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新入社員の皆さんに贈る「社会人ワクチン」!? : リアル職場は「キラキラ社員」だけじゃない!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
新入社員(写真:アフロ)

3月も折り返し地点に近づき、僕の所属する研究部門にも新たな年度が迫っています。

4月から研究室・研究部門を去る仲間、別の地域で新たな生活をはじめる仲間。

そして、研究室・研究部門の正式なメンバーとして、同僚として働き始める仲間。

3月末から4月にかけては、様々な「変化」が矢継ぎ早に生まれます。

企業の人事・人材開発の方々は、おそらく数週間後からは、「怒濤の新入社員研修」でしょうか。まことにお疲れさまです。長期宿泊用のキャリーバックを引きずって、本社・地方・ホテルなどを回られる様子が、目に浮かびます。

今年新入社員になられる皆さんは、今、どんな面持ちで、4月新年度を迎えてようとなさっているでしょうか。

新たな生活に対する期待と、少しの不安。

今日は、そんな新社会人の方々に、これからどんな生活が待っているかをお話したいと思います。ここで書くことは、もしかしたら、これから目にするであろう世界の「ワクチン」になるかもしれません。ここでは、「社会人ワクチン」と呼びましょうか?(笑) そんなことを願いなら、これを書きます。

4月新年度。

新入社員の方々が、これから数週間ー数ヶ月にかけて体験するのは、「ぼんやりと霧のかかった世界」です。学問的には「不確実性」と形容されますが、要するに「霧のようなもの」です。

新たな組織において、何を自分が期待されているのかは「霧の中」。どのような役割を担うことがコレクトなのか、答えは「霧の中」。それは、どこにも書いてありません。自分のいる職場はどういう人がいるのか、誰がキーマンなのか。そういう人間関係すらも「霧の中」。それもどこにも書いてありません。

これまで教育機関では、カリキュラムや学習指導要領という風に、学ぶべきこと、行動することに「一定の枠組み」がありました。しかし、大人の世界には「一定の枠組み」はありません。場合によっては、あなた自身が「枠組み」を創ることを求められます。

要するに、新たに組織に参入する人々にとっては、「行動・認知の準拠・拠り所」となるような情報が「見えません」。それは、まだ「ぼんやりと霧のかかった世界」にあります。

しかし、4月そのときの段階では「見えないこと」をまったく恐れる必要はありません。みんなそんなものだから(笑)。

「ぼんやりとした霧」を疎む必要もありません。

大丈夫、いずれ、いやでも、わかってくるから(笑)。

あわてない、あわてない。

要するに、新規参入者にとって、これからの数ヶ月は

「何がなんだか、よく、わかんない世界(笑)」

を生きることなのです。

さらにいうならば、

「何がわかんないんだか、よく、わかんない世界(笑)」

といってもいいかもしれません。

ちなみに、悪のりすれば、いくらでも無限遡及できます。

「何がわかんないんだか、よく、わかんないことすら、わかんない世界(笑)」

もう、やめなはれ。

でもね、今は職場の中核にいるあの先輩も、非常に仕事ができそうな、あの管理職の皆さんも、みんな、最初は「何がわかんないんだか、よく、わかんないことすら、わかんない世界」を生きていたのです。

今は有能に見えるあの人も、かつては「霧の中」でした。

こうした「ぼんやりとした霧をはらす役割」は、まずは「組織」にあります。

新規参入者が「行動・認知の準拠・拠り所」を見いだせるよう、オリエンテーションを実施したり、作業をともにしたりします。こうしたものを理論的には社会化戦術といったりします。

しかし、当然のことですが、「ぼんやりとした霧をはらす役割」を組織だけに任せるわけにはいきません。

新規参入者は、周囲の様子を見ながら、自らアクティブに組織・環境に働きかけ、この「ぼんやりと霧のかかった世界」の「濃霧」をといていかなければなりません。もちろん、すぐには難しいと思いますし、あまり性急すぎるとヘタを打ちます(笑)。

あなたが濃霧の中、車を運転するとき、トップギアをいれてアクセル踏み込まないでしょう?

あわてない、あわてない(笑)

少しずつ少しずつ、霧をかきわけていく。組織・職場の重要なメンバーを見極め、既にある関係をうまく読み、少しずつ少しずつ、「行動・認知の準拠・拠り所」を探していくということになります。

「ぼんやりと霧のかかった世界」にも、いつかは「晴れる日」がくるものです。

そして、

「何がわかんないんだか、よく、わかんない世界(笑)」にも、一定の論理があるものです。

そんな霧をかきわけていく数ヶ月が、これから続きます。

大丈夫、晴れぬ霧はありません。

あわてない、あわてない。

霧の向こうに広がる世界は、自分が組織参入前に思い浮かべていたような「パラダイス」ではないかもしれません。

そこには、組織が抱える「生々しいリアリティ」が存在しているはずです。

たとえば、皆さんが就職活動で出会ったたいていの社員は「キラキラ」していたはずですが、皆さんが働き始める職場には「キラキラ社員」ばかりではありません。いわゆる「働かないオジサン」もいますし、「いつもぶーたれてる人」もいます。

でも、それが「社会」です。

むしろ、就活という特殊な空間で見ていたものは、誤解を恐れずいえば「社会」ではありません。

採用や就職の最前線には、企業は「自社の社員の中でも、最もキラキラした社員」をあてがうものだから。それは「飾られた空間」です。そして、「リアルな職場」には、様々な人々がいて、いろんな意見をもち、時には衝突しあいながら、今を生きています。そこには、非常に「生々しいリアリティ」が存在しているはずです。

でも、大丈夫です。

どこも、そんなものだから(笑)。

むしろ、組織というものは、どこでも、似たり寄ったり、おんなじような問題を抱えています。

だから「うちは特殊」と性急に思わないで下さい。

''「わたしだけが、ババをひいた」とすぐに結論づけないでください。'''

もしかしたら、「こんなはずじゃなかった」と嘆いているかもしれません。

「もっといい場所が本当はあったんじゃなかろうか」なんて思っているかもしれません。

でも、たいていの場合、組織は、どこも似たり寄ったり。

「隣の芝が青く見えるだけ」のことも多いものです。

皆さんには、こんな言葉をお贈りします。

'''「君たちは社会に出て、良き職場や良き上司に恵まれて、社会生活を送るかもしれない。しかし、多くの場合はそうではない。有能だとは思えない上司。自分にあわない仕事内容。さて、どうする? 本当に"かしこい"というのは、そこから始まるのだ」

(甲田和衛氏の言葉「生涯学習と自己実現」より引用)

'''

今こそ、「本当のかしこさ」を発揮する時なのかもしれません。

それは学校にいたときに発揮していた「かしこさ」とは、少し違うのかもしれない。

「本当のかしこさ」を発揮する、終わりなき旅を、ぜひ愉しんでください。

あと2週間後に、新しい生活がはじまります。

Enjoy yourself!

そして人生は続く

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」の2014年4月 1日の記事に、加筆・修正を行ったものです)

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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