを信じる必要はないが、昨年(2016年)の予測ではFinancial Timesなど主要メディアと同等の確率で当たっており、透明性の高い現代において「予想外」なシナリオも注目に値する(その意味では、ブルームバーグとFTを並べて見ておけばある程度今年の動向が読める可能性は高い)。

昨年はBrexitやトランプ大統領を予測

今年の予測を見る前に、まずは昨年の予測から振り返ってみよう。

1.原油価格が1バレル=100ドルまで上昇

2.イギリスがEUを離脱

3.ロシア・イランによる米銀行に対するサイバー攻撃

4.難民への反発からEUが滅びる

5.中国経済が低迷し、軍事費が増加

6.イスラエルがイランの核施設を攻撃

7.ロシアが国際舞台で成功

8.気候変動の悪化

9.ラテンアメリカの無秩序

10.トランプが大統領に

出典:https://www.bloomberg.com/graphics/pessimists-guide-to-2016/

以上が昨年(2016年)の予測だ。

やはり注目すべきは、2.のBrexit、10.のトランプ大統領だろう。

3.のサイバー攻撃は相手が米銀行ではなかったが、ロシアは米大統領選に介入した。

7.は見事にロシアが国際舞台で成功を実現、シリアでは紛争を主導する立場に立ち、日本からは経済協力を引き出し、親密な関係にあるトランプ大統領が当選したことで経済制裁が緩和される可能性も高い。

4.は、EU崩壊にまでは至っていないものの、ドイツ・メルケル首相やフランス・オランド大統領の支持率は低迷しており、今年(2017年)の総選挙の結果次第では主要国が再びEUから離脱する可能性も否定できない。

一方、FTが堅実に予測したものは外したものも多く(9/16が当たり)、なかなか先の読めない時代に突入している。

1.ヒラリー・クリントンが米大統領選で勝利

2.イギリスはEU離脱しない

3.シリア・アサド大統領の権力維持

4.イングランド銀行による利上げはない

5.G20の中からIMF支援要請する国が出る(アルゼンチン、ブラジル、南アフリカのうち少なくとも1カ国)

6.ドイツ・メルケル首相が辞任

7.サッカー・ユーロ2016でベルギーが優勝

8.ブラジル・ルセフ大統領が五輪開催前に弾劾されない

9.中国・人民元の切り下げ

10.ジェレミー・コービンのイギリス労働党党首留任

11.アベノミクスは失敗しない(ただし2017年の消費税再増税が危機的状況を招く可能性)

12.ロシアの陸上選手の五輪出場

13.欧州のディーゼルエンジン搭載の自動車の販売減少

14.北海ブレント原油価格50ドル超え

15.ジョージ・オズボーン英財務相による「3月予算」での年金の税額控除廃止

16.VRは離陸しない

出典:http://on.ft.com/1Ol3bwi

米大統領選とEU離脱という大きな出来事は外したが、シリア・アサド大統領の権力維持やブラジル・ルセフ大統領の失脚するタイミングは当てている。

今年はトランプ大統領とプーチン大統領が軸

では今年はどういう予測になっているのか?

まずはブルームバーグの「最悪なシナリオ」から見ていこう。

1.Trumplandia

2.ヤルタ2.0

3.米中による経済戦争(米国が中国からの輸入に高い関税をかける)

4.金正恩がトランプを負かす(トランプが国際社会に介入せず、ISは麻薬で資金を稼ぎ中央アジアで活性化、サウジアラビアと日本は防衛力を自国で強化、北朝鮮は核開発を進める。結果、米国が中国に頼る羽目になり影響力を増す)

5.EUが崩れ落ちる(オランダの右翼政党の躍進を皮切りに、フランスでは国民戦線党首マリーヌ・ルペンが大統領になりEU離脱の国民投票実施を発表、イタリアでは五つ星運動が解散総選挙で躍進しユーロからリラに戻す国民投票実施を呼び掛ける、メルケル首相は敗れる)

6.Internet of (Bad) Things(政府がIoTを通して盗聴)

7.キューバが旧ソ連に戻る

8.メキシコ急落(アメリカへの輸出関税高騰)

9.サウジアラビアの不安定化

出典:https://www.bloomberg.com/graphics/pessimists-guide-to-2017/

以上が今年の予測である。

ただ、1と2はタイトルだけ見ても内容がわかりにくいため、それぞれの詳細を見ていこう。

1.のTrumplandiaはこういうシナリオだ。

まず、就任後数週間の間に巨額の財政政策が共和党議会を通ることでトランプ政権の支持率が上昇。

しかし、バラク・オバマ前大統領のレガシー(功績)をひっくり返そうとしたために、抗議運動が勃発。その運動は大学生や「Black Lives Matter(警察官による黒人差別への抗議運動)」、「Occupy Wall Street」などの参加者にまで拡大(カリフォルニア州では米国から独立するCalexitが盛り上がる)。トランプ大統領は大都市で規制を強化する。

こうした結果、共和党は議会で分裂し、ホワイトハウスのトランプチームも分裂しかかる。

最初の数ヶ月、銀行や鉄鋼会社、証券会社の株価は安定せず、株高ブームも終わり、国債は急騰(宇宙・防衛関係の株価は高騰)。トランプ氏との対立により、Google、facebook、Appleの株価は低迷する。

