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超ハイレベルだった日本選手権決勝の余韻に浸る間もなく、来季トップリーグの概要決まる!

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
パナソニックを破って喜びを爆発させるサントリー松島幸太朗(写真:アフロスポーツ)

サントリーとパナソニックの死闘に酔った日本選手権決勝戦

先月29日に行なわれた日本選手権決勝で、2016―17年度のラグビーシーズンが幕を閉じた。

1つもトライを奪えなかったにもかかわらず、トップリーグを15戦全勝で勝ち抜いたサントリーサンゴリアスが15―10でパナソニックワイルドナイツを破り、準決勝の帝京大学戦も含めて今季17連勝でシーズン2冠を達成。文字通りの「完全優勝」を遂げた。

サントリーの勝因は、パナソニックの堅固な組織防御に対して途中からトライにこだわらなくなったこと――だと個人的には考えている。つまり、一気にトライを狙ってリスキーなプレーを仕掛けるのではなく、着実にキックで地域を進め、連続的なアタックで防御を揺さぶって反則を誘い、それをSO小野晃征が正確なキックで3点ずつ積み上げる。何が何でも勝つという執念の勝利だった。

対するパナソニックは、前半の序盤はサントリーに押され気味だったが、現役大学生トップリーガーのSO山沢拓也が25分過ぎに自陣からチップキックをサントリーの背後に蹴って自ら捕り、そこからスピードに乗って大きくブレイク。さらにキックを蹴って追走するという、スーパープレーを見せて流れを変えた。

その後もトライに近い形を作り出したのはパナソニックだったが、サントリーは執念でゴールラインを割らせなかった。結果的に、キャプテンのSH流大のキックがチャージされてヒーナンにトライを奪われはしたが、これもまた3点ずつ着実に積み重ねる決意をより堅くしただけだった。トライを奪われたことで迷いがなくなったのである。

両チームの“最終決戦”は、いくつものポジションで素晴らしい選手がぶつかり合う豪華な“トイメン対決”に彩られていたが、10番対決もその1つ。日本代表で南アフリカを破ったときの背番号10と、埼玉県立深谷高校在学中にエディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチに惚れ込まれて英才教育を受けた背番号10が、それぞれの持ち味を全開にして戦った。そして、くぐった修羅場の数に勝る小野が冷静にゲームを組み立てたサントリーに軍配が上がり、トライへの誘惑を断ち切れなかった山沢は涙を呑んだ。山沢にとっては、これから世界を目指す上での、最高に効き目のある良薬だと言うこともできるだろう。本当に苦い苦い薬だった。

その他にも、トップリーグでトライ王となったサントリーWTB中づる隆彰と、リオデジャネイロ五輪7人制ラグビーに日本代表で出場したパナソニックWTB福岡堅樹が火花を散らして抜き合うなど、随所に豪華な対決が見られたが、最大の見せ場はサントリーFLジョージ・スミスとパナソニックNO8デービッド・ポーコックという、新旧オーストラリア代表同士の“激突”だった。

80分間を通して倒れては起き上がり、ボールに絡みつき、また倒れては起き上がる。そんなゾンビみたいなスーパープレーヤーが、試合のレベルを一気に引き上げた。何しろ腕一本で相手ボールをもぎ取り、攻守を逆転させてしまうのだ。秩父宮ラグビー場のグラウンドが例年のように砂場と化していた点を除けば、「ああ、こんな試合が日本で見られるなんて……」と感慨深く楽しめた80分間だった。

来季のトップリーグは2グループ制に!

