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「教える経験の少ない人」が、他人に何かを教えるときに、ついつい、陥ってしまう3つの罠

中原淳立教大学 経営学部 教授
(写真:アフロ)

「教えること」にあまり経験のない人が、他人に何かを教えなければならないときに、最も陥りやすい罠は、「詰め込み」「バラバラ」「一方向」の3つです。

仕事柄、僕は、企業の研修・ワークショップを人よりも多く参与観察しておりますし、多くのビジネスパーソンのプレゼンテーションを、これでもか、これでもか、とみてきました。

これまでたくさんの授業事例やプレゼンテーション(症状!?)をさんざんぱら見てきましたが、「教えることのノービス」がついつい陥りやすい症状としては、この3つといっても、過言ではありません。今日は、この3つの症状をみていきましょう。

陥りやすい罠のひとつめ「詰め込み」!

「詰め込み」とは、そのものズバリです。やたらと学習内容が多すぎる。

たとえば、1時間しか時間がないのに、パワーポイントが100枚ある!

1分に1枚めくったとしても、時間が足りない。だから、パワポをめくりまくる。

これでもか、これでもか。

ひー、まだめくり終わらん。

おぬしできるな。

ほとんど、状況は「ひとり相撲」です。

もちろん、そんな枚数では、もちろん、学習者は、板書をノートに書き写すこともできません。

ひーこらパワポをめくるまくる教授者の前には、「お地蔵さん」か、ないしは「ハニワ」のように固まっている学習者がいるだけです。

次に「バラバラ」!

「バラバラ」も、そのまんまですね。学習内容が多すぎる上に、扱われている学習内容の相互の関係があまり見えない。

話す内容、伝える内容の構造が示されておらず、ただ散漫に情報提供を行っているように見える。

なんで、ここで、この話がでてくるんだろう?

この話、さっきの話と、どんな関係あるんだろう?

このような結果、最後の罠「一方向」が、必然的に生まれますね。

だって、時間がないわけですから、とにかく「一方向的」にしゃべくり倒すしかないんです。

おのれ、こしゃくな、耳の穴かっぽじってよく聞けい

かくして、授業は、「ひー、お代官さま、カンニンしておくれやす的な展開」に(!?)、もれなく陥ります。

つまり、この3つは独立なようでいて、実は、相互に密接に関連しています。

最大の問題は、

「限られた時間の中で、私は、あなたに、"何"を、最も伝えなければならないのか?」

この問いに対する答えが、見出し切れていないということです。

究極「何」はひとつに敢えてしぼってもよいのかもしれません。どんなに絞ったとしても、どうせ、膨らむことの方が多いですので(笑)、いったんは絞りにしぼった方がいい。

いずれにしても「この時間にめざすもの」「この時間の目的」「伝える内容のフォーカス」が決め切れていない場合には「多大な情報」を扱わざるを得なくなる傾向があり、ゆえに学習内容が膨大になり、ひたすらしゃべくり倒すことになる可能性が高まる、ということですね。自戒をこめて注意したいものです。

あべし。

しかし、このような状況は、頭ではわかっていても、ついつい、生まれてしまうものです。

ひと言でいうと

わかっちゃいるけど、やめられない(笑)

目的はフォーカスしているつもりであっても、いつのまにか、善意で、ついつい、あれよあれよ、という間にこうなってしまう。

ですので、今日は最後に、僕の経験上、教材やパワーポイントをつくっているときに、頭に浮かんだら注意が必要な3つのワードをあげておきましょう。

この3つの言葉が、脳裏に去来したならば、パワーポイントをつくる手をいったん休めて、もう一度、「目的」に立ち返った方がよいように思います。

プレゼンをつくるとき脳裏に浮かんだら危険なワードのひとつめは「もったいない」

もったいないオバケ
もったいないオバケ

(ドヘタすぎて、自分でも卒倒しそうになりましたが、僕の記憶の中にある「もったいないおばけ」は、こんな感じ。嗚呼、小生、図工2)

学習内容を「盛ること」は、多くの場合、「よかれ」と思ってやってしまうものなのです。「限られた時間」であり「コストが多大にかかっている時間」だからこそ、有効に活かしたくなる。あれも、これも、それも、どれも、扱いたくなる。

特に「軸」が決め切れていない場合には、そのリスクが高まります。ついつい、よかれと思って、「盛ってしまう」のです。

しかし、

「もったいない」と思って、「盛り込んだ内容」は、もれなく「伝わりません」

悲しいかな、そういうものです。

ふたつめ「あとですね・・・」

この言葉は、自分が「これまで話してきた内容」に「追加」して、何かを話すときに使われます。ただし、「前後の関連性」は薄く、「ちょっと追加してみようかな的」な「プチつながり」のときに、この言葉が脳裏に浮かぶものです。

あとですね・・・・これについてもお話しちゃおうかな

・・・ということなんですよ

あとですね・・・・あれについてもお話しようかな

で・・・ということなんですよ

最後にですね・・・せっかくなんで、これもお話しようかな

・・・ということなんですよ

'''「あとですね病」は、このように無限ループに陥りやすいから、注意が必要です。

'''

「あとですね・・・」のあとに追加した情報は、もれなく、伝わりません。

最後は「話は元に戻りますが・・・」

この言葉は、その日の話題が「複線化」していることの証左です。

ここまでは、あるライン(話題)で話してきたのだけれども、ちょいと、それとは「並列」ないしは「脱線」するラインのお話をして、また元のラインに戻ろうとする。そういう、プチ脱線、プチ浮気的なマインドのときに、この言葉が脳裏に浮かぶはずです。

しかし、教授者は、それを「話題は複線化」していることには自覚的であっても、それが学習者に伝わっているかは、微妙であることの方が多いように思います。学習者の側からみると「話題の複線化」というものは、なかなか認識が困難なのです。

ここでも、マーフィーの法則的?に、ひと言で申しますと、

「話を元に戻そう」と思った場合は、もれなく「戻らない」

多くの場合、学習者は、本筋のラインが何かを見失うこともあるから、注意が必要です。

今日の話は、やや「自爆」的な内容でした(泣)。

かくいう僕自身も「人に教える立場」ですので、こうした状況に陥ることがゼロではありません(ごめんなさい)。他人に物事を教えようと思うときに、陥りやすい罠と、そういう罠に陥ってしまうときの思考パターンについて、自戒をこめて、お話しました。

授業をするとき、プレゼンをつくりこむとき、「もったいない」「あとですね・・・」「話を元に戻しますと」が脳裏に浮かんだら、要注意かもしれませんよ。

「伝えること」とは、「伝えないこと」を決めること

「伝えること」とは、余計なものを「捨てること」

「伝えること」とは「絞ること」

そして人生は続く

(この記事はNAKAHARA-LAB.NETの再掲です。NAKAHARA-LAB.NETは、人材開発・人材育成に関する記事が毎日投稿される中原淳のブログです)

立教大学 経営学部 教授

立教大学 経営学部 教授。経営学習研究所 代表理事、最高検察庁参与、NPO法人カタリバ理事など。博士(人間科学)。企業・組織における人材開発・組織開発を研究。単著に「職場学習論」「経営学習論」(東京大学出版会)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)「フィードバック入門」(PHP研究所)、「働く大人のための学びの教科書」(かんき出版)などがある。立教大学経営学部においては、リーダーシップ研究所・副所長、ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)の主査(統括責任者)をつとめる。

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