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アフリカ・ブームの国際政治経済学 1.アフリカ・ブームの現状と背景(1)

六辻彰二国際政治学者

アフリカ・ブームの到来

アフリカは今、好景気に沸いている。図1-1で示すように、そのGDP(国内総生産)成長率は東アジア・太平洋や南アジアに及ばないものの、2000年代半ば以降は平均で5パーセント前後を推移している。リーマンショックに端を発する世界金融危機の影響で、2008年にいったん大きく後退したものの、翌2009年には持ち直した。1980年代や90年代にマイナス成長に陥ったことに鑑みれば、別の地域のような成長ぶりである

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現在のアフリカの成長は、海外からの投資によるところが大きい。図1-2は、地域別のGDPに占めるFDI(海外直接投資)流入額の割合を示している。つまり、生産活動全体に占める、海外からの投資の比率を表しているのであるが、ここからは2000年代に入って経済規模に比べて多くの投資がアフリカに集まり、その水準が2010年前後からは世界の成長センターである東アジア・太平洋に並び始めたことが分かる。

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これにともない、アフリカに流入する資金には変化が生まれている。図1-3からは、海外から流入する資金が、かつてのODA(政府開発援助)中心からFDI中心にシフトし始めたことが見て取れる。

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それでは、アフリカ向けの投資はどの分野に向かっているか。少なくとも日本でのアフリカに対する一般的な関心は、「資源が豊富」ということだろうが、それが必ずしも的外れでないことは、データからも裏づけられている。1960年前後に集中した独立以来、多くのアフリカ諸国では、天然資源のほとんどが国営企業の管理下に置かれていた。しかし、1980年代以降の市場経済化のなか、資源開発の分野でも段階的に民間企業の参入が認められるようになった。特に2000年代以降はこれが急激に増えており、UNCTAD(国連貿易開発会議)の統計によると、2012年のアフリカ向けFDIは合計約470億ドルで、このうち鉱山など天然資源開発が約75億ドルを占める。一方、精油のように天然資源の加工関係が約120億ドルにのぼる。これらの合計約195億ドルは、全体の41パーセントを占める(United Nations Conference on Trade and Development, 2013, World Investment Report 2013, Geneva: U.N., p.39)。アフリカ向け投資のうち、いかに多くが天然資源に向かっているかがわかるだろう。

これを反映して、アフリカの輸出は天然資源に大きく負っている。世界銀行の統計によると、2009年のアフリカ全体の輸出額のうち、金や鉄鉱石など「燃やさない」ことを前提とする鉱物(mineral)は全体の37パーセント、石油や天然ガスなど「燃やす」ための燃料(fuel)は38パーセントを占める。これは、たとえば同じ年の東アジア・太平洋の輸出額に占める鉱物、燃料の割合が、それぞれ5パーセント、8パーセントであったことに比べれば、いかに大きな比率であるかがわかる。

アフリカで進む資源開発

アフリカの資源について、簡単に確認していこう。表1-1は、アフリカ各国における原油の埋蔵量と産出量を表している。原油や天然ガスなどの化石燃料は従来、アルジェリアやリビアなどの北アフリカで多く産出しており、サハラ以南アフリカではナイジェリアが1960年代から採掘を続けてきた。

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しかし、1990年代に探査・採掘技術が発達し、それまで困難だった海底油田の開発が急速に進んだ。その結果、赤道ギニア、ガボン、カメルーン、ガーナといったギニア湾一帯の各国で、油田開発が急速に進んだのである。近年では、モザンビークをはじめとするインド洋に面した東アフリカ一帯でも海底油田の操業が始まっている。また、サハラ以南第2位の産油国であるアンゴラでは、1975年の独立から内戦が続いていたため、油田開発が遅れ気味だったが、2002年にこれがようやく終結をみたことで、その後は急速に産出量を増加させている。

近年のアフリカにおける油田・ガス田開発で大きな存在感を示すようになったのが、米国のコスモス(Kosmos Energy)や英国のタロー(Tullow Oil)など、英米系の中小エネルギー企業である 。これらは新規油田・ガス田の探査を主な業務としており、首尾よく採掘が軌道に乗りかけたタイミングで、エクソンモービル(ExxonMobil)など大手エネルギー企業に採掘権を売却して継続的な運営はこれらに譲り、初期投資を回収することが多い。1990年代以降のアフリカにおける油田・ガス田開発は、これら中小エネルギー企業が、大手企業がリスクを恐れるエリアでも機敏に活動することで進んできた側面がある。

化石燃料の埋蔵が確認されると、それはFDIを呼び込む契機となる。先述のモザンビークは、長く綿花などのプランテーション農業を中心とする経済構造で、代表的な貧困国の一つであった。しかし、1990年代末に海底ガス田が発見され、2003年に天然ガス生産が開始された前後から、急激に対外投資が流入し始めた。図1-4は、2012年段階で「GDPに占める農業の比率が30パーセント以上で、一人当たりGDPが1,000ドル(2005年平価)未満の国」に対するFDI流入額の推移を示している。つまり、総じて投資対象としての魅力に乏しい国に対する投資額を示しているのだが、ここから2000年前後からモザンビークへの投資が際立って多くなったことが分かる。化石燃料の発見がもつインパクトの大きさが推し量れるだろう。

