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シリア・ISをめぐるトランプ政権とロシアの距離感:「米国第一」がロシアの利益になる構図

六辻彰二国際政治学者
シリアのIS拠点ラッカ北辺に展開する米兵(2016年11月6日)(写真:ロイター/アフロ)

トランプ外交といえば、メキシコとの国境での壁の建設や、TPP合意の白紙撤回など、国際的な規範やルールにそぐわないものが目立ちます。それらは「米国第一」の方針に沿ったものですが、世界の秩序を作るべき「超大国」としての立場や責任とは、必ずしも一致しないものです。トランプ政権が「米国の負担の軽減」や「米国の利益」を掲げてきたことからすると、国内向けの「打ち上げ花火」が目立つことは、いわば当然かもしれません。

しかし、移民・難民の入国制限やオバマケアの撤廃など、米国内で議論の的になる課題を進めうえで、議会多数派を占める共和党主流派との協力は欠かせません。その結果、トランプ政権も、世界をリードしようとする米国の政府関係者、特に共和党主流派の外交方針と無縁ではいられません

そのため、トランプ外交には、「世界のリーダーシップを目指すこと」と「米国の負担を軽減すること」という、本来は別々の要素が融通無碍に結びついています。そして、それが最もよく表れているものの一つが、トランプ政権が安全保障上の最優先事項と位置づけるIS対策と、それにおけるロシアとの関係です。

共和党主流派との距離感

大統領選挙中からトランプ氏はイスラーム過激派への強硬姿勢を鮮明にする一方、ロシアに友好的な立場を示していました。プーチン大統領とお互いに「強いリーダーシップ」を賞賛し合っただけでなく、シリアでのIS封じ込めでも、ロシアとの協力に意欲をみせていたのです。

少なくとも米国からみたとき、2014年のロシアによるクリミア半島の編入は、既存の国境線を力づくで変更するもので、米国主導の国際秩序に対する明白な挑戦だったといえます。そのため、米国はヨーロッパ諸国とともに、クリミア危機を契機にロシアへの経済制裁を開始。ロシアを脅威と捉える点で、共和党だけでなく、米国のエスタブリッシュメントはほぼ一致します。

しかし、仮に「米国主導の国際秩序」という超大国としての観点を抜きにして、「米国にとっての損得」という「米国第一」の観点からだけで判断すれば、ロシアと取り立ててコトを構える必要はありません。クリミアがロシアに編入されても、「それはロシアとウクライナの問題」と切り捨てた方が、ロシア制裁による損失(例えばロシアとの天然ガス取り引きを制限すること)を受けずに済みます。

つまり、「超大国としてのコスト負担」を嫌がるトランプ氏が、「超大国に挑戦する」ロシアとの良好な関係に抵抗が小さいとしても、不思議ではないのです(もちろん、プーチン氏はそこにつけ込んでいる)。

ロシアとの蜜月の終わり?

ただし、米ロ関係には、既に変化の兆しがみられます

例えば、2月にペンス副大統領はウクライナのポロシェンコ大統領と会談。その際、ポロシェンコ大統領によると、ペンス氏は「米国がウクライナとともにあること」を確認したといいます。

ペンス副大統領は、政治経験に乏しい人材の目立つトランプ政権における、数少ないベテラン政治家で、共和党主流派と呼べる存在です。ウクライナ問題をめぐるペンス氏の発言は、従来からの共和党主流派、あるいは米国政界における一般的な方針に沿ったものといえます。

この背景には、ロシアが米国の国内政治問題化したことがあげられます。

トランプ政権には、ロシアでガス開発に携わった経験をもつティラーソン国務長官をはじめ、重要閣僚にロシアと近い関係が目立つだけでなく、フリン国家安全保障担当補佐官に至っては、公職に就く前に駐米ロシア大使と経済制裁に関する協議を行い、それを正確に報告していなかったことが発覚して辞任した経緯があります。さらに、トランプ氏の「名誉に関わる情報」をロシアが握っているという報道や、大統領選挙におけるロシア当局とトランプ陣営の協力の報道なども相次いでいます。

