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「ビジネス書」の書き方入門!? : ビジネス書の文章の秘密とは!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

今日のお題は「論文」と「ビジネス書」とは何が違うのか?

です。

「全く違う、別物じゃん」、と言われると「ハイ、それまでよ」ですね(笑)。

おっしゃるとおり、別物ジロー(意味不明)

話がそれで終わっちゃう。

まぁ、そこはさ、ブログなんで、もう少し辛抱してどうかお付き合いください(笑)。

今日は「ビジネス書の文章構造」を「論文」と対比させることで、考えてみたいと思うのです。

将来、ビジネス書を書きたいと思っている方がいらしたら、もしかすると参考になるのかもしれませんし!?、ビジネス書好きの方がいらしたら、あーそういうことか、と思わぬ発見になるかもしれません。

「論文」と「ビジネス書」とは何が違うのか?

僕が気づいた「論文」と「ビジネス書」の「主要な違い」は、その「文章構造」なのです。

ひと言でいえば、

論文とは「ストラクチャー」にしたがって「リニア」に進行する書き物

です。

その進行は、「フォーカスを徐々にしぼりながら、最後の結論の1点に至ること」が求められます。

具体的にいうならば、

「背景のレビュー- リサーチクエスチョンの提示- 仮説提案- 解決- 結論・考察」

という風に、徐々に問題を絞りながら、最後の1点をめざす。

その営みは、めちゃくちゃ、ストイックです。

「冗長な部分」や、「エッチラオッチラ感」や「寄り道感」はありません。

ただひとつの結論を得るために、一本の道筋を、ただひとつにストイックに駆け抜ける。

それが論文です。

別の言い方をするならば、

「論文とは、One Paper, One Conclusion」

です。

3個も4個も「重要なポイント」があることはありえません。

「One Conclusion」に至るまで、根拠(Evidence)を積み重ねながら、フォーカスしていく、そういうストラクチャーに厳密でリニアに進行するのが「論文」です。

これに対して「ビジネス書」は、「全く違った文章構造」をもっているように感じます。

僕の感覚からすると、

ビジネス書は、多様な読者に共感をもってもらうために

「寄り道」しながら、たくさんの話題をはなしながら「ノンリニア」に進行する文章

のように感じるのです。

まず、ビジネス書には、書籍全体を通じて、主張したい「重要なポイント」がいくつかある。

人が憶えられるポイントなんて、限られていますので、だいたい、3か5か7がベストでしょう。

この「いくつかの重要なポイント」に付随し、それを強化する「話題の集まり」があるのです。

あとは、その「話題の集まり」において「読者の方々が共感を憶えたり」、「読者の方々が腹におちる」ようなエピソードや数字をちりばめつつ、文章が進みます。

その文章は「リニア」に進んでいくというよりは、「ノンリニア」に、たまに「寄り道」をしたり、「道草」したりしながら、いろんな道をとおり、話を膨らませて、書いていくことが求められているように感じます。

ワンセンテンスで申し上げますと、

ビジネス書とは「寄り道・道草」をしながら、話をふくらませて書かれる文章

です。

そのプロセスの中で、多種多様な人々の共感や興味を喚起することが求められています。

この「エッチラオッチラ感」「寄り道感」がビジネス書の特徴です。

話や事例のフックは多ければ多いほどいい。

フックが多ければ、いずれかのフックに、誰かはヒットするからです。

ですので、「ビジネス書」では、様々な話題がちりばめられます。

よって、これに対応して「話を元に戻すが・・・」とか「話がそれたが」とか「閑話休題」という風に「急激な話題転換」を行うような文章が用いられる傾向があります。

これは文章構造が「ノンリニア」である証左のひとつでしょう。そして、おそらく「論文」ではなかなかないのだと思うのです。論文には「話を元に戻すが・・・」「話がそれたが」「閑話休題」とかは絶対に出てこないのです。

なぜなら論文は「リニア」に進行していくので、「急激な話題転換」を行う必要がないのです。「話を元に戻す必要」がそもそもないのです。「話」は予定通り、構造に従って、進んでいきます。「話を元に戻すが・・・」とか「話がそれたが」とか「閑話休題」とかが登場してくる論文を、僕は、この方15年、見たことがありません。

反対に「論文」にはあって「ビジネス書」にないものは、何でしょうか。

それは「文章を構造化するセンテンス」の存在です。

例えば

「以下では、第一に・・・を述べる。第二に・・・を述べる。最後に・・・を述べる」

といったように文章構造を章前に提示するような文章はあまり見られることがありません。

ビジネス書では、構造が「ノンリニア」になっておりますので、こうした「章全体を構造化するような文章」はあまり見られないのかもしれません。

下記に、勝手なイメージ図を書いてみました。

僕のイメージする「論文」と「ビジネス書」の違いです。

「論文」と「ビジネス書」の違い
「論文」と「ビジネス書」の違い

論文は、「すこしずつ範囲を狭めて、One Conclusionに達するイメージ」。対して、ビジネス書は「クラスターを巡りながら、本のテーマを論じているイメージ」ですね。

以上、今日のお話は、「論文」と「ビジネス書」の違いのお話でした。

どちらがよいとか、よくないとか、どちらのクオリティが高いか、低いか、そういう次元の話をしているわけではありません。読者と目的が異なるので、文章構造が変わってくるのはあたりまえのことです。

論文とは、限られた読者(専門家)に対して論証を行う文章。

一方、ビジネス書とは、不特定多数の読者に対して、様々な手段を用いて重要なポイントを感じてもらう文章です。

ただし、おそらく予想なのですが、

「論文をたくさん書いている人が、ビジネス書を書くのは難しい」

と思います。まぁ、書けないわけじゃないけど、書く際にはマインドセットの転換が必要です。

また「逆もまた真なり」ですね。

「ビジネス書になれてしまった人は、なかなか論文は書くのはハードシップ」

かもしれません。

そして、もしビジネス書を書きたいのならば、

1.ビジネス書全体で述べたい主張・ポイントを3、5、7個決める

2.それらそれぞれの主張に関連する事例や数字を集める

3.各主張ごとに事例や数字を配列させ、ひとつのストーリーを創る

4.各主張同士をワンストーリーで結びつける

5.ワンストーリーにふさわしい書籍の「タイトル」をつける

といった作業が求められると思います。

今日の話題は以上です。

どうですか?

皆さんは、ビジネス書と論文、どちらが好きですか?

読んだり、書いたりするの、どっちが得意ですか?

そして人生は続く。

(本記事は、中原の個人ブログ「NAKAHARA-LAB.NET」に掲載されていた記事を、加筆・修正したものです)

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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