ところが――その興奮と感動が、24時間後には戸惑いに変わった。

30日に、日本協会が来季のトップリーグと日本選手権についてブリーフィングを行なったのである。

来季のトップリーグの日程がどうなるか、実はこの日まで詳細は明らかにされていなかった。

日本ベースのサンウルブズがスーパーラグビーに参入して以来、トップ選手の試合数が急増し、選手のコンディションを維持するのが困難になってきたことや、毎年6月と11月に予定されている日本代表のテストマッチシリーズに代表をできる限りベストの状態で臨ませるため、10月最終週にトップリーグの日程を入れないようにすることなど代表強化サイドからの要望と、トップリーグ参加チームの調整を重ねたためだった。

2月下旬から7月中旬までスーパーラグビーが行なわれることを踏まえれば、国内でトップリーグの日程を組めるのは、猛暑の8月から10月までと、12月、年をまたいだ1月の5か月しかない。その間に、トップリーグ参加チームが要望する「15試合」をどう組み込むかという、気の遠くなるような作業に日本協会のトップリーグ委員会は取り組んできたのだ。

その結果できあがったプランが、16チームをA、B2つのグループ(現在は仮称でカンファレンスと呼ばれている)に分けて総当たり戦を7試合戦い、さらに違うグループの6チームと交流戦(こちらも仮称)を行なうというシステムだ。

Aカンファレンスには、サントリー(今季1位=以下同)、神戸製鋼コベルコスティーラーズ(4位)、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(5位)、トヨタ自動車ヴェルブリッツ(8位)、東芝ブレイブルーパス(9位)、クボタスピアーズ(12位)、近鉄ライナーズ(13位)、トップチャレンジから昇格したNTTドコモレッドハリケーンズが所属。

Bカンファレンスには、ヤマハ発動機ジュビロ(2位)、パナソニック(3位)、リコーブラックラムズ(6位)、キヤノンイーグルス(7位)、NECグリーンロケッツ(10位)、宗像サニックスブルース(11位)、コカ・コーラレッドスパークス(14位)、豊田自動織機シャトルズ(15位)が所属する。

交流戦では、サントリーと神戸製鋼はコカ・コーラ、豊田自動織機と対戦せず、NTTコムとトヨタは、NECとサニックスと対戦しない。東芝とクボタはリコー、キヤノンと対戦せず、近鉄とNTTドコモはヤマハ、パナソニックと対戦しない。実力の競ったチーム同士の試合を優先するために、今季の上位チームが下位チームと対戦しない構図となったわけだ。

そして、13試合の総勝ち点でレギュラーシーズンの順位を決め、その1位から4位が日本選手権を兼ねたプレーオフに進出。残るチームも、5位~8位、9位~12位、13位~16位の各ブロックに分かれて順位決定戦を戦い、最終的な順位を決める。この順位決定戦は、1回戦で勝ったチームにも負けたチームにも次の試合があるから、これで2試合。レギュラーシーズンと合わせて年間15試合戦うことになる。

来季のトップリーグ、この説明でご理解いただけたでしょうか?

正直な話、私も上手く説明する自信がない。

個人的には、どうせ15試合戦うなら、今季のように16チームが総当たりで戦って順位を決めればいいのにと思うのだが、そうすると、日本選手権を開催した場合に、来来季(18年度)のスーパーラグビー開幕までの強化時間が短くなる。強化日程に配慮して、1週の休みもなく15週間ぶっ通しでトップリーグを開催するという案も議論されたそうだが、これには参加チームが反対した。まあ、台風や大雪で試合中止となった場合の予備日がなくなるわけだから、実現が見送られたのも無理はないのだが、日本選手権を残し、スーパーラグビー開幕までに5週間のインターバルを作ろうとすると、さまざまな壁にぶつかるのが日本ラグビーの現状なのである。

日本選手権は、前身が「NHK杯」という名前だったことが示すように、地上波全国放送が保証されている貴重なコンテンツ。だから、それを失いたくない気持ちはよくわかる。29日の決勝戦が地上波で全国に放送されたのは、ラグビーのプロモーションとして非常に素晴らしいことだとも思う。

しかし、一歩下がって、では日本ラグビーのカレンダーはどうあるべきなのか、という根本的な問題が、一向に考えられていないようにも感じられるのだ。

何より、ラグビーという競技を普及し、ファンを拡大しようとするならば、誰にでも理解しやすいリーグの構造を提示するのが「最初の一歩」だろう。

猛暑のさなかでは、と危惧される8月18日に開幕し、18年1月13日乃至14日に閉幕予定の新しいシーズンが、今季と同じようにエキサイティングなシーズンになることを祈りつつ、日本ラグビーのシーズン構造について、もっともっと議論が深まることを期待している。

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

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