これらに関連して、トランプ氏はメディアの「ウソのニュース」や、FBIなど情報機関による情報漏洩を批判しています。しかし、コトの真偽にかかわらず、いかにスキャンダルや批判を支持のバネにしてきたトランプ氏といえども、「ロシアと友好的」とみなされることが、国内政治の文脈において、大きなリスクになったことは確かです。これは共和党主流派にとってチャンスが訪れたことを意味します。

IS対策における米国の「超大国ぶり」

ロシアと距離を置くトランプ政権の方針は、シリア情勢やIS対策において顕著です。

シリア内戦に関して、オバマ政権は「反IS」でロシアやそのジュニア・パートナーであるアサド政権と一致しながらも、「内戦終結のための道」としてアサド退陣を求めて、これらと対立しました。

しかし、トランプ政権のように「(米国が直接影響を受ける)難民問題の根本的な解決のためにシリア内戦を終わらせる」ことを優先させるなら、「ロシアの庇護下でアサド政権が生き残ること」を認めることも、IS壊滅のためにロシアと手を組むことも、大きな問題ではありません。つまり、アサド政権の処遇をめぐってロシアと対立しても、「米国第一」の観点からみれば、得られるものはないのです。

ところが、(籠池氏の証人喚問に関心が集中していた)日本ではほとんど報道されませんでしたが、3月22-23日に米国務省は68ヶ国の外相を招き、IS対策を協議する会議を開催。ティラーソン国務長官は「IS打倒が米国の最優先事項」と強調し、「IS封じ込めにおける主導権」を内外にアピールしました。

重要なことは、この会議にロシアとイランが招待されなかったことです。

シリアをめぐっては、2016年12月、内戦の当事者に協力して和平合意を働きかけることに、ロシアとトルコが合意。シリア内戦で、ロシアはアサド政権を、トルコはクルド人勢力が勢力を拡大させるのを防ぐためにスンニ派反政府勢力を、それぞれ支援してきました。ロシアが冷戦期からNATO(北大西洋条約機構)加盟国として西側に近い立場にあったトルコと手を組み(あるいはお互いに利用し合い)、IS対策とシリア内戦の終結で主導権を握り始めたことは、「米国第一」の観点からは問題なくとも、米国主導の世界秩序を目指す超大国の立場からは、認められるものではありません

こうしてみたとき、ロシアやイランといった「伝統的な敵対国」を除く多くの国を招き、IS対策の協議を主導することは、西側の超大国として、冷戦期からの米国の行動パターンに沿ったものといえます。ここには、トランプ氏がロシアと距離を置く必要に迫られたことに便乗した、共和党主流派の巻き返しを見出せます。

米国とサウジの関係回復

それと入れ違いのように、トランプ政権は伝統的なパートナーであるサウジアラビアなどアラブ諸国との関係改善に着手しています

今回の会議に先立つ3月18日、サウジのアブドゥルアズィズ国王が日本を公式訪問した直後のタイミングで、同国のサルマン副皇太子がトランプ大統領と会談。トランプ政権による入国制限を「テロ対策」として容認するとともに、両国のパートナーシップの重要性を確認しました

オバマ政権のもとで、米国は長年対立してきたイランとの関係改善を進めました。2015年のイラン核開発をめぐる合意は、その象徴でした。しかし、その結果、イランとライバル関係にあり、米国と長年パートナーであったサウジの米国離れが加速。中東のパワーバランスはさらに流動化したのです。

これに対して、トランプ政権にはイランへの敵視が顕著です。そのため、トランプ政権の誕生は、米国とサウジの関係回復を進める要因になったといえます。スンニ派の盟主を自認するサウジにとっても、シーア派のイランだけでなく、やはりスンニ派の大国で、地域内での影響力を競うトルコが、ロシアとともにシリア内戦の終結に向けて主導権を握ろうとする状況は、好ましいものではありません。

先述のロシアやイランが排除された会議に、サウジなど湾岸諸国も参加しています。これによって、「米国=サウジ vs ロシア=イラン=シリア」という冷戦期からの構図が再び鮮明になったのです。

