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紋切り型・ステレオタイプの新卒採用(会社説明会)がはらむ矛盾!?

中原淳立教大学 経営学部 教授

経営学習研究所(Management Learning Laboratory)をともに経営しているJ-Centerさんのブログで、昨日、とても嬉しい記事を発見いたしました(心より感謝いたします、ありがとうございます!)。

プレイフルラーニング的会社説明会

http://jqut.blog98.fc2.com/blog-entry-1747.html

J-Centerさんは、某社の人事責任者。新卒採用の会社説明会において、これまで導管型(一方向的コミュニケーション)で行われていた、同社の会社説明会(IT系)をインタラクティブで、プレイフルなものに革新した、という内容をお書きになられています。非常に興味深いことです。

敢えて説明会会場を2つにわけ、参加者をA群・B群、二つの群にわけます。その後、それらの方々を集めてダイアローグ。その後、会社側から話題提供をしたり、ギャラリートークをしたりなどします。

ジグソーメソッドをはじめとする「学びの科学」の知見からインスピレーションを受けた手法が、ここあそこに反映されていることがわかります。

詳細は、上記のブログをご覧いただけますと幸いです。大変興味深い記事です。

何より印象的だったのは、下記のお言葉です。

上記ブログより、下記に少し引用させていただきます。

>「自ら発信できる人材を」とかいっている企業も会社説明会は

>一方的に会社が話をするというのがいまだに主流です。

>「新しい価値を生むイノベーティブな人材を」などといいながら、

>横並びの解禁日を守って他社の同じような会社説明会をやって

>いる企業もたくさんあるでしょう。

>で、その流れを少し変えようということです。

これは、常日頃から、僕も全く同じことを思っていましたので、とても嬉しく思いました。

だってね、学生の立場にたって、あるいは、大局的な視点から、少し、考えてみてください。

僕は採用の研究はしていないので、全くマトをはずしているかもしれませんが、ハタから見ていて、こう見える、ということで敢えてお話します。

まず、学生の視点から。

本当に面白いことを考えている学生、よく考えている学生は、やはり、本気で面白いことを考えている組織、将来のことや今のことをよく考えている組織で働きたい、と願うものなのではないでしょうか?

本当によく考えている学生は、企業が、新卒採用の会社説明会などで、明示的に発しているメッセージ以上のことを受け取っているものです。暗に発している様々なメタメッセージを、ひそかに解釈しているものです。

採用活動で、これまで、企業は、どのようなメタメッセージを、学生に発していたでしょうか?

学習の観点からいいますと、こういうことです。

既存の企業の新卒採用活動は、これからエントリーしてくる学生に、どのような「ヒドゥン・カリキュラム」を提供していたでしょうか? そこでは、どのように振る舞うことが、学習されていましか?

「紋切り型の新卒採用活動」「ステレオタイプの新卒採用活動」では、紋切り型の、それなりの、ステレオタイプの採用しかできないと思いますが、いかがでしょうか?

つぎに、企業の競争優位と採用の関係をめぐる観点から。

「採用活動」も、競争優位を導くための「人材マネジメント」の重要な要素のひとつであろうとするなら、それに合致した独自性が求められます。

しかし、僕は門外漢なので、詳細なデータをもっているわけではないのですが、「一見」したところ、企業の新卒採用活動は、非常に紋切り型に見えます。しかし、それは論理矛盾ではないでしょうか。

本来独自性を持たなければならない「新卒採用活動」が「横並びであるということ」ないしは「外部のベンダーに智慧をまかせた採用を行うということ」は、いかなる組織論的意味をもつのでしょうか?

だって「他社と同じ種類の新卒採用を行う」ということは、競争優位にはつながらないのではないでしょうか。ということは、そういう組織では、採用は、戦略や競争優位とは、「別」に行われている、ということでしょうか。

最後に、ひと言。

敢えて、いつも持ち出している「再帰性」の話をするなら、採用活動に関しても、こういうことがいえないでしょうか?

あなたは、主体的な学生が欲しいという

あなたは、イノベィティブな学生が望ましいという

あなたは、創造性豊かな学生がいいという

そういう、あなたは、どうなんだ?

あなたは、主体的な新卒採用を行っているのか?

あなたは、イノベィティブな新卒採用を行っているのか?

あなたは、クリエィティブな新卒採用を行っているのか?

いつだって、「人にまつわる物事」には、「再帰性」があります。「他人に投げつけたブーメラン」は、必ず、「ブーメランを他者に投げつけた自分のもと」に戻ってくるということです。

上記、僕は採用の研究をしているわけではないので、全く門外漢で恐縮ですが、いつもそんなことを思っていました。もちろん、会社によっては、独自性があり、かつ、競争優位を導くような、素晴らしいリクルーティングがすでに行われているのだと思います。マトをはずしていたら、本当にごめんなさい。

採用活動とは、組織が、外部環境の変化により、「迅速な組織社会化(なるべくはやく即戦力をつくること:Swift Organizational Socialization)」を目指さざるを得なくなればなるほど、とても大切な場面になります。

「どのように育成するか」も大切ですが、「誰を採用するか」も、また大切になり、それらを「トータルに設計すること」が、人材マネジメント上の最大の課題となります(戦略マネジメントの水平統合性ということですね、ややこしくいうと)。

採用は、はじめに組織と個人が相対する場所です。そこは、組織の現状、ビジョンを「伝え」、参入希望者に対して、「理解」を促すための場であるはずです。本当に、非常に、非常に、非常に、重要な場所なのです。

しかし、その場所は、これまであまり、「サイエンス」の力が導入されていたとは、少なくとも僕には思えません(実際に、他の分野と比べて、採用の研究は、とても少ないのです)。そこは、「社会人経験者 / 人材ビジネス経験者の経験論」「これまでの雇用慣行」が支配する領域であるように、僕には思えます。そんななかで、学生は右往左往しているように、僕には見えます。

今後、新卒採用活動、ないしは、会社説明会のような場に関しても、「学びの科学」「経営学習論」「組織論」の知見が、さらに導入されていくことを、心より願っていますし、素敵な「組織と個人」の「出会い」があることを祈っています。

そして人生は続く

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この記事はNAKAHARA-LAB.NET(2013年2月 4日)再掲記事です。NAKAHARA-LAB.NETは、人材開発・人材育成に関する記事が毎日投稿される中原淳のブログです。Yahoo「個人」の方には、しばらくはNAKAHARA-LAB.NETの過去記事の中でアクセスが多かったものをのせていきます。

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http://www.nakahara-lab.net/

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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