全体としてみれば、財政出動により経済は活性化されるが、Fed(連邦準備制度)はインフレ抑制や住宅市場を守るために、対処を迫られることになる、というシナリオ。

次のヤルタ2.0はこういうシナリオだ。

トランプ大統領の孤立主義とプーチン大統領の"侵略"がメルケル首相に難しい選択を強いる。具体的には、ロシアに対抗してヨーロッパの軍事力を上げるか、もしくは、トランプ大統領のアドバイスに耳を傾け、プーチン大統領と東ヨーロッパでの影響範囲について交渉を行い合意するか、どちらかを迫られる。

これによって、プーチン大統領はハッカーや戦闘機を回収し、米国やEUの実務を妨害しないように合意する。一方、メルケル首相とトランプ大統領はウクライナ、ベラルーシ共和国、シリアへの影響力行使を認めることとなる。

この予測を立てたDavid Bohunek氏は、2017年はロシアの影響力拡大が国際社会の安定にとって最も大きなリスクになりうると述べている。

去年も同じことを思ったが、実現する可能性は決して高くはないだろう。ただ、ヨーロッパの選挙がどうなるかは現時点で断定することはできず、もしフランスでマリーヌ・ルペン国民戦線党首が勝利すれば、EUが内部崩壊(or限りなく弱体化)する可能性は否定できない。

また、ロシア(プーチン大統領)が影響力を拡大するのは確実であり、今後に不安を残す展開は想像しやすい。

さらに、輸入への関税を高くする可能性も高く、先日米フォードがメキシコでの新工場建設計画を撤回したように、日本のトヨタもメキシコ工場の撤回に追い込まれるかもしれない。

昨日(日本時間1月6日)トランプ氏はこうツイートしている。

(トヨタ自動車はメキシコに新工場を建設すると言っていたが、ダメだ!アメリカに工場を建てろ!さもないと、多額の関税を払わせるぞ)

一方、FTはこう予測している。

1.イギリスが2017年3月末までにEU離脱の通告を送付(リスボン条約の第50条を発動)

2.フランス・国民戦線党首マリーヌ・ルペンはフランス大統領選で勝利しない

3.ドイツ・メルケル首相は再選される

4.イラン核合意は破綻しない

5.トランプはロシアのプーチン大統領とシリア問題で合意を結ぶ(大統領就任後100日以内に、トランプがISに合同で攻撃を仕掛ける合意をプーチンと交わす)

6.トランプはメキシコとの国境に壁を建設する(しかし、フェンスなど大したものではない)

7.ISは粉砕されない(自称カリフ制国家のISは2017年に破綻するが、かつてのアルカイダと同様に他の勢力を頼りながら生き残る)

8.北朝鮮による核弾頭を搭載できるミサイルの実験は成功しない

9.中国は10%超の人民元下落を容認しない

10.ベネズエラはデフォルトしない

11.イギリスの年間成長率は1%以上

12.2017年末時点で米国のフェデラルファンド金利(FFレート)は1.5%を超えていない

13.原油価格は1バレル50ドルを超えて2017年を終える

14.EUのインフレ率は年末までに1.5%以上に達さない

15.米・アップルは2017年末に世界で最も時価総額が高い

16.米・ウーバーテクノロジーズは上場しない

17.ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファインCEOとJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは2017年に退任しない

出典:on.ft.com/2hw8gIe

現実的なシナリオを予測しているため妥当だと思えるものが多いが、果たしてどうなるか。

また、米政治学者イアン・ブレマー氏が率いる米調査会社「ユーラシア・グループ」は今年の10大リスクを発表し(タイトルは「地政学上の後退」)、最大のリスクとしてトランプ氏が率いるアメリカを挙げている。

具体的には、トランプ大統領が米国第一主義を掲げ、国際機関や同盟国への義務を減らし、アジア太平洋地域で中国の影響力が拡大、両国の対立が激しくなる恐れがあるというもの。

これはブルームバーグが予測する4番目のシナリオと近い。7.のトランプ政権対シリコンバレーもブルームバーグの1番目に書かれている内容とほぼ同じだ。

1.自国最優先のアメリカ

2.中国の過剰な反応

3.弱体化するドイツ・メルケル首相

4.改革の頓挫(アルゼンチン、ブラジル、フランス、ドイツ、インド、メキシコ、ナイジェリアで改革が停滞、イタリア、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、イギリスでは後退)

5.テクノロジーによる中東の不安定化

6.政治化する中央銀行

7.トランプ政権対シリコンバレー

8.トルコ

9.北朝鮮

10.南アフリカ

出典:http://www.eurasiagroup.net/files/upload/Top_Risks_2017_Report.pdf

以上、それぞれの予測を見てきたが、大きな流れで見れば、アメリカが国際社会から後退する中で、中国・ロシアの影響力が増え、(一時的に)不安定化していくというのが大きなシナリオになるだろう。そう考えると今に始まったことではなく、それが深化するというのが今年だ(ただ、経済的にはトランプ政権によって不透明性は格段に増している)。

また、昨年と同様、今年も重要な選挙が控えており、来年以降の世界情勢(特に欧州)はそれに大きく左右されるだろう。

最後に、向こう1年間の注目すべき出来事を羅列しておく。

・1月

トランプ氏の米大統領就任

・3月

オランダ総選挙

イギリス EU条約第50条発動(2年間の離脱プロセスの開始)

・4月〜5月

フランス大統領選挙

イラン大統領選挙

トルコ・エルドアン大統領 国民投票実施(大統領権限強化)

・9月

ドイツ連邦議会選挙

中国共産党大会(秋頃)

・12月

韓国大統領選挙

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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