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人を動かすための、たった「2つのやり方」!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

人を動かすやり方には、大きくわければ2つのやり方があります。「恐怖モード」と「信頼モード」のふたつです

今日は、これについて論じてみましょう。

第一の「恐怖モード」は、ワンセンテンスでいえば、動かしたい人間の「生存不安(サバイバル・アンザイエティ)」をあおりながら人を動かす方法です。何らかの恐怖や権力を背景にして、意味を強制したうえで、罰などの外的報酬を用いつつ、人を動かします。

もうひとつのやり方は第二の「信頼モード」

信頼モードは、動かしたい人間とラポールを気づき、本人の「動きたい思い」を最大限に利用した上で、さも本人自身が、そのことをえらびとったか」のように振る舞い、動かします

信頼モードの方が、恐怖モードよりも効果は高いし、持続可能で、穏便なのでしょうけれど、すべてがすべて物事を信頼モードで動かせるわけではありません。「時には、やむをえず恐怖モードを用いざるをえない場合もある」というのが、世の中の「なかなかに割り切れないところ」です。世の中、「割り切れること」には真実はないものです。

しかし、先に述べましたように「信頼モードの方が、恐怖モードよりも効果は高いし、持続可能であること」は、しっかりと心にとめておく必要があるようです。

信頼モードに必要な原資は、動かそうとする本人とのあいだに気づかれる「信頼」がなくてはなりません。信頼を失っている状況では、後者が駆動する余地がないのです。しかし、いったんそれが駆動すれば、信頼モードは「パワフル」です。

ところで、先日、某所で開催された研究会で、「信頼モード」について考えさせる、下記のビデオをご紹介いただきました(感謝)。

僕は乗馬や競馬のことは全く知らないので、妥当な紹介ができるとは思えませんが、このビデオは、生まれてはじめてクラをつける若馬の調教のビデオだそうです。

世界的に有名なモンティ・ロバーツさんという調教師の方が、わずか30分で、若馬にクラをつけ、最後には騎手をのせてしまいます。わずか30分で若馬をこのように調教するというのは「神業」なのだそうです。

生まれてはじめてクラをつけられる若馬にとって、「クラをつける」というものは、トラウマティックな出来事だそうです。

一般的には、ムチで叩き、若馬を数日にわたって徹底的に痛めつけて、反抗する気を失わせたところでクラをつけるのだとか。要するに、恐怖モードですね。通常は、無理矢理クラをつけ、騎手を乗せてしまうのだそうですが、ロバーツさんは、そうした方法はとりません。

馬に優しく話しかけ、恐怖を感じさせないようにします。そのうえで、馬が興味をひくものによってくる性質をうまく利用して、クラをつけるのだそうです。

30分ほどのビデオになりますが、ぜひ、ロバーツさんと馬の関係の変化をご覧頂ければと思います。「信頼モード」で、馬に寄り添い、馬の行動を変化させていきます。

今日は週明け早々、「人を動かすこと」について書いてみました。

あなたの周囲では「恐怖モード」が駆動していますか? それとも「信頼モード」ですか?

そして

あなたは「恐怖モード」で動かされたいですか? それとも「信頼モード」ですか?

そして人生はつづく 

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載された2015年2016年2月1日の記事に、加筆・修正を加えたものです)

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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