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頭はいいけど部下がついてこないリーダーの「共通点」とは!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

世の中には「あいつ、頭いいけど、部下はまったくついてこないんだよなー」という残念なリーダーが36000人ほどいらっしゃいます。ソロプレーヤーとしての力量、馬力は申し分ない。しかし、部下をつけると、「アチャパー」と思わず言ってしまいそうになるくらい、人がついてこない。そういう残念な状況というのが、日本全国1万カ所くらいでおこっています。

「あいつ、頭はいいけど、人は全くついてこないんだよなー」という状況で、もし、その人がリーダーをすることになると、だいたい、その後のプロセスは、こんなところかと思います。

だいたい、こんな感じで、「頭のよいリーダー」はつまづく。

1.目標共有不足

本人は「頭がいい」ので、「人はみな、1を聞けば10動く」と思っている。少しだけ目標を伝えれば、部下は、みな、わかって、ただちに動くと思っている。しかし、そんなことはない。「目標の腹落とし」に失敗し、チームで目標を握れない。

自分に相当自信があるリーダーの場合には、「オレの背中についてこい」とだけいい、言葉不足に陥ることが多い。でも、だいたい、リーダーは忙しい。メンバーからみれば「見て欲しい背中」は、いつもいない。

2.メンバーの頭のなかには「3つの?」が生まれる。

目標や意義が腹に落ちていないので、「主体的」には動けない。意義や理由や全体像がわからないのに、自分で判断して、自分で動くのは不可能。よって、「3つの?」がメンバーの中に生まれて、主体的に動こうとしない。

「これ、なぜ、やるんですか?」

「やるのはいいですけど、他の仕事はどうすんですか?」

「なぜ、私がやるんですか?」

3.「俺様勝ちパターンの横展開」と「メンバーのため息」

メンバーが主体的に動けないので、本人の「成功パターン」を、そのまま、やらせようとする。あるいは、自分でシナリオをすべてつくって、事細かに指示する。本人は「頭がいい」ので、「本人のやり方がベストで、他に方法はない」と思っている。

メンバーには「ため息」がもれる。

「どうせ、あの人は、答えを、自分で持っているんじゃないですか!」

「最初から答えが決まってるんじゃないですか?」

4.メンバーの「初期反発」とリーダーの「ため息」

メンバーには、押しつけられた「本人の勝ちパターン」をまわすスキル・能力・パッションが不足している。メンバーはリーダーと同等のスキル・能力・パッションをあたりまえだが、持ち合わせていない。よって、ギクシャクして動かない。ないしは、動いてみても、なかなか成果はでない。

リーダーは、だいたい、こんなため息をつく。

「なんで、こんなにオレが熱い思いでやっているのに、メンバーには、それがないのか?」

スキルや能力が不足とラヴェリングするのは難しい。たいていは「パッション」や「熱」のせいにする。

5.しょうがないので「恐怖政治」か「巻き取り」

「答え」を教えてやっているのに動かないので、リーダーはいらいらしてくる。やむなく「恐怖政治=叱りつけて無理矢理やらせる」か「巻き取り=部下がやるべき仕事を自分、ないしは、自分の右腕の部下で巻き取ってやってしまう」かしかなくなる。

6.「メンバーに一揆勃発」か「メンタルダウン」

「恐怖政治の効果」は長くはもたない。たいてい、何かのきっかけで「一揆」が勃発する。

「巻き取る」にしても限界がある。次第に本人、ないしは、本人の周囲で右腕になる存在(仕事を任されまくっている人)がメンタルダウン

'''

7.やむなく「脱線」'''

「戦線離脱」・・・「あいつ、頭はいいけど、人がついてこないんだよね」というセリフが周囲からでることになる 

いかがでしょうか。

あなたの周囲に、このステップに陥っているチームはないですか?

えっ、6ステップめ?

結構、やばいかも(笑)。

もちろん、こんなに線形に物事が進むわけではないですし、すべてのステップが必要なわけではないのですけれども、僕が数百人の現場マネジャーの方々にヒアリングさせていただいて、現場でおこっていることをエイヤっと定性的に独断と偏見でまとめると、こんな感じです。

「あいつ、頭がいいんだけど、人はついてこないんだよな」

嗚呼、このセリフほどもったいないものはありません。「つまづき」を経験し、戦線離脱する前に、こうした「頭のよい人」には、「人を率いる経験」を「前倒し」て行っていただく方がよいと思います。

ややトートロジカルな物言いになりますが、結局、

リーダーシップを学ぶためには、リーダーシップを生み出す経験をするしかない

からであり、その経験を通じて、多少スパイシーであっても、きっちりフィードバックをしてあげることが重要であると思います。

「おまえさ、頭がいいけど、このままいくと、近いうちに限界が生じるよ。どっかで、今の自分をなおさないと、頭打ちになっちゃうよ。おまえ、頭はいいけど、人はついてこないよ。」

この国に、さらに多くのリーダーシップが生まれることを願っています。もともと勤勉で、しかも真面目な人が多い国です。

「頭はいいけど、人はついてこない人」を少しでも減らせれば、望ましい未来が待っているかもしれません。

そして人生はつづく

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に2015年12月2日に掲載された記事の再掲です)

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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