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「自ら変わろうとする人」と「変わろうとしない人」:第三者にはどんな援助ができるのか?

中原淳立教大学 経営学部 教授

自ら助くるものを助く

(みずからたすくるものをたすく)

かつて、僕がまだ大学生だった頃、ある臨床の先生がこんな言葉を教えてくれました

臨床の現場で、外側から他人にできることとは、「自らを助けよう、変えようとする人間を後押しすること」くらいである、と。かの臨床の先生は、静かにそう断言なさいました。

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組織文化、キャリア論の研究者エドガー・シャインの著書に「プロセスコンサルテーション」という名著があります。この本は「コンサルテーションとは如何になされるべきか」ということを考える上で、大変参考になる一冊です。

シャインによれば、「プロセスコンサルテーション」とは、

「クライアントとの関係を築くこと。それによって、クライアントは自身の内部や外部環境において生じている出来事のプロセスに気づき、理解し、それに従った行動ができるようになること」

です。

一般に、コンサルテーションとは、有能な専門家がクライアントに対して「こうすればいい」「絶対にこうするべき」といった「処方箋」をだしたり、絶対的な基準に照らして「点検」を行う行為として捉えられている。シャインは、こうした「コンサルテーション像」に「異」をとなえ、反省を迫ったのですね。

プロセスコンサルテーションには、下記のような「強烈な哲学」があります。

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人にできるのは、人間システムが自らを助けようとするのを支援することだけだ。

コンサルタントというものは、問題を解決するために、組織のメンバーはこれこれをなすべきである、と具体的に勧告できるほど、その組織の特殊な状況や文化について熟知していることは決してない。

問題を抱えているのは、クライアントだけなのである。また、問題の複雑さを知っているのもクライアントである。さらには、所属する文化において、何がうまくいきそうかを知っているのもクライアントだけである。

クライアントとコンサルタントは、一緒に状況を診断し、問題が何かを見極め、適切な対策を共同で考え出し、一緒に実現することをめざすべきである。

クライアントが自分で問題を理解し、自分たちがおこなう治療法をとことん考えて見るようにならない限り、彼らが解決法を実行にうつすことはあまり期待できない。

そうであるならば、コンサルタントの仕事とは、クライアントが援助を受けられるような関係を築くことである。

(同書1章要約)

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いかがでしょうか。

僕個人でいいますと、この考え方には、非常に共感できるところが多いです。

僕はコンサルタントではありません。でも、仕事柄いろいろな現場の方々から相談を受けることも多いです。また、多かれ少なかれ大学院における研究者養成というのは、これに似たところがあります。

数少ない経験に照らして考えてみても、少なくとも僕のような状況では、結局他人には、「自分で自分を何とかしようと思っている人間を後押しすること」くらいしかできないのではないか、と思います。

何がイシューかを見極め、問題の複雑さに悩み、何かを生み出そうとする本人と一緒に「考えること」しかできない、のではないかと思うのです。

自ら助くるものを助く

自ら助かることを望まない人、イシューを見極めようとしない人を助けることほど、難しいことはありません。

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この記事はNAKAHARA-LAB.NET(2007年7月6日)再掲記事です。NAKAHARA-LAB.NETは、人材開発・人材育成に関する記事が毎日投稿される中原淳のブログです。Yahoo「個人」の方には、しばらくはNAKAHARA-LAB.NETの過去記事の中でアクセスが多かったものをのせていきます。

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立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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