Yahoo!ニュース

「就職するには業務経験が必要だが、経験するには就職してなきゃならない」という無理ゲー的就職活動!?

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

就職するには、すでにどこかで業務経験をもっていることが必要だけど、

業務経験を得るには、どこかで一度働いたことがなければならない

という「冗談のようなジレンマ」が、グローバルには「アタリマエ」です。

これに、多くの先進国の若年層がぶち当たり、苦しんでいるのです。

職を得るためには「業務経験」がないとだめだ

しかし「業務経験」を得るためには職につかなくてはならない

小学4年生の我が息子でさえも、これが「無理ゲー」であることは瞬間にわかります。

パパ、これ、無理ゲーじゃん。ふつーにやっても、とけねーよ

しかし、ざっくり申し上げて、欧米などの外部労働市場系の国で、多くの若者が直面している課題が、この「職と業務経験」をめぐるディレンマです。

要するに、求められているのは「即戦力」である。

若者が定職につくためには何らかの業務経験を有しており、こいつ、すぐに使えるな、となっていなければならない。

しかし、業務経験を得るためには、何らかの職について経験をつむ必要がある。

おいこら、一見、矛盾しとるやんけ。

どないせいっちゅうねん、われ。

結論としては、そういう国では、インターンシップやら、NGOやNPOやら、様々な「就職前・職業経験プログラム」が発達するわけですすなわち、「本格的な就職」のまえに、業務経験らしきものを、そうした組織でつむことが求められる。

そして、その中のひとつに「Co operative education(コーオプ教育)」とよばれるものがあるといいます。

先だって、ある研究会で、「コーオプ教育」に関する事例発表を、北九州市立大学の見舘先生がシテくださいました。

これ以降は、文献内に紹介して下さったオタワ大学のコーオプ教育の事例(Jones 2007)と、その理解だけで、危険にもものを書きます。それをご承知のうえ、お読み下さい。

曰く、いわゆる「コーオプ教育」とは、

「学生が、仕事の期間と授業の期間の間を行き来して達成される体系化かつ教育的な戦略」

だそうです。

ざっくり申し上げますと

「大学が学生に提供する職業教育で、しかも、大学と社会を往還してなされる中長期のもの」

として理解できそうです。

ここでポイントになるのは「往還」という部分です。

コーオプ教育では、

「職場で学んだことを教室へ」

「教室で学んだことを職場へ」

ということをしっかり実現しなければならないそうです。

では、コーオプ教育の実際は、どのようにおこなわれるのでしょうか。

たとえば、ある大学で提供されているコーオプ教育では、学生から授業料とは別に650ドルをうけ、希望する学生にコーオプ教育を提供しています。

大学で学生は、15回程度のキャリア開発に関する授業やコンサルティング、職業訓練を受けます。時期は年3回程度だそうです。

職業訓練を受けた学生は、大学が提携する企業で、現場の監督者のもとで、業務経験をつみます。それを何度か繰り返し12週ー18週のプログラムを終える、という立て付けの模様です。

ちなみに、サラリーは所属する学科や配属される職種によって異なるので一概にはいえないみたいですが、学生は月で2000ドル程度のサラリーを得ることもできます。

見舘先生もおっしゃっていましたが、これは日本で普及しているインターンシップとは、全く「別物」です。

たぶんもっとも違うところは、

1.教室と職場を往還するところ

2.大学が長期にわたってキャリア支援を有料で提供していること

3.職場にも「監督者」が割り付けられているところ

です。

インターンシップと申しますと、どちらかというと、

「行ってこいよー! あいあいさー」的に、大学から一方向的に職場におくられる

あるいは

「最近は行ってくることになってるから、とりあえず、ちょろんと行ってこい」

みたいなインターンシップもよくあるとききます。

思慮と経験のある大学はきっちり支援なさっていると思いますが、そういう事例もたまに耳にします。

インターンシップとは、ちょっと、そこらあたりが違うようです。まことに興味深いことですね。

今日は、「コーオプ教育」について書きました(笑)。

これにゆるく関連して、以前、僕は「直接経験をめぐる闘いが激化すること」を、下記のような雑文で書いたことがあります。

ここで書いているのは、職業やキャリア形成において「直接経験」をめぐる闘いが激化するであろう、という予想です。

経験獲得競争社会を生きる!? : 資源化・資本化する直接経験!?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20140202-00032244/

大学の学費とは「別」に650ドルを払う。

もちろん、このカリキュラムで18週とか学んだ場合には、650ドルではおそらく費用は済まないとは思いますが(大学側の持ち出しになる)、それにしても、 

職を得るためには「業務経験」がないとだめだ

しかし「業務経験」を得るためには

職につかなくてはならない

というディレンマを生き抜くとは、そういうことなんだ、と思いました。

日本の現在の就職に関する雇用慣行が、まったく問題がないとは思いませんが、こうした「即戦力志向」の就職は、かなりシンドイものだなとも思います。

もちろん、650ドルを払える学生とそうでない学生はいるでしょう。

そこには「家計の再生産」の問題が微妙にまったりとかかわってきそうです。

日本は、今後、どういう風に向かうかわかりませんが、少なくとも、現在のシステムが綻びをみせ、新たなモデルを模索しているさなかにいるようにも思われます。

そして人生は続く

ーーー

■もうひとつ、こちらの記事もいかがですか?

海外勤務から帰ってきた人が「会社を辞めちゃう」意外な理由!?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20160214-00054389/

「教養」とは「勉強」ではなく「自分を解放すること」である!?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20160504-00057349/

「管理職にしてはいけない人」を昇進させたときのコストと悲劇とは!?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20160429-00057184/

プレイングマネジャーに感染拡大中!?「仕事手放せない病」の治療法!?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20160331-00056040/

「つべこべ言わずとにかくやれ!」的OJTは、いつまで通用するか?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20160308-00055157/

NAKAHARA-LAB.NET(最新の記事はこちらです!)

http://www.nakahara-lab.net/

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

中原淳の最近の記事