シリアへの地上部隊増派

このように共和党主流派の意向を反映した外交方針が採用されるなか、トランプ政権はシリア情勢に本格的に関与する姿勢をみせ始めています

IS台頭に対して国連安保理に支援を求めたイラク政府と異なり、シリアのアサド政権は国際的な関与を公式には拒絶しています。それもあって、イラクの場合と異なり、シリアに対してオバマ政権時代の米軍は空爆を中心に対応していました。クルド人中心の反政府勢力SDF(シリア民主軍)への軍事訓練などを行う米地上部隊は、約500名と限定的な規模でした。

しかし、3月10日にトランプ政権は400名の地上部隊の増派を決定。さらに15日に米国防省は、最大1000名をさらに送る計画があることを明らかにしました。

共和党主流派の間では、シリアに地上部隊を増派すべきという意見が支配的でした。今回の決定は、その方針に沿ったものといえますが、そこにはロシアへの警戒もみてとれます。

米国が関与を控えていた間に、シリア最大の激戦地といわれたアレッポが、2016年12月に民間人に多くの犠牲者を出しながらもロシア軍とシリア軍によって陥落シリア内戦でロシア=アサド政権が有利な趨勢にあることが鮮明になりました

さらに2月上旬からは、ロシア軍に支援されたシリア政府軍が、やはりISの拠点であるラッカに急迫。ラッカには米国が支援するSDFも迫っています。しかし、仮にラッカもロシア=アサド政権の連合軍によって陥落すれば、シリア内戦における「勝者」はほぼ確定します。これは共和党主流派にとって見過ごせないもので、今回の増派はこの観点から理解できます。

アサド大統領の「期待」

ただし、トランプ政権が、共和党主流派がそうであるように、ロシアやアサド政権を「敵」あるいは「脅威」とみなしているかは疑問です

地上部隊の増派だけでなく、シリア問題をめぐって、国際的な舞台でトランプ政権がロシアと対立することは珍しくありません。2月28日、国連安保理で、化学兵器使用の疑いからアサド政権に経済制裁を課す決議案が提出されたものの、中国とともにロシアが拒否権を発動したことで成立せず、これに米国は強く非難しました

しかし、トランプ政権はオバマ政権や英仏などと異なり、アサド政権の退陣を明確に求めていません。そのため、アサド大統領自身は、(要請もされていないのに)シリア国内で活動し、さらに増派を決定した米軍を「侵略者」と呼ぶ一方、トランプ政権の外交姿勢への「期待」も示しています

つまり、トランプ政権にとってシリア内戦の重要性は、先述のティラーソン国務長官の発言にあるように、(自らに攻撃を仕掛けてくる)ISの打倒にあります。そして、そのためならSDFなどの現地勢力を支援しますが、シリアの体制や内政をめぐる問題の優先順位は低いままです。言い換えるなら、ロシアの影響力を排し、シリアや中東に新たな秩序を築くという関心はみられないのです。

したがって、アサド大統領のいう「期待」とは、米軍がSDFなどを支援してIS攻撃を進め、それが完了したなら(シリアの内政に口出しせず)速やかに撤退することといえるでしょう。これは米国が超大国として振る舞うならあり得ないことですが、「米国第一」の方針のもとで「余分な」コスト負担を回避するなら、理にかなっています。

「ロシアによる取り込み」のシナリオ

一方、アサド大統領の「期待」を反映してか、ロシアにはシリアにおける米軍の活動を「取り込む」動きがみられます

3月20日、シリアの北部一帯を制圧しているクルド人武装組織YPG(クルド人民防衛部隊)は、ロシア軍から訓練を受ける合意に達したと発表。これに関して、ロシアは沈黙を保っている一方、米国はこれまでに米軍が支援した勢力でないと強調しています

YPGはトルコからの分離独立を目指すPKK(クルド労働者党)から支援を受けているとみられ、シリア内戦では独立を念頭にISと戦闘を繰り広げながら勢力を拡大。PKKは冷戦期からソ連の援助のもと、トルコ国内でテロ活動を続けてきました。そのため、トルコ政府はPKKとともにYPGを「テロ組織」とみなしています。その一方で、YPGとシリア軍はシリア内戦のなかでほとんど戦火を交えていません

