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論理的文章に「箸休めワード」は要らない!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

ちょっと前のことになりますが、大学院生の論文指導をしているときに、気になったことが1つありました。

それは、何かと申しますと、

彼らの書いている論理的文章(要するに論文)の中に、いわゆる「箸休めワード」が散見すること

なのです。

「箸休めワード」と申しますのは、ワンセンテンスで申し上げますと「前後のつながっていないロジックを強引につなげる接続語」です。

具体的には、

「話をもとに戻すと・・・」

「このトピックの途中ではあるが、いったん・・・の話題にふれておくと・・・」

「ところで・・・の話題ではあるが・・・」

とか、そういうセンテンスになるのでしょうか。たぶんもっとも強引なワードは「閑話休題」でしょう。「閑話休題」をおくことで、「これまでの論理」をぶっちぎり、別のロジックをそれ以降で展開することができます。自戒をこめて申し上げますが、私たちを「箸休めワード」を「あまりつながりのよろしくない前後の文脈」に挟み込むことによって、何とかロジックをつなげようとするものです。

やや戯画的に描き出しますと、こんな風になります。

ーーー

Aは・・かくかくしかじか、にょろにょろ、ほにゃらら・・Bである

Bは・・かくかくしかじか、にょろにょろ、ほにゃらら・・Cである

ところで話を元に戻すと

ところで、AにはDも関連していることは言うまでもない

ーーー

わかるかなぁ(笑)。

ここでは、前段では三段論法を用いて、A=Cであるという論理展開を行っているのですが、筆者は「そういえば」AにはDも関連していることを思い出しました。しかし、文章は進んでしまっているので、Aの話に戻るのはなかなか難しいものがあります。そこで用いられるのが「箸休めワード」です。無理矢理「ところで話を元に戻すと」というワードを挟み込むことによって、Aに戻ります。

こうした論理展開は、多くの学術論文では、分野にもよるでしょうが、まず用いられることはありません。レトリックを駆使する分野もあるのでしょうが、少なくとも僕の研究分野では「皆無」といってよいと思います。

なぜなら、一般に

論文とは「1ミリのロジック破綻」も許されない精巧な「論理のブロック」のようなもの

だからです。

一概にはいえませんが、論文とは、

「あー、こんなに、論理が流れちゃってかしら。気づいたら、仮説提示から結論まで、いつのまにか、ボートがたどり着いちゃっておりましてよ、ウフ」

という感じの1ミリも無駄やスキもない文章なのです。

論理に論理を積み重ね、問題関心から結論までを「一筋の線」でつないでいきます。「気づいてみれば、いつのまにか、結論にたどり着くがごとく」論理をスムーズにつないでいかなくてはなりません。

だから、論文を書いていて「箸休めワード」があったら、その前後を読んでみてください。100%ではないですが、そこに論理展開の危うさが隠されていることがままあるものです。

また、論文を書いていて箸休めワードを用いたくなったら、逆にご用心です。そこには筆者は薄々感じているような「論理の破綻」「論理のつながりの薄さ」が見え隠れすることが多いものです。しょうもない知識ですが、これが僕がご紹介できる実践知のひとつです。

閑話休題!(笑・・・これも箸休めワード)

今日は「箸休めワード」のお話をしました。このことについては、かつて「論文とビジネス書の違い」という記事で紹介したことにゆるく関連している内容です。

ビジネス書の文章構造を考える:「ビジネス書」と「論文」は何が違うのか?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20140109-00031378/

ここでも書きましたように、論文とは「One Paper, One Conclusion(1つの論文には、1つの結論のみが許されます)」。

べつの言葉で申し上げますが、論文は「、「フォーカスを徐々にしぼりながら、最後の結論の1点に至ること」が求められます。

一方、ビジネス書は、僕の私見ですが「いくつかのクラスター」を寄り道しながら「ノンリニア」に進行する文章に見えます。

まぁ、ブログも後者ですね、圧倒的に。

というわけで(箸休めワード)

論文に「箸休めワード」があったらご用心!

そして人生はつづく 

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載された2015/09/25の記事に、加筆・修正を加えたものです)

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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