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世界各地で「炎上政治家」が台頭する背景-イスラーム過激派との共通点とは

六辻彰二国際政治学者
米国ニュージャージー州での反トランプ抗議活動(2016年5月19日)(写真:ロイター/アフロ)

米国大統領選挙で共和党候補になることが確実になったトランプ氏は、ライバル候補者だけでなく、ヒスパニック、ムスリム、フェミニストなど、各方面に批判や放言を繰り返しています。このような「言いたい放題」のスタンスは、民主党だけでなく共和党内部からも激しい批判を招く一方、既存の政治家にあきたらない支持者を集める原動力になっています。

特定の人々をやり玉にあげることで自分が「炎上」することを厭わず、むしろそれによって支持を集める、いわば「炎上政治家」とでも呼べる存在はトランプ氏に限りません。フィリピン大統領選挙に立候補していたドゥテルテ氏は、ダバオ市長としての治安回復の実績を前面に打ち出す一方、「犯罪者は殺す」などの主張が物議をかもしながらも、結局当選しました。また、ハンガリーのオルバン首相は難民の排斥を叫び、ヨーロッパ各国から批判を招く一方、国内からは支持を集めています。

一般に、特に民主的な選挙が行われている国では、政治家はできるだけ幅広い層から支持を集める必要があるため、拒絶反応を招きかねない、突き抜けた言動を避ける傾向があります。あえてそれを行う「炎上政治家」が各国で台頭する状況を眺めるとき、そこにはISなどイスラーム過激派の台頭とも共通する、世界全体を覆う大きな変化を見出すことができます

「炎上政治家」の共通項

多くの「炎上政治家」には、大きく以下の三つの共通する特徴があげられます。

  1. 特定の人々の権利、人権を否定すること。トランプ氏の「ムスリムの入国を制限する」という主張は、「個人の移動する権利」に抵触します。外国人や異教徒だけでなく、LGBTなど少数者の権利を否定する傾向が強いことも、「炎上政治家」にほぼ共通します。
  2. 外部の権威に「噛みつく」傾向が強いこと。例えばオルバン首相は、加盟国の金融政策や難民受け入れに深くかかわるEU(ハンガリーもEU加盟国)を批判することで、逆に支持者から喝さいを浴びています。
  3. 既存の政治家を否定し、自らを「国民の守護者」と位置付けること。「炎上政治家」は政治家、官僚、大企業経営者などのエリート層(彼ら)と普通の国民(我々)を意識的に識別して、前者を全面的に否定しつつ、自らを後者の代表と位置付け、「我々の社会の“あるべき姿”の回復」を掲げることで支持を広げる傾向があります。

その際、多くの国民が関心をもちながらも従来の政府のもとで解決されなかった問題に、一刀両断の方針を打ち出すことが珍しくありません。治安が悪化するフィリピンで、超法規的措置を用いてでも犯罪集団を取り締まるというドゥテルテ氏の手法は、その典型です。

「炎上政治家」が台頭する背景

このような「炎上政治家」の台頭は、世界を取り巻く情勢によって促されてきたといえます。なかでも貧困や格差などの社会問題は、大きな背景として無視できません。

図1で示すように、1990年代以降のグローバル化にともない、先進各国では格差が拡大してきました。

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ただし、総じて先進国の格差は開発途上国と比較して小さいため、ここからは開発途上国での格差の大きさをも推し量ることができます。2008年のリーマンショックに端を発する世界同時不況と、それに続く世界経済の不安定な状況は、それに拍車をかけています。

社会心理学者のエーリッヒ・フロムによると、人間は成長が阻まれるとき、精神的な危機に陥りやすく、攻撃的、排他的、権威主義的なマインドが生まれやすくなります。この観点から、フロムは著書『自由からの逃走』において、第一次世界大戦に敗れた後、当時「世界で最も民主的」といわれたワイマール憲法を導入しながらも、多額の賠償金や軍備の制限などを課されていたドイツで、世界恐慌を契機にナチズムが急速に台頭したことを説明しました。

現代の世界に目を転じると、格差が拡大するなかで、攻撃的、排他的、権威主義的なマインドが蔓延しやすくなったとしても、不思議ではありません。そして、格差によって生まれるフラストレーションは、SNSなどのサービスやスマートフォンなどの情報端末の普及によって助長されてきたといえます。人間は「他者との比較」によって、初めて自分の状況を認識しがちです。この観点からいうと、情報量が爆発的に増えたことは、世の不公正を可視化しやすくしたとともに、嫉妬や憎悪といった負の感情を増幅させやすくしたといえます。

