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「引き際」とは「舞台」を移動することである!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

「引き際」の研究って、いつか、やってみたいな

昨日の夜は(このブログ記事は2015年5月14日 中原個人ブログからの転載です)、東京大学i.schoolと雑誌「AERA」がコラボして開催されたイベント「第1回未来フォーラムi.school×AERA :学び直す、学び続ける」に、不肖中原も、パネラーのひとりとして参加させて頂きました。

お声がけいただきました工学系研究科の堀井秀之先生、AERA編集長の浜田敬子さん、パネラーでご一緒させていただきました吉見俊哉先生、太刀川英輔さん、為末大さん、森健志郎さん、その他、会場におこしいただきました皆様には、この場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。

さて、このパネルセッションでは、様々な方からいろいろな角度で「学び」に関するお話をいただき、僕自身も、非常にインスパイアされました。個人的にもっとも印象深かったのは、アスリートの為末大さんの「引き際」に関するお話でした。

為末さんは34歳で陸上を引退なさったそうですが、

「そのとき、何がきっかけで引退を決意なさったのですか」

という緊張感あふれる質問が、会場から投げかけられました。

この問いに対して為末さんは、

「スタジアムに入ったときの歓声が自分以外に向けられる声の方が大きくなったこと」

そして

「自分が自信をもっていた第一ハードルのタイムを、後続する選手に抜かれたとき、引き際を感じた」

とおっしゃっていました。

ICレコーダをもっていたわけではないので、一字一句同じではないのですが、その種のことと感じます。

その後、為末さんは、試行錯誤をしながら、それまでのご経験を活かしつつ、まさに軸足を他に移しつつ、今は、スポーツコメンテーター・タレント・指導者としてもご活躍です。

研究にも深い関心をお持ちだとのことで、非常に印象深い活動をなさっていると伺っております。

この話を伺って、僕は、深い感銘を受けました。

アスリートとビジネスパーソン、他の専門職は全く異なるところもあるのですが、複雑化・大規模化する社会の中で、確実に「職業のアスリート化」は進んできており、ここで為末さんが経験なった「引き際」は、これからを生きる人々にとって、今までよりも身近になると感じたからです。

思うに「引き際」とは、それまで活躍していた舞台から「退くこと」を意味しません。

「引き際」とは、「次の舞台」を創り、「それまでの舞台」退くことなのです。「舞台を降りる痛み」と、「新たな舞台を創る痛み」をともに感じつつ・・。

引き際が「人生の引き際」ではない限り、引き際とは「舞台」の移動なのです。

そして「引き際」には、よく言われるように、誰もがホレボレするような「美しい引き際」と、「醜い引き際」があります。

最近、思うのは、そうね、、、一般論として言わせてもらいますけど、

世の中には「醜い引き際」が充ち満ちているよね(泣)

要するに「しがみつく」

もう使命を終えているのにもかかわらず、新しい舞台を創ることをさけて、スポットライトのあたらない舞台から降りようとしない。

深い自戒をこめて、いつか自分がそうならないように決意しながら、そう思います。

加齢は「誰かの問題」ではなく「みんなの問題」です。これは「誰かの問題」ではなく、いつかは「僕の問題」にもなる。

近いうちに、「引き際の研究」にも、ぜひチャレンジしてみたいなと感じています。ま、貯めている研究やら、書いていない原稿が「腐る」ほどある中で、「どの口が、新しい研究をやりたいって言ってっいるって?」と便所スリッパで「カンチョー」されそうだけれども。

よい引き際を迎えたいものですね。

そして人生は続く

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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