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「経営層が学ぶ」とはどういうことか?:自分「だけ」学ぶのは学びではない!?

中原淳立教大学 経営学部 教授

組織・経営・学習の研究分野でもっとも進んでいない研究領域とは何か?

こんな問いを投げかけられたら、僕は、真っ先に「経営幹部の学習研究」だと申し上げるでしょう。

新人に関する研究、マネジャーに関する研究はめちゃくちゃある。もちろん、経営幹部の研究も「ない」わけじゃないけれど、前者2つに比べて、量は圧倒的に少なくなる傾向があります。

先だって、ある研究会でIさんが「経営幹部の学び」に関するある英語文献(Akrofi, Clarke and Vernon 2011)を紹介してくださいました(Iさん、ありがとうございます)。

文献の要旨はずばりワンセンテンスでいうと、

経営幹部の学びは、「経営幹部が自ら学ぶこと」だけでは不足であり、「自社の学習環境を整備していくこと」も含まれる

ということです。

つまり「経営幹部の学び」とは、「経営陣だけ」が学ぶことではありません。とかく経営陣の教育というと、ラグジュアリーな椅子にすわって思想や哲学などの高尚なものを学び、経営層だけで大所高所の議論をする!?という勝手なイメージがありますが、それは貴重な機会であるものの、それだけでは不足である、と論文は指摘します。

経営層にとって「学ぶ」とは、「自らが学ぶこと」でもありますが、それは、自社の社員の学びの環境を、自らが整備していくことをさらに含むことが大切です。

ここで「学びの環境」とは「教室」という意味ではなく、ルール、制度、戦略すべてを含みます。つまり、「自分の組織を、従業員が挑戦意欲をもって働きつつ、結果として学びが生まれる組織にしていく」といいうことですね。

くどいようですが、「経営層が学ぶこと」とは自分自身が学ぶことであり、「自社の社員の学びの環境を整備していくこと」です。そのふたつができて、はじめて「学んだこと」になるのです。自らも学び、他も学ぶ。そういう組織をつくりえたとき、経営者は「学んだ」ということになるのだ、というのが興味深いところです。

今日は、経営陣の学びに関する研究の話をしました。「分相応」というものがありますので、僕自身が経営陣の研究をするのは、まだまだ先のことかと思いますが、そこは豊穣な可能性のあるブルーオーシャンのひとつであるような気がします。

そして人生は続く

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この記事はNAKAHARA-LAB.NET(2014年3月18日)再掲記事です。NAKAHARA-LAB.NETは、人材開発・人材育成に関する記事が毎日投稿される中原淳のブログです。Yahoo「個人」の方には、しばらくはNAKAHARA-LAB.NETの過去記事の中でアクセスが多かったものをのせていきます。

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立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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