ロシアがYPG支援を強化すれば、トルコとの関係が悪化しかねません。その場合、シリア内戦の終結に向けた両国の協議にも影響を及ぼすとみられます。それにもかかわらず、YPGへのアプローチを強めることで、ロシアは従来アサド政権と対立してきたシリアのクルド人勢力の取り組みに着手したといえます。

シリア内戦で優位を示しつつあるなか、YPGを通じてシリアのクルド人社会に対する影響力を強めることができれば、戦後の新体制のプロセスにおけるモスクワの影響力はさらに強くなります(アサド政権に名目上であれクルド人の自治権を認めさせるなど)。ラッカ攻略で、米国が支援するSDFにYPGが先んじれば、クルド人社会における力関係で後者が優位に立つことになります。それは、ロシアが目指す「アサド政権によるシリア支配」を構成する一つのピースになるのであり、そのためにもロシアはなりふり構わずYPG支援の強化に踏み切ったとみられるのです。

「米国第一」によるロシア勝利の容認

トランプ政権の姿勢は、結果的に、このようなロシアの方針を認めるものになり得ます。繰り返しになりますが、トランプ政権は「IS対策として」SDFを支援することには熱心ですが、「アサド退陣」への関心はほとんどみられません。そこからは、IS壊滅のために協力しても、内戦終結後までクルド人の「面倒をみる」つもりがないことがうかがえます

だとすると、IS打倒の後に、仮にロシアが支援するYPGがSDFを吸収したとしても、トランプ政権にとっては大きな問題にはなりません。言い換えれば、対外的な声明はともあれ、基本的に「米国第一」の方針に沿って行動するなら、トランプ政権は将来的にロシアの影響下に収まるかもしれないクルド人勢力を支援し、戦後のシリアにおけるアサド政権の存続を認めることになり得ます。それはシリア内戦の終結を早めるものであると同時に、シリアをめぐるレースにおけるロシアの勝利を意味します。

このシナリオにおいて、トランプ政権はSDFなどクルド人勢力の「ハシゴを外す」ことになります。3月24日、国連の仲介のもと、ジュネーブにシリア内戦の当事者が集い、和平を目指す会議が開催されました。これまで通りアサド政権が「テロ対策」を優先させる一方、クルド人勢力を含む反体制派は「アサド退陣」を求めており、両者の主張は平行線をたどっています。しかし、トランプ政権の立場は、先述のように「アサド退陣」より「IS対策」を優先させるものです。この点において両政権の距離が近いことに鑑みれば、現在支援を受けているとはいえ、クルド人勢力にとって米国との関係は安泰といえないのです。

米国にとっての利益とは

こうしてみたとき、トランプ政権による、シリアにおけるIS対策と、そのなかでのロシアとの関係は、共和党主流派の方針に沿ったものでありながらも、コスト意識の強い「米国第一」の要素も含まれているといえます。それは「ロシアやアサド政権との実質的な連携」に通じます。

数多くの犠牲が出る状況を考えれば、内戦を早期に終結させること自体は、否定されるべきでないでしょう。また、米国が超大国として振る舞うことが、常に最善の結果をもたらすとは限りません。

その一方で、火事場においても自分の利益の最大化を目指すのが政治だとすれば、トランプ政権の方針で米国が得られる利益は、ロシアが得られるものと比べて、過度に絞り込んだものともいえます。少なくとも、トランプ氏のいう「米国第一」が、米国にとって最大の利益をもたらすとはいえません。トランプ氏がそれを自覚しているなら、まさに国民を煽るだけのポピュリストに過ぎず、逆に無自覚であるなら、目の前の利益でしか判断できない、「大統領になるべきでなかった大統領」になります。「米国と付き合わない」という選択肢がない日本にとっては、「他山の石」としてトランプ政権を注視するとともに、その一挙手一投足に右往左往しないことが肝要といえるでしょう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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