このような負の感情が蔓延するなか、「炎上政治家」が掲げる「我々の社会のあるべき姿の回復」は、救いの手を差し伸べるものと映るかもしれません。しかし、それは同時に、「我々の社会の“あるべき姿”」からの「逸脱」と映るものへの排撃にも繋がります。外国人、異教徒、LGBT、フェミニストなどが「異分子」と捉えられ、攻撃の対象になりやすいことは、イメージ化された「本来の我々の社会」への回帰を求める社会心理と連動したものといえるでしょう。

イスラーム過激派との共通点とは

ところで、これらの「炎上政治家」の台頭には、イスラーム過激派とも共通するところがあります。貧困や格差などへの不満と憎悪がSNSとスマホで増幅されたことは、ISに数多くの若者を参加させる一因となりました。

もちろん、「炎上政治家」とその支持者の活動は合法的な手続きにのっとっており、テロ活動とは呼べませんが、既存の社会を拒絶する、攻撃的、排他的、権威主義的なマインドに基づく点では同じといえます。

これに加えて、「炎上政治家」とイスラーム過激派は、「人間としての普遍的な権利」を拒絶する志向においても共通します。

冷戦終結後の世界では、社会主義の退潮にともない、「個人の権利」を普遍的なものと捉える傾向が強くなりました。「全ての個人が、それぞれに権利に基づき、自分の意志に従って生きること」を重視すれば、「個々人の立場の平等」という原則にも繋がります。グローバル化は、モノ、カネ、ヒトの自由移動を促しただけでなく、「機会の平等」や「自由選択―自己責任」といった価値観が世界全体に広がる契機にもなったのです。

ところが、すでに述べたように、「炎上政治家」には、「特定の人々の権利を否定する」一方で、「国民の守護者」として、「(イメージ化された)我々の社会のメンバーの権利を守る」姿勢が鮮明です。これは「全ての個人の権利を尊重する」という立場とは対照的です。

イスラーム過激派もやはり、欧米諸国でムスリムの権利が侵害されていることを批判する一方で、女性が教育を受ける権利や性的少数者の権利に対する敵意を隠しません。つまり、イスラーム過激派にも、「人間としての普遍的な権利」への配慮はほとんどみられません

「個人の権利」を拒絶する土壌

「個々人が自分の意志に従って生きる」ことを是とする人権の理念は、女性の権利の獲得を含め、歴史的に人間の解放を促してきたといえます。

しかし、タテマエでは「機会の平等」や「自由選択―自己責任」の原理が普及しながらも、「貧困世帯の出身者は貧困に陥りやすい」ことが指摘されるように、実際にはむしろ、本人の責任でないことによる格差が拡大する傾向がみられます。ところが、「自由選択-自己責任」の原理が貫徹することで、社会的に不利な立場の人には「落伍者」の烙印が押されがちで、本人もその意識を持ちがちです。このタテマエと実際のギャップは、社会そのものへの不満や憎悪を生みやすくします

さらに、どんな原理でも行き過ぎれば弊害があるように、「普遍的な権利」を尊重することが特定少数の利益にしかならないことも珍しくありません。「パナマ文書」の流出が世界を騒がせていますが、グローバル化のなかで急速に広がったタックス・ヘイヴンの利用そのものは、法で認められたものです。したがって、それは基本的に「誰にでも認められた権利」です。しかし、大企業や富裕層と異なり、「普通の人々」は実際にはタックス・ヘイヴンの利用と無縁であるばかりか、前者の租税回避でしわ寄せを喰う立場にもあります

「炎上政治家」とイスラーム過激派のそれぞれの支持者の多くは、このような状況によって不利益を受けた人々、あるいはそれに憤りをもつ人々とみられます。つまり、彼らはいずれも、(少なくとも公式には)「普遍的な権利」を強調する社会に拒絶反応を示す点で共通するといえます。

「炎上政治家」やイスラーム過激派は、この不満や憎悪をすくい上げることで、勢力を広げているとみてよいでしょう。だとすると、彼らがいずれも「普遍的な権利」というタテマエを拒絶して、むしろ人間を属性によって積極的に区別し、イメージ化された「本来の我々の社会」への回帰を目指す点で共通することは、不思議ではありません。この点において、トランプ氏の「ムスリムの入国規制」という主張は、スンニ派以外を排斥するISの「イスラーム国家の樹立」と、さほど差がないといえます。

第一次世界大戦が終結した1918年以後の世界では、やはり女性や少数民族の解放運動が高まりました。しかし、それは世界恐慌を契機にしぼみ、入れ替わりに、いずれも「個人の権利」を拒絶するファシズムと社会主義がそれぞれ勢力を広げたのです。現代では、貧困や格差といったグローバル化の暗部が表面化するにつれ、それを先導した「普遍的な価値としての人権」に対する反動が各地で生まれています。「炎上政治家」の台頭は、イスラーム過激派とともに、この気運を象徴するものといえるでしょう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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