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グローバル社会とは「説明社会」である!? : なぜ「大浴場」にバスタオルが浮かんでいるのか!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

この数日、ホテル滞在をしています(この記事は2015年2月26日に中原のオフィシャル個人ブログー最下段にURLがありますーに掲載された記事の再掲です)。そこで痛切に今までい以上に感じたことを1つだけ紹介します。それは、グローバル化社会とは何か、ということです。

私見にて端的に述べるならば、

グローバル社会とは「説明社会」です。

それは「わたしたちにとっての常識」を「前提」とせず、ひとつひとつ、常識を共有しない異なる人々に、説明をしなければならない社会

ということになります。

別の言葉で申し上げますと、

わたしたちは「あうんの呼吸で感じあうこと」「背中で語ること」「空気を読んで行動すること」から脱しなければならない

ということです。そのことを、宿泊しているホテルの大浴場の湯船に散乱している「大きなバスタオル」を見ながら、痛切に感じました。

読者のみなさんの中には、大浴場の湯船に、なぜ「大きなバスタオル」が散乱しているか、不思議に思う方がいらっしゃるかもしれません。

一般に「大きなバスタオル」は風呂からあがったあとで用いるものであり、しかも、湯船には普通つけません。しかし、それが「わたしたち」のもっている「常識」です。

いま、僕の滞在しているホテルには、今、たくさんの外国人の方が宿泊しておられます。彼らには、そもそも、その「常識」は持ち合わせていません。

ですので、部屋から2つのタオルを大浴場に持ち込み、小さなタオルと大きなタオルのうち、どちらをどのように使って良いか、わからないのです。

結果が、大きなバスタオルを大浴場に持ち込み、湯船につけ、そのまま帰ってしまうことになります。

誤解をさけるために申し上げますが、ここで、僕は外国人の方々のふるまいを責める気にはなれません。そりゃ、驚きはします。だけど、この状況ならしょうがないだろうな、と思います。

もちろん、風呂場には、風呂場でやってはいけないことの、たくさんの掲示物や禁止事項が、たくさんの言語で書いてありました。でも、みなさんは、海外にいったとき、同様の掲示物が風呂場やプールにあったとして、そうした掲示物をご覧になるでしょうか。少なくとも僕は、たぶん、見ません。

日本人はお客さんのうち2割くらいはいらっしゃいますので、その2割の日本人をみて観察学習することも不可能ではありません。ですが、観察といっても、裸の他人をジイッと中止することもなかなか難しく(笑)、観察学習から学べることには限界もあります。

要するに「理解すること」、そのために「説明してもらうこと」が必要なのです。

このホテルでは、ここを泊まる外国人の方々に「説明」していないのです。2種類のタオルが存在していること。それぞれがどのような目的で存在しているかについても説明していません。だから、そうした出来事がおこります。

実際、同行しているアメリカ人の先生も、風呂場で僕に質問を投げかけてきました。

「じゅん、なぜ、タオルが2個あるんだ? 風呂には、どっちのタオルをもっていけばいい? 小さいのか? わかった、わかった。で、小さいタオルでは何をすればいい? 隠すだって、何を隠すんだ?(笑) 洗うときにも使える? そうか」

隠す?(笑)

誤解を恐れずに申し上げますと、わたしたちが生きる、これからの社会は、「あうんの呼吸」「背中で語る」「空気を読む」を「期待」していられる社会ではないように思います。

つまり、わたしたちの常識を、ひとつひとつ、相手にわかりやすいようにかみ砕いて説明しなければならないのです。

だから「説明社会」です。

今日は「大浴場」に「大きなバスタオル」が浮かんでいるという、わたしたちにとっての非常識から、グローバル社会とは何かを考えてみました。

わたしたちにとっての「非常識」を、それを共有しない人々の個人的資質に原因帰属してしまえば、そこで「思考停止」です。僕はそれを知性的な態度とは思えません。

おそらく必要なことは、いかにわたしたちの環境を変えていけるのか、ということのように思います。

オリンピックに向けて、こうした出来事はさらに増えることが予想されます。わたしたちは、いかに説明をつくすことができるでしょうか。

そして人生は続く

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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