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一方、アフリカでは鉱物の採掘が化石燃料以上に盛んである。表1-2はサハラ以南アフリカにおける主な鉱物資源の産出量と、世界全体の産出量に占める比率を示している。表1-1と比較すると、多くの鉱物の産出量の世界全体に占める割合が、原油のそれを大きく上回ることが見て取れる。貴金属類では金とダイヤモンドの産出量が多く、なかでも南アフリカとボツワナは、それぞれ世界一である。工業分野で必要な金属類では、アルミニウム生産に欠かせないボーキサイト、電池でおなじみのマンガン、さらに近年注目されるレアメタルではコバルト、クロム、チタンなどで、世界の生産量の多くを占めている。また、新興国を中心に広がりをみせる原子力発電で必要なウラン採掘も盛んである。

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農業中心の経済成長

ただし、いうまでもなく、燃料であれ鉱物であれ、すべての国で埋蔵されているわけでない。それでは、天然資源の乏しい国は投資を呼び込めず、現在のアフリカ・ブームから無縁なのか。実は、そうではない。

アフリカ開発銀行の報告によると、1981年から2006年までの間のアフリカにおける経済成長率は、資源が豊かな国が平均2.4パーセントにとどまったのに対して、そうでない国は平均3.8パーセントであった(African Development Bank, 2007, African Development Report 2007, New York: Oxford University Press, p.103)。図1-5はサハラ以南アフリカ各国におけるFDI流入額とGDP成長率の、2000年から2011年までの平均値を示したものである。ここからは、既に操業している産油国やこの期間に化石燃料の開発が進んだ国、さらに南アのような大規模資源国に多くFDIが流入したこととともに、それ以外でも高い成長率を記録した国があることが分かる。

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その代表例として、FDI流入額でサハラ以南アフリカ平均に及ばないものの、堅調な経済成長を実現してきた、エチオピアの事例を簡単にみてみよう。エチオピアは輸出用の農作物を多角化することで、高い成長率を維持してきた。エチオピアはアフリカで一、二を争うコーヒー豆輸出国だが、図1-6で示すように、2000年代に入る頃から、それまでほとんどなかった生鮮野菜などの輸出が急増してきた。

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この背景には、投資による農業への資金投入がある。前掲の図1-4からは、天然ガスが発見されたモザンビークには及ばないものの、農業中心の貧困国のなかでエチオピアには、それに次ぐ投資が集まっていることが分かる。

しかし、エチオピアは投資対象としての魅力が豊かとは言いにくい。農業中心で一人当たり所得が低く、さらに潜在的にはともかく、資源が豊富に産出しているわけでもない。さらに内陸国で、輸送コストも高くなりがちである。

投資対象として必ずしも魅力的でない条件を抱えるエチオピアは、農業に外資の誘致を図る制度改革に取り組んできている。1996年の投資公布書では投資家の財産保護が明記され、2003年の修正投資公布書では貧困地帯への投資へのインセンティブも盛り込まれた。製品の50パーセント以上を輸出する投資には5年間の免税措置が適用されるが、これが50パーセント未満の投資の場合は2年間である。さらに、国内で特に所得の低いソマリ州などへの投資には、さらに1年間が追加されるエチオピア投資庁のHPを参照)。

これらの制度設計により、エチオピアには欧米諸国や中国だけでなく、サウジアラビアなどペルシャ湾岸諸国からも投資が集まるようになった。そのうえで、エチオピア政府は未加工の革(2008)や綿花(2010)の輸出関税を引き上げることで、逆にこれらを加工して輸出するための投資を促している。これは国内製造業を育成する措置といえる。さらに、2007年には国際知的財産局を設置して、主力輸出産品であるハラー(Harah)などエチオピア原産コーヒー豆の品種の知的所有権を確保し、スターバックス(Starbucks)などグローバル企業からも特許料を徴収し始めた。このように政府主導による市場経済の原理にのっとった経済政策が、エチオピアの経済成長を支えてきたのである。

ICTを通じた成長

エチオピアとともに、現代のアフリカで資源に依存しない経済成長を遂げている例として知られるのが、ルワンダである。ルワンダはエチオピアと同様、やはりコーヒー豆輸出が中心の経済構造にあるが、現在ではICT(情報通信技術)分野へのシフトを図っている。

資源には国ごとの偏りがあるが、遠くの人間とコミュニケーションしたい欲求はどこの国も同じである。また、インフラの普及が遅れたアフリカでは、もともと固定電話の普及率が低かったが、基地局の設置で済む携帯電話の登場で、一気に情報化が進んだ。社会的信用の低さから、料金引き落としのための銀行口座を持てない貧困層が多いが、プリペイドカード方式での料金納入など、所得の低いアフリカに特有のビジネスモデルも浸透している。

これらの背景のもと、現在のアフリカでICTは天然資源に次いで活況を呈する業種といえる(アフリカにおけるICTに関しては、芝 陽一郎(2011)『アフリカビジネス入門』、東洋経済新報社、第2章)。もともと、図1-7で示すように、アフリカは所得水準が低いにもかかわらずサービス業が急速に発達している点に特徴があるが、表1-3からはそのなかで通信業の占める比率が、2000年代にほぼ倍増したことが確認できる。

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アフリカ・ブームの国際政治経済学 1.アフリカ・ブームの現状と背景(2)に続く

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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